手当り次第

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手当り次第  十何年振りかで算盤を持つて見た、何回となく行数計算に間違があつて大に困つた、五行や六行は、どうにでもなる信玄袋の編集法が発明されて居そうなものだと思ふた。此苦労にも不拘『拙者近頃繁忙にて拝読の暇無之候間』『別に必要も無之候へば』の端書が二三通来た。注文なき処に発送するからには料金の請求をするもんではない、厭になれば此方で断はる。但し『愚老八十歳に候へば細字の閲読非常に苦痛是非』は頗る同情に値した。本号に取柄が無かつたら、此一小雑誌が五十四人の合著だと云ふ点を取柄にして貰ひ度い、欧米各国にもコンナ例は未だないとの事だ。独文は売文社技士兼当国御雇教師高畠素之君と云ふ日英独三ケ国語に精通せる人の寄書。英文は無名の学者山田嘉吉君の夫人の書いたもの、青踏へ能く出る山田わかと云ふが此人だ。都路華泥楼主人は読売新聞の「うまのかみ」即ち仏国通の渋谷愛君だ。大杉君と堺君はヌキでもよからう。貝塚渋六は勿論堺君で貝塚は千葉監獄の所在地渋六は四分六分の割り飯からだと。『平民新聞』が出るか出ないに一号、二号共発禁になつたに同情して、アンマリ癪だらうから、月三回にして一回五円位の『チラシ』を刷り、オ上に御厄介を掛けたら、どうだ、ソシテ此方が酒々として居れば喧嘩は此方の勝ちだ、と云ふ端書の返事がアレだ。前号で小生の大逆事件の判決批評さへ没書にした同人大いに戦慄して居つたが要するに洞喝丈けだつた。岡君は自由活版所の主人で、牢死した赤羽巌穴の朝憲紊乱に連座して、法廷で有罪の宣告を受ける迄自分が被告なる事を知らなんだ人だ。尤も岡君の通知に依つて上京赤羽の弁護をした小生も、同席の同君が被告とは露知らなかつた、二人共随分頭の悪いものだつた。喰ふと云ふ字の解はこうだ、小生が十年計り前に『公事訴訟は弁護士の喰物、弁護士頼むな公事するな弁護士山崎今朝彌』と云ふ広告を長野の新聞に出した、処が長野の弁護士は、喰物とは弁護士の職務を侮辱するものだから懲戒裁判に付すと云ふて騒ぎ出し、昔の友人が親切に喰物とは如何なる意味かと紹介して来たから『喰物とは口扁に食と云ふ字にして甘く参れば口に食へマヅく参れば飯が食へず、ココガ千番に一番の兼合に御座候、山崎伯爵家家扶』と一枚丈け印刷に付して送つた。浪人君は東京新聞の社長、髪の毛の長いと号外で有名だ。小生の好きな事が同君の好きな処で、小生の知人は皆、天下言訳商会でも関ケ原の大合戦での桂公の謝罪状でも小生のやつた事と思ふてる。若宮君は可成り有名になつたが学問の割合に有名にならない又なり得ない人だと友人が云ふ。ウオード直弟子の社会学者で大学教授連の一大敵国だ。添田君は流行唄読売元祖の本家本元で日本の流行は皆此人の頭とノドから出る。金鯱君は矢張り売文業者だ、併し堺君とは丸切り別派である、何れが元祖であるか聞いた事も調べた事もない。質素の点が御気に入りは痛み入る、只今の事務所は家賃の高いも日本一、事務員の多いも日本一、私設電話の交換台が日本一、来てみたら驚くだらうと思ふ、洋服にしてからが今では関根の十四円均一ではない、勿驚一着百五円だ、然り而して月賦にあらず。本誌の読者には未だ『雨花子』を御承知ない者が多いと思ふ、控訴院判事の尾佐竹猛君だ、アレで有り乍ら小生に向つて二三度世渡りが下手だと云ふた事がある、君の官海游泳術は一層下手だと云ふ評判だ、小生はコレで中々世渡りは上手の積りだ。地方民事部四部の名川判事君なんか、此間も或宴会の席では『アノ時分は君の友人たる事をホコリとして居た位だつた』等とオ世辞を云ふたが、小生との交際は或は出世の妨害になりはせぬかと心配して居るとの事を聞いたから、小生は遠慮して私交を断つた位だ。ソレを君は余り心安くも無い小生との年賀状のやり取り等してよいだらうか、小生が裁判所で君に会ふても態と横へ向くは遠慮の積りだ、悪しからず、兎に角君は官吏としては今の浮世ジヤ出世もスマジ。西條君は仮面等へよく小説なんか書く新進文士だ、考へれば小生も数年来のツンボだつた、ソレを漸く此頃発見したのだ、電話で喧嘩したのは西條君計りではない、コレが為めにどの位御客を失くしたかわからない。電話は厭だつた、電話で話しが通じたら余程便利のものだらうと思ふた事がある。声も高いに相違ない、電話と来れば何時も命懸けだもの、同室の阿保君が電話は是非止めて呉れと云ふ位だ。ツンボには色々面白い話がある何時かソレを書いて見たいと思ふ。コレで終りだ。 <山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>

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