双谷島小波の部屋

雪返り 前編


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雪返り 前編




「……きろ」

 頭の深奥にまで響くような、声音が染み渡った。

「おい。起きろってば」

 同時に、乗合自動車が曲がり道で大きく車体を振り、その振動で漸(ようや)く深海(ふかみ)は目を覚ました。

「やっと目を覚ましたのか、君は。お寝坊さんだな」
「ここは……」

 未だに目蓋重く微睡みの中、深海は周囲を見渡して、自分がバスの中に居る事に気がついた。古いバスであった。天井に灯る照明は、半ば消えかけているのか薄暗く車内を照らし、錆び付いた手摺りと、所々引き破れた座席の陰影を浮き上がらせていた。

「やぁ、おはよう。といっても今は夕暮れ時だけど。君が眠ったままで居ても良かったんだけどね、そろそろ目的地も近いから」

 指先で右隣の窓枠を小突く彼女。
 嵌め殺しにされているにもかかわらず、カタカタと身を震わせる窓の外を見遣ると、雪が吹き荒れる山道が見えた。空は余すところ無く雲に覆われ、木々に遮られた山道は薄暗く、夜といっても差し支えない車窓がそこにはあった。幾多もの雪片が縦横無尽に飛び交う中を、バスは走っている。それは、軋み声を上げる年老いたこの車がばらけないのが、不思議なほどであった。

「見ているだけで凍えるような景色だな」
「この山は、冬になれば毎日がだいたいこんな感じさ。そうでもなければ雪霧峠の名が泣くよ」

 両の手のひらを天井に向けて、やれやれと言った風情で首を横に振る彼女。物見窓へ向けていた意識を車内に戻し、ここに来て深海は隣に座る女性を見た。

「……鹿島?」

 一瞬何故か口をついて出た名前を、いや……と深海は否定をし、再び問いかけをした。

「……お前、誰だ?」

 深海の誰何を聞いた彼女は、一瞬固まると、軽く鼻先を弾かれた猫のように目を丸くし、

「おいおい。失礼な奴だね、君は。まだ半醒半睡の寝惚け眼かい? そのとおり。君の親愛なる友人の鹿島雪菜(かしまゆきな)だよ」

 鹿島雪菜と名乗る彼女は、先ほどの窓枠を小突くのと同じ要領で、逆隣の深海の頬を突いた。

「鹿島ぁ?」

 改めて肯定されたその名字に、深海は聞き覚えがないわけではなかった。むしろ記憶の奥底で、いつまでも忘れられずにたゆたっている音韻だ。何故ならば彼女は、

「鹿島は確か、俺が中学の時に不治の病で亡くなったはずなんだが……」

 赤く指痕つく頬をさすりながら、深海はまじまじと鹿島を名乗る隣の女に見入った。利発そうな切れ長の細目。そうありながらも、どこかあどけない口元。肩口まで綺麗に伸びた黒髪。何よりも決定的だったのは、彼女が指につけていた指輪だ。月の光にも似た鈍い輝きを放つそれは、そうそう同じものを見かけられる物ではない。
 ——果たしてそこにいたのは、深海の記憶に残る鹿島雪菜を、そのまま成長させた姿であった。

「またその話かな。何度聞いても笑える話だよねぇ。確かに喘息は不治の病ではあるのだけれど」

 口元を袖口で覆い隠すような仕草をし、くつくつと笑い出す鹿島。

「勘違いにしても甚だしいよね。全く。こんな冗句は本人しか笑えないよ。どうだい? まだ思い出せない?」
「いや……そういや、そうだったかな」

 悪戯猫を想起させる鹿島に瞳を覗き込まれて、朧気ながらも深海は顛末を思い出していた。
 治しようも無い病気に冒された鹿島は、退院することなく亡くなった——と、中学時代の深海は聞いていたが、その話は九割が本当だったが、肝心の結末が全くの嘘だったのである。
 確かに鹿島は重度の喘息を患って、退院することはなかったが、そのまま空気の綺麗な実家の系列病院に移されて、学校から籍を消した。と、それだけの話だったのである。人に好かれ慣れていた鹿島にしては珍しく、一言の挨拶も無しに学校から姿を消したので、一時期は死んだという噂が流れただけだったのだ。
 人付き合いとは対極の位置にいた深海は、その断片的な情報だけを耳に入れてしまい、かなりの長い間、真実とは無縁の関係で暮らしていたのである。

「そういう、肝心な間だけを綺麗に抜き落としてしまう人を、なんて言うか知ってるかい?」
「なんだよ?」
「間 抜 け っていうのさ」

 笑い声を押し殺すようにしながらも、腹を抱える鹿島。
 苦虫を噛み潰したような表情で、深海はそっぽを向いた。車内には他に乗客は居ない。

 ——それで、何で鹿島と二人乗ってるんだったかな。

 ぎいぎい軋みながらも二人だけを乗せて走行し続けるバスを見渡し、隣り合う鹿島の震えを肘に感じながら、深海は事の次第を思い出し始めた。
 大学に入り、人づてで鹿島の生存を漸く知った深海であったが、だからといってどうしたというわけではなかった。確かに聞いた当初は呆気に取られたものだが、中学時代の鹿島と深海は特別親交深い訳でも無かったし、鹿島の実家のある地方は深海の通う大学とは、彼方の遠山里であったためだ。

 それにも関わらず今現在、この古ぼけた乗合自動車で、鹿島と互いに同席しているのは、深海が卒論を書くにあたって、鹿島の家郷を思い出したためであった。深海は大学にて風俗民俗学を専攻していた。昔ながらに人の生死に興味を持っていた深海は、これに絡めゼミの最終論文については、日本各地の命脈に関わる伝承を取り上げようと画策していたのである。
 そこで図書館に入り浸り、有用な情報が無いかと参考文献を漁りつつも、自らの記憶と相談しているうちに、同窓していた頃に鹿島から聞いた蘇り伝承を掘り起こしたのである。

 地方に伝わる伝承につき調査するにあたり、地元の民の協力の有無が、完成した論文の品質の是非を左右することは、言うまでもない。
 半ば断られることを覚悟して、何年ぶりに鹿島と連絡を取った深海であったが、鹿島は長らく疎遠であったはずの深海の希望を快諾した。それは呆気ないほどであった。
 加えて、迷惑をかけるからと断ったはずなのだが、鹿島は道案内と称し地方都市まで迎えに来てもくれたのであった。それから、わずかに互いに言葉を交わしただけにもかかわらず、先ほどの会話のように、すでに鹿島は深海の何年来もの友人のごとくの振る舞いをしている。
 昔ながらにあった、鹿島の持ち前の明るさに久々に接した深海は、気抜けすると同時にどこか幾ばくかの安心を抱いたものであった。

「それで?」
「それでとは、何かな? 深海くん」
「本当にあるんだろうな」
「何がだい?」
「蘇りの伝承だよ。死者が生き返るという、鹿島の住む地元の村の」
「ははっ。何を今更。あると思ったから、ここまで来たんじゃないのかな?」
「それはまぁ、そうなんだが……」

 想い出にも残っているし、文献との参照も終わっている。しかしながら、記憶は中学時代の公園での一幕のものであるし、言質を取れるにこしたこともない。

「覚えているだろう? あのとき深海くんには、昨日食べた夕食から、私の体にあるほくろの数にいたるまで、私の全てを教えたんだから」
「ほくろの数は、さすがに自分じゃ数えられないと思ったんだが……」
「それは道理。あれはもちろん適当さ」

 自分のことでも自分で分からないことは意外に多い、と笑みを浮かべながら頷く鹿島。

「例えば、名前だよ」
「名前がどうかしたか?」
「私の名前はなんて言うか、知っているかな?」
「鹿島雪菜だろ。さっきも名乗っていた」
「そう。私の名前だね。しかし、考えたことはないかい? 自分の名前を一番使うのは、自分じゃない。他人なんだよ。鹿島さんや、雪菜さんと呼ばれることは毎日のようにあっても、自分で名乗りを上げる機会って言うのは、絶対的に少ないんだよ」
「そう言われてみればそうだな」
「そもそも自分自身の姿だって似たようなもんさ。鏡を見る機会よりも、他人に見られる事の方が大抵は圧倒的だよ。名前も姿も、自分のものなのに、自分が一番蚊帳の外なんだ。面白いとは思わない?」

 自己の存在と認識の問題。どちらかといえば、哲学の部類に入るたぐいの物だが、民俗学でも視点の変更、といった考えのもとで基本になることでもある。
 例えば、お化け。古くから人類は得体の知れない体験をしたとき、本来は無いものを在ると見出し、名前をつけることで恐怖を克服してきた。闇夜に浮かぶ幽霊。山で人を食い殺す鬼。そんな伝承は日本に限らずとも世界中のどこにでもある。

 未知の現象に対し、人は名前を与えることで安心を得てきた。お化けや妖怪など、そのほとんどは現在の知見のもとでは勘違いに過ぎないと分かっているのだが、当時の人たちにとっては、それが真実であった。名前を与えられたモノは、例え実際に存在しなくとも人の心に巣くい、影響する。過去を探求する者は、民俗学者に限らず、このことは常に留意しておかなければならない。世界を人が見て、世界があるわけではない。世界を人が見て、人が見た世界があるのだ。
 まぁ、簡単に言えば、人の心にたってみろ——という一言なのだが。

「このままの話も面白くない訳じゃないが、路線がずれてるな。蘇りの伝承の話は?」
「もちろんあるよ。そして、ついでにいうと、近々行われる予定もある。蘇りの儀式がね」
「儀式……やっぱり、儀式なのか!」

 淡々と話を続けていた深海だったが、さすがにこの鹿島の言葉には食い付く反応をした。

「うん。まぁ、儀式といってもなんていうかね。仰々しいもんじゃないよ」
「そういう問題じゃないんだよ、鹿島。君も知っているのかもしれないけど、人を蘇らせるのに〈儀式〉を行うっていうのは、滅多にないんだ」

 例えば単に、人が生き返るたぐいの伝承ならば、世界各地に多量にある。日本で一番有名な神話でいうならば、イザナギとイザナミの話が頭を過ぎるだろう。しかし、その殆どは黄泉の国や、死者の国に行き、死んだ者を連れ戻すといった語りだ。実際に儀式として形があるまま伝わる例は僅少なのだ。

 この理由は、日本でいうと人を生き返らせる行為は、死者の神に触れることになるため実質的に神卸しに近く、禁忌に触れるため形として現存することはなかったともいわれているが、実際は、蘇りの儀式は結果が明確に分かるため、だと語られる事が多い。蘇らなければ失敗だということが一目で分かるために、伝承として伝わることはあっても、儀式として形に残ることはなかったのだ。
 それは伝承すら、イザナギにしてもギリシャ神話のオルフェウスにしても、死者の国から妻を連れてくることはとうとう出来なかった、とされていることからも分かるだろう。

「儀式として様態があるならば、恐らく成功例が昔にあったと言うことだ。もちろんそれは真実の意味での蘇りではなかったに決まっているにしても——だ」
「いや、本当に蘇るんだよ。この儀式ではね」

 しれっと、決定的で信じられないことをいう鹿島だったが、これには深海も鼻白むほか無い。

「それはないよ、鹿島。ありえない」
「そうだね。死んだ人間が生き返るなんて事は、絶対にありえないさ。でもね、深海くん。確かにこの村で人は蘇るんだよ」
「鹿島、矛盾してるぞ」

 続く鹿島の言葉を待っていた深海だったが、差し込む光に照らされて急に明るくなった車内に驚起し、身を乗り出して車窓を覗き込んだ。

「……晴れてる?」

 外には夕日があった。あれほど吹雪いていた灰色の景色は、不自然なほど跡形もなく溶けるように色を変えて、茜色の雪村になっていた。
 峠を越えたためだと、鹿島は確答する。

「それにしたって、こんなに急には……」
「まぁ、話はおいおい語るとして、とりあえずは——」

 未だ驚きから覚めやらない深海を手で制す。
 鹿島は深海を猫のような細目で見詰めると、その口元に、にたりと笑みを浮かべた。

「雪返村へ、ようこそ」

               ■

 バスから降車し到達した坂の上からは、雪返村が一望できた。ここは山の中腹にあたる部分であり、盆地状の立地を為す村を見下ろせる位置に、二人はいた。
 盆地の窪みはちょっとした野球場程度の広さしか無く、比例して雪返村は小規模の家々が密集しただけの集落であった。降り積もった雪の毛布が村全体を覆い隠し、村はむしろ隠れ里とでも形容すべき様相を為していた。

「さ、家は向こうだよ。少し歩こうか」

 夕日を背景に雪返村の奥を指し示す鹿島に、深海は頷き歩を移した。
 車一台が漸く走れそうな幅の土道は、盆地上の村の外側を一周するようにして続いていた。先達の足跡も轍もない道を、二人は真綿のような新雪を踏みしめた。

「案内がてら、村の中をつっきっても良いんだけどね」
「別にかまわないさ。雪道は嫌いじゃない」
「それは僥倖かな。ま、見ての通りの小さな村だ——まぁ、そうでなくとも君には案内など必要ないか」

 何が面白いのか白い吐息を弾ませながら、鹿島は笑う。暖房の効いた車内から寒冷地に身を移したせいか、ふっくらした頬は赤く上気しており、その色彩がいっそう鹿島の表情を豊かにしていた。
 それからしばらく西日差す茜道を歩き、二人は一軒の家屋の門前に到着した。そこは先ほどの坂の上からも見下ろせた、集落の端に位置したひときわ巨大な屋敷であった。立ち止まり深海を見遣った鹿島の様子から考えて、ここが案内された目的地のようだった。

「到着」

 鹿島の背丈の二倍ほどもある閉じた門を前にして、深海はゆるりと視線を這わせた。
 この家全体の造りは木造であるが、家垣を含めて結構な規模の日本家屋であった。先ほど見下ろした村の他の家々に比べると、二乗ほどの面積はある。雪返村の立地から推察して、最奥にあることからも、ある程度の有力者の家であることは間違いないようだった。

「感想は何かあるかい?」
「……でかい家だな」
「言うほどでは無いんだけどね。村が小さいから、相対的に見えるんでしょ。他にはないかい?」
「他には、といわれてもな。特には無いが、しかし……」
「しかし?」

 深海は今一度、目の前の建築物を見上げた。全てを覆い被すほどの雪を纏いながらも、自らを誇示するかのような存在感がこの家にはあった。そんな屋敷を前にして……いや、最初にこの雪返村を見渡し、この家を目端にした時、ふと感じていた違和感があったのだ。

「俺はこの家……どこかで見たような気がするのか?」
「おいおい。何かな——既視感かい?」
「いや、そういう訳じゃない。そうじゃないな。既視感じゃないんだが……」

 不意に、もやもやした不安めいたものに心揺らされた深海は、それを取り払うかのように側頭部を掻いた。押し付けられ触れた耳が、つんとした冷たさを手の平に伝えた。

「まぁいっか。とりあえず中に入ろうか、深海くん。たぶん部屋は暖かいはずさ」

 鹿島が軽く体重をかけると、見た目とは裏腹に負荷を感じさせない具合で、すんなりと門は開いた。石畳を越えた先にある内玄関からは、薄暗いながらも暖かい光が漏れている。
 未だ違和感をぬぐいきれないながらも、断ち切るように頭を軽く振り払った深海は、先導する鹿島に続いて門をくぐった。


 誘われるようにして通された部屋は、十畳ほどの畳からなる和室であった。中央には丸角で四角形をした桐製の卓袱台があり、紫陽花の模様をあしらった肉厚の座布団が二組、対の位置で敷かれていた。特に暖房器具も見あたらないが、部屋の中は外の寒気を寄せ付けないほどに暖かい。

「長旅疲れたね。座って休もうか。ああ、荷物も好きなところに置きなよ。自分の家だと思って、寛いでくれ」
「では、お言葉に甘えるか」

 担いでいた着替えや研究道具の詰まった背負い袋を部屋の端に下ろし、手近な座布団へと深海自身も腰を下ろした。その対面に、鹿島もすっと座り込む。


「家の人に挨拶しなくても良いのか? 何日かお世話になるから、さすがに一言ぐらいは告げたいんだが」
「ご丁寧にどうも、と言いたいところだけど、あまり畏まらなくて良いよ。実は他の家人は用事があって他出していてね、しばらくはこの家宅、空き家なんだよ。つまり二人っきりということさ」
「それなら、いいんだが……」

 礼を欠いた状態に、多少の居心地の悪さを感じざるを得ない深海だったが、玄関で只今を告げた鹿島に返答が無く、同時に家の中に人の気配が感じられなかったのも、そのせいかと納得もしていた。

「おいおい深海くん。何が『いい』んだい?」
「勿論、失礼に当たらないことが、に決まっているよ鹿島」

 台に両肘を乗せ、笑みを浮かべる鹿島の表情に、からかいの意図を見て取った深海は、素気ない対応をした。

「つれない男だね、君は」
「諧謔ならともかく、羞恥する人を見て楽しもうとするのはいただけないな」
「それは悪かったね」

 言葉とは裏腹に、多少も悪びれた様子もなく鹿島は肩をすくめた。
 その後しばらく、用意されていた茶菓子をつまみ、和室の調度品など吟味するなどして寛いだ後、深海はこの村に来た目的に頭を回らし、そろそろ蘇りの儀式について観じたいとの申し出をした。

「さすがに気が早いんじゃない? 今日くらいは羽を伸ばして、明日から取りかかればいいじゃないか。休暇はまだあるんだろ。そんなに慌てる時間じゃないよ」
「そうはいかないさ。時間があることと、それをどう使うかは全く別の問題だ。迷惑をかけない借宿だとしても、そんなに長く他人の家にやっかいになるわけにはいかないだろう?」
「他人の家ねぇ……身内の家ならいいのかい?」

 身を乗り出して、再び意地の悪そうな笑みを浮かべる鹿島。

「その手の問答は、品が悪いと言っただろう鹿島」
「ん? ああ、これは別にそういう意図では無かったんだけど……まぁ、いいか。でも、私は疲れているから大した助力は出来そうにないよ」
「それは仕方がないな。一人で頑張るさ。迷惑をかけない程度に散歩するくらいなら出来るだろう。見たところ、この村だったら——」
「道に迷うこともない、か。でも、もうそろそろ落日も近い時間さ。聞いた話によると、この村の子供は夜は蛍で勉強するそうだよ。それでもかな?」
「これだけ雪があれば、明かりに困りそうもないな」

 何故か引き留めようと拘泥していた鹿島だったが、立ち上がって決意を示した深海を見て、ついに嘆息した。

「分かった。好きにしなよ深海くん。玄関を出て、左に折れる道をまっすぐに進めば、山を登る階段(きざはし)がある。そこを上れば儀式の祭壇だよ。一見は百聞に勝る。下見を済ましておくのも良いだろう。もっとも、今はまだ時期じゃないから中には入れないけどね」

「我が侭を言ったみたいで迷惑かけるな。夕食の時間前には帰るよ。何時頃だ?」

 深海の問いかけに対し鹿島は、何時頃ねぇ……と、顔の半分だけを歪めて、何やら皮肉めいた顔つきを向けた。

「そうだな。君が帰ってきた頃に、ちょうど暖かい夕飯を出してあげるよ。ま、食事の時間は君自身が決めるんだな」