理想空想誇大妄想

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理想空想誇大妄想(明後日のユートピヤ)           山崎今朝彌       ○  明日限りの御約束で四五枚の原稿快んで引受ましたが、昨日で編集を済ませ今日御約束を果たし明日より校正にかかる予定の所、昨夜の『現代心解剖』の会が祟つて一夜中眠られず、お負けに、新案特許、解放時評合評会の席上で倒れた儘の編集長が、今、愈々肺炎と決定アレヤこれやで到底御期待に副ふようなものが書けつこなし、小生としても折角御贔負の御用命に不会心のものを差上げたくはなし、又私が書かなんだ処が改造が少しも迷惑する訳でなし、旁々以て御断り申上る次第不悪。其代り次回には岐度御用命相成度此段堅く御願申上候。       ○  斯うは書き、封筒にも入れて見たが、改造の原稿を断わるなんて第一冥利を知らない話だ。第二に改造が僕なんかに原稿を頼むは商売敵を超越して襟度を示したものだ、それをコセコセビクビク大事を取るなんて、余りに雅量が無さ過ぎる。そこで飯でも食べて何か書く事にする。       ○  ユートピア--理想郷--理想--空想--妄想--誇大妄想--狂--。成程蓋し出鱈目でもよい訳だ。空想妄想なら僕が毎日、夜となく昼となく年柄年中やつてる事だ。特に今日なんかは理想的に空想的妄想的だ。一つ又『解放』でも空想妄想するとする。       ○  雑誌もよいが月末が無かつたら尚よかろふ。紙は持て来る、印刷はして来る、金はまとめて払はれる。困る事は原稿を断る事だ。もう蔵ふ処がなくなつた。併し少し仰山に云へばよい原稿は一つもない。五萬部刷ると生産費と広告費で一部二十銭なら出来る。二五の一萬円が元で、売上は仮りに安く八掛の八割と見積つても一萬六千円の六千円は丸儲けだ。正月号は創作に全力を挙げて小川未明、藤森成吉、秋田雨雀、新居格、守田有秋、宮島資夫、水守亀之助、加藤一夫、中西伊之助、前田河広一郎の十勇士がペンを並べて創作界に大革命を起す予定で執筆してくれるといふから恐ろしく物すごい位だ、テツキリ露国の資金と睨んで興信所まで手を廻した警視庁は又大騒ぎするだらう。尤もアレは僕のカラカイも悪かつた。独りでカラカツて独りで喜んで独りで心配すると云ふ訳だ。敵討に内閣を無視して発禁は懲り懲りだ。アー桑原桑原。しかし雑誌屋が当れば知らぬ間に貴族院議員になつていると云ふ事は満更嘘でもなささうだ。さうなつたら可笑なものだが仕方があるまい。無産階級の諸君は又何か言ふだらう。其れは又其時の事だ。有産階級の悲哀しとも云ふ奴? 其れを藤田大学長の奴。先達て僕が折角内務大蔵大神の御伴で岩崎家まで御成に成つた時大神の前で、雑誌は早く見切を付けたがよいと、親切に忠告してくれた。大神最初はキヨトンとして居たが段々考へたと見へ帰宅してから大に油を取られた。藤田君計りでない世の紳士諸君に悉く注意を乞ふ。言行を慎んで須らく国家の秩序を維持すべし。内乱をボツ発させるような事はして貰ひたくない。尤も藤田君にはまだ打合せがしてなかつた。流石堺利彦君は先日電車の中で大に解放の発展を羨んでくれたと、帰宅してから国家安康家内安全。マサカ改造を送つて内乱を起させるような悪戯をする悪人はあるまいから安心だ。其んな人間があれば其れはキツト泥棒もスパイもする人間だ。が残品には弱る。残品が何時も内乱の基だ。之れこそ秘くす訳に行かぬ。冗談ではない。之れが二月分も三月分もタマつたら何処に置くものだろう。残品もだが先日の会で誰かが、稿料の出ない雑誌は何時か潰れるに極まつてる一度や二度は義理でも書くが、其れを商売にしてる者が何時までも続く理由がないもし同志だ仲間だといふのでロハの原稿を何時迄も書く者があるなら、其雑誌は同志雑誌、仲間雑誌だ、同志仲間と普通人間とは趣味も興味も違ふ、同志に興味あり面白味ある評判よい雑誌なら、其れは一般の読者には歓迎されない、一二月は元の解放と思ふて買はせられる者も、今に全く別物だと云ふ事で誰も買はなくなる。其れに八方美人は遂に八方塞りだ、既に其徴候も徐々見へ出したではないか。と云つたつけ。其れがそうなら大に悲観して仕舞ふ。僕は又世間で解放の復活は改造の打撃だ強敵だと評判するから、今にキツト買潰しに来て下さるかと思つて居たに。しかし、何、何んでもない、球の置様でドンナ算盤も出る。結局は悲観か楽観かだ。極端も極端は一致する。イクラ一つ事を繰返しても同じ事だ。もう止さう。其れに制限の枚数も突破した。(十一、二、) <以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。> <旧仮名遣いはそのままとし、踊り字は修正した。旧漢字は適宜新漢字に直した。> <底本は、『改造』(改造社)第7巻12号71頁(大正14年(1925年)12月号)。>

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