名誉回復訴状

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名誉回復訴状           本郷区曙町十三番地           原告 大杉 栄           麹町区有楽町警視庁内           被告 正力松太郎 名誉回復之訴       請求の目的  一定の申立に同じ       一定の申立  被告は大阪朝日、大阪毎日、東京朝日、東京日日、国民、報知、中央、やまと、都、読売、東京毎日、東京毎夕、二六新聞及時事新報、萬朝報に各一回宛題号並に原告及被告の氏名は二号其他は五号の活字にて左の広告を為すべし       謝罪広告  私事今般其身警視庁警視として刑事課長の職にあり乍ら鹿逐ふ猟師山を見ず一意専心只管貴殿の検挙に熱中の余り、其身分職責をも忘却し、思慮分別も仕らず、人も前後も弁へず、図に乗り調子付き大正八年七月十九日都下の新聞記者諸君に対し、貴殿が確かに家宅侵入詐欺取材等の破廉恥罪を犯した事ある旨を公表し其結果都下及び全国の各新聞に其趣旨の記事掲載を見るに至り、甚だしく貴殿の名誉を毀損仕り候事誠に申訳無之頗る慚愧に堪へざる次第に御座候然るに貴殿今回格別の思召を以て右私の罪業一切を御赦免被下候段何共有り難く御体申上様無之候、就ては私に於ても前非を後悔仕り今後は斯かる失態なき様公私共に精々注意可仕茲に謝罪広告仍て如件、頓首再拝           於警視庁刑事課 正力松太郎 大杉 栄 殿  訴訟費用は被告の負担とす       請求の原因  (一)被告は警視庁刑事課長警視なる処大正八年七月十九日警視庁詰の都下各新聞記者に対し其職務の執行にあらずして 一、原告は大正五年以来十数人の商人より米、味噌、醤油等の日用品其他の物品を詐取し 二、又家賃を支払ふ意思なくして住宅を借受け其支払を為さず、一旦家主より立退を命ぜられんか忽ち居直りて立退料を請求し 三、特に現住宅には其家屋を占有中なる家主に無断侵入移住し其立退を請求せらるるや却て立退料を請求したり 四、故に原告が家宅侵入詐欺取財並に恐喝取財をなしたること確実にして警視庁は原告を右事件の被告として告発したれば不日必らず処罰せらるべきものなり細工は流々仕上を見よ との旨虚偽の事実を公然摘示発表以て原告の名誉を毀損したり  (二)被告が右無根の事実を右新聞記者に公表したる必然の結果として翌七月二十日の都下十数の日刊新聞は異紙同文被告の談として盛んに前項趣旨の記事を掲載し  (三)又当然の結果として続いて全国数百の地方新聞に、前同一趣旨の記事掲載を見るに至りたるものなり  (四)原告は当年取つて正に三十五歳深く春秋に富み、久しく文筆を業として多くの著述を有す、又多年社会改革運動家として多少世に認められ、時に或は牢獄の苦を嘗むる事屢々なりと雖も未だ曽て徳を破り人格を傷け敢て知人に背かるるが如き行為ありたることなし  (五)故に被告の故意若しくは過失に因り前記の風説を前記の如く天下に流布さるるに至りたるに付ては、原告の蒙りたる名誉の毀損信用の損害苦痛の程度、蓋し想像も及ぶべからず、従て其回復も到底能ふべからざるものありと雖も、他により以上適当の方法を見出し能はず  (六)加之此儘に打捨て置かんか被告等は愈増長し原告又は他の人民に対し如何なる方法を講ずるやも計り難き事、今回天才画家として有名なる林倭衛氏の二科会入選名画「出獄日のO氏」が単に原告の肖像なるの故を以て警視庁が其撤回を畏怖戦慄せる画家に懇談厳命したるに依つても明なり  故に意恨骨髄に徹したる原告は止むを得ず天に代り甘んじて本訴を提起したる次第に御座候       立証の方法  被告の弁ずる処は、広告文句を争ふの外は官吏に不法行為なしとか職務執行々為なりとか、原告は之れが為めに名誉を毀損せられたることなしとか、又は新聞掲載に就ては、故意若くは過失なしとか位のものにして、今更女々しく此天下明白の事実を否認し敢て「吝な量見」を天下に晒すが如き事断じてあるべからずと存候、而して右抗弁なら原告に立証の責任なしと存候  大正八年九月二日           右原告代理人 山崎今朝彌 東京地方裁判所 御中 <山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>

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