花嫁の侮辱に花婿の訴訟(澤田薫)

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花嫁の侮辱に花婿の訴訟 訴状           東京市芝区芝公園第十四号地 弁護士           原告 澤田 薫           同市同区新桜田町十九番地 雑誌記者兼弁護士           被告 山崎今朝彌           同市[某区某町某番地] 新聞記者           被告 [甲野太郎]       請求の原因  一、被告今朝彌は持つて生れた道楽気が止まず苦しい中より遣り繰り経営する雑誌平民法律大正九年九月十日発行第九年第五号誌上に左の記事を掲載したり  私儀予々独身の処辛抱不相叶本月八日静岡市に於て結婚仕候間此段御知らせ申上候  追て細君名は愛子遠藤氏駿府城下農家の産芳記方に卅七歳に御座候   九年八月    澤田 薫  二、右文章は其中の或一字を除くの外は原告が本年八月知人中の変物共に発したる結婚披露の書状と同一文章なることは原告に於て之を認む、然れ共其或一字の変改の為めに原告の原文とは似ても似付かぬ雪と墨月と鼈の差を生ずるに至れり、其或一字の変改とは何ぞや則ち『芳記方に』の下原文には『十七歳』とありたるを『卅七歳』と為したる則ち是也。  三、案ずるに十七と卅七とは其差実に二十にして之を百倍すれば二千に達し之を千倍すれば二萬に及ぶこと現時算数学上の通説とする所なり若し不幸にして此種の差が被告の毎月支払を為す瓦斯代金の上に生じたりとすれば如何被告は眼を丸くして早速東京瓦斯会社を訴ふべく又若し労働賃銀の上に生じたりとせば被告は腕をまくりて直ちに資本家を訴ふべきは被告の素行に徴し疑を容れざる所とす、従て被告が例の『稀代の豪傑』を気取り『何ンだ多寡が数字の問題じやあないか』などと言はんと欲するもそれは世間に対して言へた義理にはあらざるなり。  四、原告の資性濶達にて寛仁大度たる、ナニこれしきの事をと歯牙にも掛けざりしが、被告は尚これに飽き足らずと為し右雑誌発行後数日大審院記録閲覧室に来り、弁護士赤井幸夫杉浦鶴次郎坂本久策及其他多人数の前に於て『澤田君の手紙に芳記十七とあるがあれは卅七といふのが矢張り本当だろうよ其証拠にはアノ平民法律を送つてやつても俺に抗議を申込んで来ない』とほざきたりといふに至つては実に言語道断沙汰の限りにして、而して叙上文字変改の事実が全く被告の故意に出でたることを自ら暴露したるものと謂ふべく、被告今朝彌の所為は畢竟原告の艶福を焼き、奇計を用ゐて其艶名を毀損したりと看做すべきものなり。  五、被告[太郎]は東京日々新聞と称する大新聞の記者にして、先頃大木喬任の倅と会見し、司法官は化石なりなどと公儀を憚らざる不届なる記事を掲げ一時鼻息を荒くしたる余勢に乗じ、大正九年八月二十二日発行同新聞第一萬五千七百五十九号紙上『雑記帳』と題する欄に左の記事を掲げたり。  これまで独身で通して来た澤田薫君は此度結婚したが其通知状といふのは『私儀とうとう我慢し切れず此度結婚仕候細君は遠藤家の産芳記正に十七と』いふのである云々。  六、嗚呼これ何たる誣言ぞや原告の結婚披露の書状は本訴状第一項に見ゆる如く其一字一句に深長の意味を寓せしめたる金玉の名文なるに被告[太郎]は之をしも了解せず愚劣読むに堪へざる右の如き悪文を掲げて以て之を原告の書状なりと為し天下数十萬の読者を誤らしめたるものにして則ち被告[太郎]の所為は故意又は過失により原告の嘖々たる文名に著しき汚辱を加へたるものと謂ふべき也。       一定の申立  略之(平民法律の紙上狭隘なるを以て)  右出訴候也  大正九年十一月一日    右澤田 薫 東京地方裁判所判事 今村恭太郎 殿 <[ ]内は仮名・仮地名> <以上は、澤田薫氏(1927年没)が著作者である。> <山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>

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