ちいさなうさぎのちいさな冒険  しんしん雪がふりつもり、おそとはまるでべつせかい。  朝いちばんに起きたピートは、うれしさでとびはねました。 「まっしろ、まっしろ。ぼくとおんなじ」  ピートはまっしろい毛並みのタビットなのです。 「ねえお母さん、そとに出てもいいかな」  ピートはお母さんにたずねます。 「ええいいわよ、でもおひるごはんまでには帰ってきてね」  お母さんはピートにまっしろい綿のようなぼうしと、てぶくろと、マフラーをしっかりと身につけさせて、おくりだしました。    まっしろい雪ののはらは、いつもとちがってきらきら、ちかちか。  ピートは雪をきゅっきゅっとふみしめながら、かわいい声でうたいます。 「まっしろ、まっしろ、ゆきのはら。  まっしろ、まっしろ、ぼくのみみ。  まっしろ、まっしろ、ゆめみたい!」  ながい耳をゆらしながら、にこにこわらって歩きます。    と、 「うわあ」  いつもの広場がいちめんのしろ、しろ、しろ。  うれしくなって、雪のなかにころがりました。 「あっ」  ピートははっとして、あたまに手をやりました。  さっきお母さんがつけてくれたぼうしを、落としてしまったのです。  ゆきのなかを探そうとしましたけれど、まっしろい中にまっしろいぼうしは、まるでとけてしまったかのように見つけることができないのです。 「どうしよう、どうしよう」  ピートは耳をぺたんとたれさせて、なきべそがおで探します。  だけどちっとも見つからなくて、とうとう泣いてしまいました。 「おーい、おーい、ぼくのぼうし。どこだあい」  そうさけんでも見つかりません。どんどん時間がたっていきます。 「ピート、ピート、どうしたの」  しんぱいしたお母さんが、さがしにきました。 「ぼうしが見つからないの」  べそべそ泣きながら、ピーとはお母さんに言いました。 「だいじょうぶよ、ピート。おかあさんもてつだってあげる」  ピートのお母さんは、まほうがつかえるのです。  お母さんはピートがだいじにしているぬいぐるみにまほうをかけて、 「ピートをてつだってあげて」  そう言って、ピートをそのせなかにのせました。  ぬいぐるみはそれをたしかめるようにうなずくと、ぱっとかけだしました。 「うわあ」  さっきまでのなきべそがおはどこへいったのでしょう。  ピートはぬいぐるみの足のはやさにおどろきながら、しろいゆきのせかいをかけぬけていました。かおにはしらずのうちに、えがおが浮かんでいます。  ぬいぐるみはぴっと足をとめると、ピートをしんぱいするようにチラッとふりむきます。 「だいじょうぶだよ、もう」  なきべそはどこかにいってしまいました。  と、そこにごそごそ、というものおとがして、思わずかおをあおざめました。  こののはらにはときどき、ばんぞくが出るときいていたからです。 「だれ」  ピートのこえにつられてあらわれたのは、ふさふさのしろい毛並みをした、コボルトのこどもでした。 「ごめんなさい」  コボルトはその手にまっしろいわたのようなものをもっています。  いいえ、それはピートのぼうしです。 「おともだちになりたくて」  コボルトはぺこりとおじぎをして、それをピートにそっとのせます。  ピーとはぱっとかおを明るくしました。 「それなら、もっとちゃんと言えばいいのに」  コボルトは小さくくびをふります。 「おとうちゃんが、あんまりおともだち、つくるなって」  このきんじょのばんぞくは、きまりをもっているのでしょう。 「じゃあ、ないしょのおともだちだ」  ピートはちょっと考えて、にっこりわらいました。 「ないしょ?」 「うん、ないしょ」  ふたりはふふっとわらいます。  おうちにかえっているおかあさんはそんなふたりをとおくからながめてほほえみました。 「いいおともだちができたみたいね」  そっとほほえんで、ピートのためのあたたかいスープをつくりはじめるのでした。