続相撲見物無罪論(二)

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続相撲見物無罪論(二)           山崎今朝彌       法律上の無罪論  成程検事と共に本件を有罪視する者の論ずる如く法文には「賄賂を以て投票を為さしめたる者は云々に処す」とありて、被告等が賄賂を提供し投票を為さしめたるは天下に争なき処なれば、犯罪の成立に付ても一点の疑なきが如しと雖も、旧刑法二三四条は公選の投票を偽造する罪の二三三条を受けたる規定なれば文理解釈上茲に所謂投票とは公選の投票を云ふ、公選の投票とは公共的性売を有する職務を遂行する議員を選挙する為めの法定投票を指す(註二)が故に、本件犯罪の成立するには常議員は弁護士会の事務を、弁護士会の事務は弁護士の職務を遂行するものにして、弁護士の職務は公的性質を有し弁護士は公人なる事を確かめざるべからず。  或は弁護士法一条「弁護士は裁判所の命令に従ひ法律に定めたる職務を行ふ」との規定を引用して弁護士は公人なり其営業は公職なり、弁護士会の常議員は芸娼妓組合の評議員と異ると論ずる者あるも、果して然らば人間は何れも裁判所の命令により鑑定人となり証人となるの公務あれば人は悉く公人なり其業務は公職なり故に糞尿汲取は公人の公職なりと論結せざるべからず。  或は欧米文明国の例を援き弁護士は公人なり我国に於ても社会は既に之れを認め法規も他と多少の区別ありと論ずるも、然らば弁護士に矢鱈家の貸人なきは如何、人格学識日本一弁護士と決議するも厭な顔し得る者二人しかなき岸博士の高塀問題(註三)が問題ともなり得ざるは如何(註四)堂々たる弁護士が法廷で専門に猫撫声を出すは如何。  大臣の諮詢に応へ政府に建議し裁判所に交渉し委員を造り人権を騒ぐ者は弁護士会にあらずやと論ずるも、茶ン茶ラお笑しき事の外(註五)誰か憎まれて世に憚かりし者ありや(註六)平沼を取占めたとか牧野を遣り込めたとか委員の報告は偉らそうなれど実は対談の際面を視得る者無しとの事にあらずや、抑我東京弁護士会の人権擁護は横山勝太郎君が時々法廷で喧嘩し法律新聞が執拗く平沼総長に楯突く効果の半にも値せず(註七)  東京弁護士会の常議員会が従来為したる仕事としては、予算の範囲内に於ける弁当食ひ尽しの一曲あるのみ(註八)  要之に弁護士は公人にあらず其営業は公職にあらず弁護士会及び常議員会又は其事務は公的の性質を有せず、然るに世間往々自ら公人と称し公職と号し左も自己を高尚らしく見做す弁護士あるは、奈良漬をオナラ漬と女中に呼ばしめて得意がる奥様と同様、私には却て之れが汚なく滑稽に響く、然らば従て本件の投票は公選の投票と云ふを得ざれば被告等は法律上当然無罪たるべきものと信ず(註九) (註)  一、本件犯罪事実の詳細は前号にあり。  二、ガル、コーラン、マツクス、井上宮城の刑法論。  三、生活の力四十七号   ▲大隅伯が弁護士の職務を侮辱したとか何とか云つて少壮弁護士連は火のやうに怒つて居るが、其弁護士の長老株に岸清一君のやうなヒドイ事をする人があつて下劣な人格を白昼街上にサラケ出して居る以上、坊主の袈裟で弁護士の職務までが世間から侮蔑されるのも自然であろう。   ▲岸君が伊皿子の住宅を拡張しようとして台町通りの瀬戸物屋を買収しようとしたが瀬戸物屋の承諾しないのに業を煮して特に瀬戸物屋の周囲だけ大屋根と同じ高さの大障壁を巡らし瀬戸物屋を日光攻めにして居るのは、如何にも毒々しい遣口で田町の浅野総一郎君などは岸等に較ると未だ未だ大慈悲の観世音だ。   ▲岸君に云はせたら、瀬戸物屋に対しては種々なイキサツがあらう。けれども岸君は紳士である。人の往来の激しいところへ苟くも学者と呼ばるべき岸君がアアいふ毒々しい事をして見せるのは社会の風教に及ぼす影響如何。其辺も考へて貰ひ度い。   ▲殊に台町の通りは高輪方面から或る高貴の御方が、朝に夕に御通行あらせらるる御道筋である。萬々一御目に止まるやうな事があつては実に畏れ多い次第ではないか社会風教の為岸君の猛省を望む。  四、コンナ事を指摘する私が問題になるとも。  五、米国大統領に抗議電報を発し、支那の帝政に反対を決議し、刑事弁護人たる弁護士が世界の迷惑をも顧みず長談議を試み後向弁護を為す弊は天下公知の事実なるに、大隈伯が口を滑らしたる言葉尻を捕へ、恰も世に所謂弁護士の如く、親の心子は知らで「オベツカ」的の決議をし。  六、大阪弁護士が「ダウンセラー」に押し込められても総会程の騒ぎもせず、判事が検事の鼻息を伺ふ当公廷に顕著なる事実を述べて懲戒に付せられたる弁護士あつても平気の平左。  七、議論も此処イラになると素人には一寸六ツケ敷けれど。  八、成るべく簡単に横道に入らぬ様にと裁判長の注意あり。  九、事実上の無罪論は次号。 <以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。> <旧仮名遣いはそのままとし、旧漢字は適宜新漢字に修正した。> <底本は、東京法律事務所『東京法律』第23号5頁、大正5年(1916年)9月1日号>

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