一話


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エステルの力により、ハルルの樹が無事に咲いた。
ハルルの町並みが鮮やかに彩られる――。

遠目にそれを見て、ユーリ・ローウェルは小さく欠伸をした。
それにつられて横にいたエステルも小さな欠伸をひとつ。


「眠いのか?」

「い、いえ、そんなこと無いです」


謎の集団から逃げるためにハルルを早々に離れ、現在休憩をしているところだった。
自分で作ったサンドウィッチを口に運びながら、ふと思いついたようにエステルに問いかける。


「……そういやカロル先生は何処行ったんだ?」

「あ、周りを見てくるって行ってました」


ラピードの背中を追いかけながらユーリの問いかけに答える。
ふりふりと左右に動く奇妙な形の尻尾に触ろうと手を伸ばした瞬間。


「ユッ、ユーリ!エステル!!」


焦ったような声。音の方に二人と一匹が向けば、栗毛の少年が肩で息をしていた。
額の汗を拭い、呼吸を整える。


「どうした先生?」


ユーリが口の中のサンドウィッチを飲み込み首を傾げた。
エステルはラピードに感づかれたので残念そうに頭を垂れている。
が、すぐに気を取り直して少年――カロルの方に向いた。


「何かあったんです?」

「あ、あっちで……怪我した女の子が倒れてたんだ!」

「……どっちだ?」


カロルの言葉にユーリが腰を上げる。
エステルもそれに続くように立ち上がった。


「こ、こっち!」


疲れているはずなのにまた走り出す。
その背中をあわてて追うユーリとエステル。

走りながらエステルは思考する。


(……カロルの好きな女の子とその子を投影してるんでしょうか)


どのみち、自分がその少女を助けなければならないのは変わらない。

カロルの背中を追いかけていると、周りに木々が生い茂ってきていた。
方角的に目指していたアスピオの近くの森だ。
先頭のカロルが茂みを掻き分けた先に、その少女はいた。


「――」


その光景に、ユーリは僅かに息を呑んだ。
カロルよりも幼いであろう、華奢な少女が倒れている。
少女は真っ白なワンピースのような衣服に身を包み、何かを持っていたのか、左手は軽く握られており、首にはヒビの入った赤い宝石を下げていた。
そしてその白にはまだ新しいのか、真っ赤な血が散らされている。
栗色の髪の毛も、その丸い頬も血で濡れていた。


「ひどい……」


思わずエステルが呟く。
その声は少し震えていた。


(――野党……ってワケじゃなさそうだしな)


ユーリはあくまで冷静に少女の傍らにしゃがみ込んだ。
頭部からの出血が激しい――というより、ほぼ全体的に血塗れなのでどこが主な傷か分からないくらいだ。
白いワンピース状の服も焼け焦げたような痕や刃物で切られたような損傷がある。

死んだように動かない――が、ほんの僅かに肩は動いている。
生きている、とユーリは確信した。


「エステル!」

「は、はい!」

「こいつまだ生きてる!」


生きている、の言葉に涙で潤んだ目を拭う。
不安で彩られていたはずのその瞳には、もう強い意志が宿っていた。
エステルは急いで少女に駆け寄り、治癒術を発動させた。








クロノ・ハラオウンは悩んでいた。
ヴィータからの報告によれば、高町なのはがアンノウンに撃墜され――満身創痍のまま行方不明となった、というのだ。
目の前で俯きながら拳を握っている姿は見ていて痛々しいものだが、聞くことは聞かなければならない。


「……で、そのアンノウンは?」

「……あたしがシュワルベフリーゲン撃って破壊しようとしたんだけど、先に自爆しやがった。
転移先知られちゃマズかったんだろーな」


テーブルの上に置かれたココアにも手を付けず、搾り出すような声でヴィータは拳を握った。
今にも溢れ出しそうな涙をなんとかせき止めて、事情を説明するために声を絞り出す。


(これ以上、事情を聞くのもあれか)


戻ってきたばかりのときに比べれば落ち着いた方だが、もう少しゆっくりと聞き出した方がいいだろう。
心中でため息を吐き出し、クロノはコーヒーを一口啜った。


「……フェイトとはやてには撃墜された部分だけ伏せておけ」

「……”死ぬまで行方不明”……ってことにしろってか?」


ヴィータの声に怒気が篭り、思わず立ち上がる。
防音室でよかった、としみじみと感じながらクロノはヴィータを制す。


「……彼女たちにも君と同じ気持ちを味あわせるつもりか?」

「ッ……けどっ!」

「――大丈夫だ」


きっぱりと断言するように、クロノはヴィータの言葉を遮る。
なのはへの信頼でもなく、執務官としての勘でも無く――。


「なのはは、生きている」


ただクロノへと、ノイズ交じりの通信がレイジングハートから微かに届いていたのだから。