「自分の性状を白状す」

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「自分の性状を白状す」       なるかならぬか茲に研究の材料を提供す  僕の性質は僕にも解からぬ。間違つたの無い処で、僕は問題となり、問題を起し、誤解を招く事を好むらしい。差当つて遣つて見度い事にしてからも、日本国中が沸き返り転り倒る位の疑獄事件被告人となつて、愈々と云ふドタン場に隠し置いたる証拠を出してドンナもんだと無罪になつて見度い事である。其位故、自分の性質を白状する事は僕には非常の国家事業だが、茲は一つ奮発して成るべくザツクバランの処を少々サラケ出し成るべく研究材料に成つて見度い。  僕の上告専門所は性相研究の結果ではなく、経済研究の結果であつたが成程破毀の愉快は又格別である。或時或処で或人と、関西の或弁護士が某夫人に月々五百円の化粧料を費すと云ふ話から、其弁護士が莫迦か悧巧かと云ふ問題が出た時、僕は、其人が其夫人を眺望してアー愉快だナと思ふ愉快が原判決が破毀になつてアー愉快だナと思ふ位の愉快なら、僕と雖も有る金の中からなら、月々五百円位は夫人に奉ると云ふ弁護論をして皆の賛成を得た事がある。併し此位破毀が好きでも、立派に出来てる原判決を見るときは、第一に詰らぬ処に破毀の理由となる欠点がなければよいがナと思ふ。僕は兎角物惜しみをする性質らしい、故に仮令革命政府の執行員に挙げられても僕には到底思ひ切つて旧制度を破毀する事は出来まいと今から案じられる。  僕の親類は親兄弟いとこはとこに至る迄一貫して皆所謂昔時の諧謔性に属してる。内一派は僕の様な種類だが他の一派は世間から、悪るマテ(マテとは正直と遠慮との合計の如き方言)馬鹿丁寧、変人と呼ばれてる。が、ソレで決して野呂間ではなく中には幼時狡猾の異名を取つたマテの兄弟もあつた。僕を一番よく知つてる筈の親達は今でも尚、此子は子供の時分から吝な度胸の小さい人ばか怖がる底根性の悪い子だつたと云ふてる。  兄弟七人親子九人で一家団欒して暮した時分、村の人達が僕の家へ来れば、此処の家の衆の話は禅宗坊主の問答見た様で何だか薩張り解からぬ、何時も変らず気楽ばかり云ふてる、と云ふ事を云ふたもんだ。今時々田舎から親類の者が来れば僕の妻は、あなたの親類はナゼ皆んなアンナ剽軽でせうと云ふ。成程僕等親類間の対話は滅多に正面から、言葉通り考へ通りではせぬ、反語半言ひ串談半分でする。併し僕も僕の親類の或者の如く、昔は話上手で、座敷を持つ為に方々へ招待れた者だ、又話をする事聞く事が好きだった。併し此時分も駄洒落地口語呂落等は好きでもなく上手でもなかつた、態度身振特に真面目腐つて憤慨する処笑はずにトボケル処等が能く人を笑はせ客を呼んだ。  僕の容貌は幼少より終始一貫して忠実に態度を変ぜぬが、性質は大体の点を除く外随分変つてる。僕は其昔野心家であつた、今は何か問題がなと鵜の目鷹の目の外には何も野心がない。併し死ぬ時は生命を放つて一つ遣つて見度いと思が、遣るのは死ぬと極つた前日位に仕度いものだ。 <山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>

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