GKによるSS
『第三の男』
「おいっ、ぎりか! そらちゃん! ちょっと来てくれ!」
「どうしたの?」
「どうしたの?」
あらかの焦り声に急かされ、駆けつけた二人は言葉を失う。
顔面蒼白となった千尋が、息も絶え絶えといった有様でぐったりと体を横たえていたのだ。
白痴の如き姿とはいえ、それでも、いつもどこか幸せそうな雰囲気をたたえていた千尋の姿は既にない。
顔面蒼白となった千尋が、息も絶え絶えといった有様でぐったりと体を横たえていたのだ。
白痴の如き姿とはいえ、それでも、いつもどこか幸せそうな雰囲気をたたえていた千尋の姿は既にない。
「あらかさん、一体千尋ちゃんに何があったの……?」
「まさか、これもENT、中村とかいう男たちの仕業か……。真名は何をやっているんだ!」
「いや、違う。これを見てくれ……」
「こ、これは…………!」
「まさか、これもENT、中村とかいう男たちの仕業か……。真名は何をやっているんだ!」
「いや、違う。これを見てくれ……」
「こ、これは…………!」
あらかの示す先では、一組の男女が邪悪な微笑を浮かべている。
「何者だ。こいつらは……」
「分からん。千尋嬢の阿頼耶識では『王女エリエスと護衛騎士ファイエル』と記録されている。だが、やつらの世界では『デスシャドウ』と呼ばれているらしい……」
「デスシャドウ……!」
「なんと忌まわしい名……!」
「分からん。千尋嬢の阿頼耶識では『王女エリエスと護衛騎士ファイエル』と記録されている。だが、やつらの世界では『デスシャドウ』と呼ばれているらしい……」
「デスシャドウ……!」
「なんと忌まわしい名……!」
そらはごくりと生唾を飲み込む。
この『デスシャドウ』なるものが、千尋をああも無残な状態へと追い込んだのか……。
この『デスシャドウ』なるものが、千尋をああも無残な状態へと追い込んだのか……。
「中村、ENTの両名はどうやら我々の動きに気付いたらしい。途端になりを潜めた。だが……」
「代わって、この男が動き出したということか……」
「警戒すべきは、あの二人だけではなかったのね」
「…………放置してはおけまい」
「しかし、ぎりか、どうする? 真名はもう現地へ向かっている。ユキミも出払っているし、並の『転校生』ではデスシャドウの相手は荷が重いぞ」
「代わって、この男が動き出したということか……」
「警戒すべきは、あの二人だけではなかったのね」
「…………放置してはおけまい」
「しかし、ぎりか、どうする? 真名はもう現地へ向かっている。ユキミも出払っているし、並の『転校生』ではデスシャドウの相手は荷が重いぞ」
しばしの沈黙の後、ぎりかが口を開く。
「ロイドだ……」
「なにっ……!」
「ロイド……ロイド安藤だ……! ヤツなら、きっとデスシャドウを打ち倒してくれるはずだ……っ! ロイドを、ロイドをやつらの下に送り込む……っ!」
「なにっ……!」
「ロイド……ロイド安藤だ……! ヤツなら、きっとデスシャドウを打ち倒してくれるはずだ……っ! ロイドを、ロイドをやつらの下に送り込む……っ!」
To be continued 『GKからの依頼No.2』に続く
『識家の音楽会』
「よし、次はこっちの世界とあっちの世界を接合させて…………ふう!」
「えっと、この子の関係性を剥奪して、こっちの子に再付与して…………はあ」
「おいおい! またスズハラ機関が新しい『転校生』を作ってるぞ! なんなんだよ、一体……!」
「えっと、この子の関係性を剥奪して、こっちの子に再付与して…………はあ」
「おいおい! またスズハラ機関が新しい『転校生』を作ってるぞ! なんなんだよ、一体……!」
ここは『サヘートマヘート』空間。
白痴のごとき末那識千尋を中心に据えて、その周りで識家のみんなが一生懸命毎日の仕事に励んでいる。
白痴のごとき末那識千尋を中心に据えて、その周りで識家のみんなが一生懸命毎日の仕事に励んでいる。
「ふう……識家の仕事は疲れるなあ。おい、こんなときは"アレ"だ……」
「あっ、"アレ"ね……!」
「いいな! 気分転換にはやっぱり"アレ"だよな!」
「あっ、"アレ"ね……!」
「いいな! 気分転換にはやっぱり"アレ"だよな!」
意気投合する識家。
阿摩羅識あらかは一度奥に引っ込んだかと思うと、どこからか太鼓を取り出してきて、
阿摩羅識あらかは一度奥に引っ込んだかと思うと、どこからか太鼓を取り出してきて、
ボン、テン、ポン
と叩きはじめた。
「イエェー!」
「ヤフー!」
「ヤフー!」
そう、音楽会である。
識家では仕事に疲れたとき、みんなで音楽会を開いてストレス発散するのが倣いであった。
識家では仕事に疲れたとき、みんなで音楽会を開いてストレス発散するのが倣いであった。
ボン、テン、ポン。
それにしても下手糞な太鼓である。
いや、しかし、技術に囚われず思いのままに太鼓を打ち鳴らす姿はパンクロックと言えるのかもしれない。
いや、しかし、技術に囚われず思いのままに太鼓を打ち鳴らす姿はパンクロックと言えるのかもしれない。
「そうだ、あたし、最近フルート始めたの」
今度は阿頼耶識そらがフルートを取り出す。
ぴー、ぷー、ぷふぃー。
これまた下手糞で単調な、実に雑音のごとき音色である。
しかし、これほど下手糞でありながらも人前で憚りなく演奏する態度は、やはりこれもパンクロックと言えるのかもしれない。
しかし、これほど下手糞でありながらも人前で憚りなく演奏する態度は、やはりこれもパンクロックと言えるのかもしれない。
「イエーイ!」
「チェーキラー!」
「チェーキラー!」
なんとパンクなことだろうか。
どうしょうもない太鼓とフルートにもかかわらず、識家の連中はノリノリで踊り狂っている。
どうしょうもない太鼓とフルートにもかかわらず、識家の連中はノリノリで踊り狂っている。
す、すると、どうしたことか――!
普段は白痴のごとくに鎮座まします末那識千尋までが、両手を空に彷徨わせ、まるで踊っているかのような姿を見せ始めたではないか。
それだけではない!
あらかやそらのパンクロックにあてられたのか、千尋は「Fuck!」「Shit!」と、冒涜的な言葉さえ紡ぎはじめている!
それだけではない!
あらかやそらのパンクロックにあてられたのか、千尋は「Fuck!」「Shit!」と、冒涜的な言葉さえ紡ぎはじめている!
「見て! 千尋ちゃんが踊ってる!」
「おお、千尋嬢にも音楽を愛する心があるのか!」
「おお、千尋嬢にも音楽を愛する心があるのか!」
識家の連中もノリノリだ!
「あっ、そうだ。忘れてたわ」
今度は阿頼耶識ゆまが懐からヘッドドレスを取り出した。
メイドさんが頭に付けてるアレである。
メイドさんが頭に付けてるアレである。
「千尋ちゃん、ハゲだけど似合うかなと思って」
といって、千尋のハゲ頭にポンとかぶせてみる。
主家の令嬢に対する態度とも思えぬが、ゆまの稚気に識家一同はやっぱりノリノリだ!
主家の令嬢に対する態度とも思えぬが、ゆまの稚気に識家一同はやっぱりノリノリだ!
「これはあざとすw 萌えーwwww」
「テラあざとすwwwww」
「マジあざとすwwww」
「テラあざとすwwwww」
「マジあざとすwwww」
こうして識家のみんなは、下劣な太鼓とかぼそく単調なフルートの音色がひびく『サヘートマヘート』空間の深遠にて、冒涜的な言葉を吐き散らす千尋を中心に小一時間ほど踊り狂った後、ごはんを食べてから仕事に戻ったのであった。
――ところで。
本来、『ルンビニー』世界に存在する者は『サヘートマヘート』空間に関与することは一切不可能なはずである。
だが、世の中には「見神」と呼ばれる体験が存在する。
この世ならざるものの姿を不意に垣間見ること。
それは『ルンビニー』世界においても起こりうる。
だが、世の中には「見神」と呼ばれる体験が存在する。
この世ならざるものの姿を不意に垣間見ること。
それは『ルンビニー』世界においても起こりうる。
その男、魔人アブドゥル・アルハザッド、――後に「狂えるアラブ人」と呼ばれるかの男が識家の音楽会を目にしたのも、稀ではあるが、決して不思議なことではない。
そして、彼はその奇妙なヴィジョンを一冊の書物に書き記した。原題『アル・アジフ』。後の世に『ネクロノミコン』と改題されることになるその書は、アッシュの手を経由し、出鯉真名の手に渡り、彼女にこの世の理を気付かせる一助となる運命であるが、それはまた後のお話……。
そして、彼はその奇妙なヴィジョンを一冊の書物に書き記した。原題『アル・アジフ』。後の世に『ネクロノミコン』と改題されることになるその書は、アッシュの手を経由し、出鯉真名の手に渡り、彼女にこの世の理を気付かせる一助となる運命であるが、それはまた後のお話……。