双谷島小波の部屋

導入


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 シーン「暗闇」

……こうして教室座っているとき、ふと思い出すことがある。
 あれは確か、僕がまだ小学生だった時に、クラスメートの霧沢遙とこんな会話をした。

「ねえ。運命の存在って信じる?」
「運命?」
「人生は、人が生まれたときにはもう決まっていて、こうしてわたしたちが話していることも、あらかじめ決まっているということ」
「どうだろう。あるかもしれないね」
「でもそうだとしたら、いったい誰が決めたの?」
「君は誰だと思う?」
「うーん。神様とかかな?」
「そう思うんなら、そうなんだろうね」
「……うー。すっごく適当に答えてない?」
「そんなことはないよ」
「はぁ。それにしても何でわざわざひとりひとりに決めるのかな? 放っておいた方が楽なのに」
「知らないよ。神様に直接訊いてみたら?」
「運命が……絶対に変わらないなら、わたしたちが頑張ったり、努力したりするのは、意味があることなのかな?」
「そういうことも、決まっているのが運命なんじゃないの?」
「そんなのイヤだよ。やっぱり運命なんてない方がいい。それなら、わたしたちは自由になれるんだよね?」
「——でも、運命自体はなかったとしても、運命的なものはあるかも知れないね」
「どういうこと?」
「……例えば、僕たちがどうにか動いたっていうのよりも、他人から何かされた、とかの方が遙に影響が大きい気がする」
「なら結局、わたしたちができることは、ほんのわずかだっていうこと?」
「そうなるね」
遙「ちょっとまだよく分からないけど、そういうのはイヤだな……」

……僕が普通の人とは違うことに気がついたのは、だいたいこの頃だ。
 そして、周囲に対して嘘をつき始めたのもこの頃だった。
 僕の趣味は、非常に特殊だ。
 世界の各地で起こった、不幸を告げるニュース。
 過酷な喪失の悲嘆に見舞われた人間の死。
 苦しみと呪詛に満ちた断末魔の悲鳴……。
 普通の人だったら、考えるだけでも嫌悪するようなことが、小さい頃から好きだった。
 そしてそのようなことは、他人と相容れることはない。
……だから僕は演技をする。
 となりにいる人と笑いあって、一緒に馬鹿なことをする。
 調子を合わして、嘘の自分を演じ続ける。
 本当の自分がばれないように。


……僕にとってあの時の自分の言葉は、彼女のいうとおりかなり惰性的で適当に答えたものだったのだが、今考えてみても、妙に核心をついていた感じがする
 自分のいる状況はほとんどが他人に左右されていて、確実な決定権みたいなものは決して自分では持ち得ない。
 それは自分の行動にも当てはめることができて、例えそれがいろいろな物事の起因になったとしても、結果、自分自身のためになるとかはほとんどない。
……この考えが正しいかどうかは、分からないことだ。
 自分を傍目から確かめることはできず、いくつもの分岐点があったとしても、人生がたどる道は、たった一本だから。
 もちろん、僕が普段生活している中で、こんなことを思い出すことはない。
 だけど時々——部屋にひとりでいるときや、静寂で何も聞こえないようなとこに来たとき、そして今のように授業中の心が浮ついたほんの一瞬に、このことが心をかすめることがある。
 そして、僕は非常なやるせなさを覚える。
 人生というものが、そんな些細な、他人の気まぐれで左右されるものだとは。

……もしそうならば、僕は他人を左右する側になりたい。

 僕は左手首のリストバンドをなでた。
 二十センチほどの、どこにでも売っているようなものだ。
 真っ黒でイラストも何も添付されていない。
……もしかしたら、僕のこの性格はこの考えに根付いたものかも知れない。
 僕は不意に思い浮かんだその答えに、納得のいく感じがした。
 遠くチャイムの音が聞こえ、やがてこの教室にも鳴り響く。