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「プロローグ」(2009/06/18 (木) 20:16:39) の最新版変更点
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覚えている景色は降り積もる白。
高町なのはは痛みでフェードアウトしそうになる意識を何とか保っていた。
(……失敗、しちゃった)
ぱくぱくと動かした口から溢れるのは鉄錆の味がする血。それを吐き出すほどの体力すらなのはには残っていなかった。
ぼやけた視界には灰色の空しか映らない。そんな横たわる細い肢体に駆け寄る小さな体がひとつ。
「なのはっ!なのは!!しっかりしろよ!」
涙交じりの声に少しだけ意識が鮮明になる。自分の名前をひたすらに呼ぶヴィータの頬に触れようと手を動かすが――。数センチ持ち上がったそれは力なく雪の上に再び崩れた。
ほんの少しの悔しさがこみ上げてきて思わず自嘲気味な笑みを口元に浮かべる。
ごめん、ね……ちょっと失敗した。
ヴィータちゃんは大丈夫……?」
言葉を紡ぐと同時に口の端から血の泡がこぽ、と音を立てた。
疲れが溜まっていた体に鞭を打って、その結果、本当にどうって事無い相手に撃墜された。
情けなくて、ヴィータを泣かせてしまうことが悔しくて、その唇からは謝罪の言葉が飛び出す。
血に濡れた体にヴィータの手が伸びた。そしてその体を壊れ物を扱うかのように抱え、ぽろぽろと涙を零す。
「だいじょぶ、だから……」
大丈夫ではないはずなのに、そんな言葉を呟く。
本人もそれは分かっていた。このままだと、自分は最悪死ぬのであろう、と。
家族は悲しむだろう。
友人も悲しむだろう。
脳裏に浮かぶのは、優しい瞳を持った金髪の少女の後姿。
泣いている。自分が死んで泣いている。
それを茶髪の少女が慰めている。
そんな光景を――幻視して、悲しくなって。
「ごめ……んね」
やはり少女の口から飛び出したのは謝罪の言葉。
意識が徐々に遠のいていく。
それは痛みのせいか、それとも自分がもう長くないことを表しているのか。
――どちみち、もう自分は空を飛べないだろう。
「おい……、おいっ!」
かろうじてのところでなのはの意識をつなぎとめる声。
自分とは正反対にヴィータには一つも怪我は無い。
それを見て少しだけ安堵の息を血と同時に吐き出した。
「医療班!何やってんだよッ!早くしてくれよ!
コイツ、死んじまうよ!!」
――それと同時に機械音が二人の耳に入った。
先ほどヴィータが全て殲滅したはずなのだが――残っていたものが声に反応したのか。
考えている暇は無い。
ヴィータは腕の中の少女を守らなければならない。
なのはを片腕に抱いたまま、もう片方の腕でグラーフアイゼンを握り締める。
強く握ったデバイスに魔力を流す。
「……グラーフアイゼン!」
≪Schwalbefliegen!!≫
掛け声と共に鉄球を取り出し、魔力を込める。
空間に魔力が拡散し――それと同時に彼女たちの足元に魔方陣が発動した。
「なッ……!?」
目の前のアンノウンの足元に魔方陣が浮かんでいることに気付いた。
これは、この固体だけは魔力結合を妨害する機能を有した固体ではなかった。
その魔方陣は空間転移のもの。
迂闊だった。なのはに意識を奪われすぎていた。
指先で回転していた鉄球をグラーフアイゼンで打ち出す。
破壊するより先に――ヴィータの魔力も収集されて空間転移の魔方陣が完成した。
***
「よろしかったのですか?」
紫髪の女性が言葉を紡ぐ。
それは、切れ長の双眼から覗く金色の瞳と共に白衣の男に向けられていた。
問いかけられた男は女性に振り向き、喉を鳴らした。
「エースだの何だの呼ばれているが、所詮は魔力値が高いだけの人間……。
私としては興味が沸かない」
「でしたら」
「だが――」
女性の言葉を遮り、男は再び笑う。
口元を吊り上げ、目を歪ませ、狂気を含んだ笑みを浮かべる。
「限界まで追い詰められた時、人は通常の何倍も素晴らしい活躍を見せてくれる。
……私はこの状況が彼女にとっての限界だとは思えないのだよ。
それに、ガジェットに空間転移魔法を発生させるのは非効率的だという結果も分かった」
「……それは理論上分かっていたはずじゃないですか?」
「いざやってみないと解らない。
もしかしたら――あの管理局のエースが、世界を変えてしまうかもしれない」
「確か……転送先は管理外世界……」
「そう、管理局も手を出していない……いや、出せない世界。
――災厄に包まれた惑星、テルカ・リュミレース」
男は時空管理局の有する技術を超えていた。
外側から手を出せないはずの『管理外世界』の内部に人間を転送させてしまった。
「まぁ、生きて帰ってくればそれはそれであの星のデータが取れる」
そう呟き、男は上機嫌に白衣を翻した。
女も満足したのか、男の性質を知っているのかそれ以上追求しようとはしなかった。
全ては野望のための前座――ジェイル・スカリエッティが未来に起こす事件のための。