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チームωSS2



黒凪朱里



それは蒸し暑いある夏の日のこと。
世界中全てにこだましていると思えるぐらい、大きな声でミンミンゼミが鳴いていた。
アルミサッシの簡素な窓、無機質な蛍光灯の照明、汚れたリノリウムの床、キズだらけ勉強机とその上に添えられた花と写真――今この場で聞こえる音はセミの鳴き声以外には二つしかない。
死者への手向けであるお鈴の音色と、故人を慰む彼が生きた証を読み上げる声。
「この度、いじめを苦に自らの命を絶つことになってしまいました私達の愛すべきクラスメートである清田くんの葬儀を簡素ながらも取りおこなわさせていただきます。さて、死んだとき我々は何をしてほしいか、それは自分の生きた証を覚えていて欲しい。そう思うはずです。故人、清田くんは生前こう仰っておりました――天使と悪魔との間に生まれた金と銀の瞳を持つ忌み子。善と悪、聖と邪そうした背反する性質両方を持つアンヴィヴァレンツな雰囲気をかもし出している。また、その容姿は色素が薄く線の細い天使のような美貌をもつ美男子だが、その姿とは裏腹に両親の強い力を受け継ぎ彼のポテンシャルは強大である――」
これは彼を送るための大切な儀式。
参列者は10名ほど。皆、粛々とした雰囲気で彼を悼んでいる。
「彼の職業は精霊使い(エレメンタルマイスター)でありあらゆる術を使うことができるが更に同時にあらゆる武器の使い手でありさらには総ての体術を使うこともできるが本当の武器は魔剣・儚眠剣である。この魔剣は通常の人間が使うとその魔力に耐え切れず、精神崩壊を起こしてしまうため彼以外の人間は全く使いこなせないと言われている――」
なにか喚き声のようなものが聞こえたような気がしたが、そんなはずはない。ここで聞こえるのはセミの声と死者を弔うための声と音色だけ。
「だが、さらに強大な内に秘められた魔力を本人も知らない。その隠された力を見抜いた者たちは彼を神話の時代に生きた英雄・ロドリゲス=エル=サンボの転生体であると言っていると言われている。 様々な人間業とは思えない功績を挙げているがその正体は謎に包まれており、本人も自分の素性を話そうとしない」
何かが足元で暴れているような気がするが、そんなはずはない。ここに集っているのは故人を懐かしむ人のみ。
「今はその内に宿す新世界創生の力をコントロールするためにチョモランマに住むと言われるペ老子のもとで修行している。そして――」
続きを読み上げようとしたが、読み上げ人に踏みつけられていた、葬送されているはずの清田くんが束縛から無理やり抜け出して自分の固有結界帳を奪い取った。
「何でこんなひどいことをするんだよ!朱里ちゃん!」
「へっ……ざまあ」
黒凪朱里、初の生前代理中二葬であった。


コバヤシ1



コバヤシ参加SS

「ふむ……どうしてもここから先は通れないということだね……弱ったな」
「そうなんですよ。何度もお伝えしたように貴方は参加者リストにも登録されてないですし、受験票もお持ちでない。だから、ここをお通しすることはどうしてもできないんです。ですのでお帰りいただけないでしょうか?」
魔人暗殺者試験会場の受付のバイトをしていた大石忠浩はおかしな男に絡まれ困り果てていた。
会場は辿り着くのはおろか見つけ出すのも難しい場所なので、この男が来るまで彼はおおむね型通りの受付だけを行っていた。
受験資格も与えられていないような人間がいったいどうやってこんな場所に来たのか大石にはまったく見当もつかなかったが、とにかく男は現れ先へ進もうとした。
こんなところにくるヤツがマトモなはずがない。大石はそう思い、なるべく男の気分を害さないように謙りながらもう30分近くも男を留めていた。
(いくら破格の時給だからってこんな仕事受けなければ良かった)
「まいったな。どうしてもここを通らなければいけないんだが」
そうこうしてる間に、大石の視界に二つの人影が止まった。どうやら新しい参加者がきてしまったようだった。
(ああ、彼らを受け付けないといけない。でも、この男の子ともあるし、でも、どうせ向うの2人もやばいから機嫌を損ねたくないし)
大石は混乱してきていた。
しかし、そんな大石をよそに彼らは大石と押し問答を続けている男の姿をみて驚愕の表情を見せていた。
「こいつは……危険度トリプルSクラスの……!」
「おい、夕兎、こいつを殺したらくだらん試験をすっ飛ばして一気に資格をもらえるんじゃ……」
なにやら物騒なことを2人が言い出したので、大石はますます混乱してきた。
「あの!お二方もうちょっとお待ちくださいね。今ちょっと手が埋まってるんで!すぐに受け付けますからね!少々お待ちくださいね!」
「……受付さん。彼らは参加者かい?」
「え?はい?えっと、そうですね、名簿に載ってます御禰岸さんと桜塚さんですね」
「じゃあ、彼らはここを通るための参加票のようなものを持っているわけだね。なるほど……無駄な殺生はなるべく避けたいけど、やむおえないかな」
男はそう言うと懐から本のようなものを取り出し、つぶやいた。
「不倶隷 目楼那訶 朱誅楼 楼楼隷 阿伽不那瞿利 不多乾」
 男がそう言い終わると。受付の机に飾られていた花から一枚の花弁がハラリと落ちた。

…………
「うーん、なんだろうこれかな。よくわからないな。なんだか気味の悪い集まりのようだし……受付さんこれでとおしてもらえるかな?」
男はそういうと受験資格を与えられたという旨の書かれたメールと受験票を大石に見せた。
「あ、はい。そうですね。どうぞお通りください」
「うん。ありがとう。これで地球は救われる。あと、桜塚くんは欠席だと伝えた方がいいかもしれないよ」
「あ、はい。そうですね。ありがとうございます」
男は先へと進んでいった。
大石にはもう2度と正常な判断を行うことはできなくなってしまっていた。


コバヤシ2



関西ピラミッド

探偵存在・奏秋一郎はそのあまりに異様な光景を目にした時ただただ立ち尽くすしかなかった。
彼がこの世に探偵としてあるようになってもう20年が余りが過ぎようとしていた。その長い年月の間、様々なものをみて来ていた。
陰惨な殺人現場もあった、悲惨な魔人同士の争いもあった、奇矯な遺産相続もあった、奇人の作り出したおかしな作りの館に行ったこともある。
しかし、そのどれも今この時、彼の目の前にあるモノにかなうことはなかった。
彼に今回持ち込まれた仕事は、世界各地で起こる突然死の調査だった。何の前触れもなく何の法則性もなくまったく唐突に人が死ぬ。これは明らかに魔人の仕業でしかない。
魔人の起こした事件の調査を得意とし、また世界の真実を知ることができるという能力により魔人の脅威から逃れることができる奏にその調査の依頼が回ってくるのは当然のことであり、また彼自身もそう受け止めていた。
調べを進め原因が特別危険区域に指定されている関西にあることがわかり彼は実地調査に赴いた。
関西に到着し奏でが感じたのは、そのあからさまな人気のなさだった。
彼は2004年に崩壊した後もその職業柄何度か関西には足を運んだことがあった。その時は町はボロボロであったが、幾分か活気があったが、今はそれが感じられなかった。
閑散とした廃墟を進み、奏ではかつて目にしたことのない光景にたどり着いた。
それは、言うなれば墓だった。地平の彼方まで整然と並べられた無数の死体。それらはその夥しい数の暴力により生前意味を一切なくし単なる死体となって並んでいた。そしてその彼方に聳え立つ、巨大なピラミッド。
「……いったい何が起ころうとしてるんだ」
ようやく動くことができるようになった時、奏ではその場を速やかに去ることだけ考えていた。


コバヤシ3



コバヤシの書記

2018年 12月24日 うす曇
実験は一通り終了し、生贄の高効率運用も可能になり、条件さえ揃えば遠隔地に住む人間も生贄にささげられることがわかった。
これで地球を救うことができる。
このまま放って置けば2月の頭に小惑星が激突することにより膨大な人的被害は元のことより地球環境は壊滅的な打撃を受けいずれは人類文明が滅することになってしまう。それだけは防がなければいけない。これまで数々の妨害にあってきたが、ようやくここまでこぎつくことができた。
この15年で覚えた知恵で最も役に立ったのは、コミュニケーションを行うことの有用性だと思う。丁寧な言葉を使い、低姿勢で接する。そうするだけで潜伏も生活も格段にやりやすくなった。このナチスと陰陽組織の争いの果て荒れてしまった土地である関西でもそれは同じだ。例えば、こうした努力が実を結び、今日もクリスマス・イブだということで集落の人たちからささやかなパーティに招いてもらえた。食事もおいしかったし言うことなし。大変、楽しく過ごすことができた。しかし、こうして今日明日、生きることが大変な状況でもあっても人々は歳時を感じて生きていけるのだと実感する。
こうした楽しい日々も今日で終わりだ。あとは何とか人類に残された期限までにパワースポットを見つけ出し小惑星回避のための儀式を行わなければいけない。
これまで多くの尊い犠牲を払ってきた。オレはそれを無駄にならないようにしなければいけない。
せめてもの弔いとして、大きな墓標を立てようと思う。彼らは地球を救った英雄だ。後世に残るようなものを建てようと思う。大きな規模のものを建ててもおそらくは今までの犠牲の半分ぐらいですむはずだ。
やはり高効率化が進んでよかったと思う。
さて、墓を建てたら旅だ。長い旅になるかもしれない。


コバヤシ4



コバヤシエピローグSS

「ここではないだと・・・・・・?」
暗く湿った阿蘇山の大空洞の中、コバヤシは顔をしかめそうつぶやいた。
今、ここは戦場だった。
しかし、彼はこの戦いにまったく興味はなかった。彼はただ目的の場所に到達し、ただ彼のなすべきことをなせばよかっただけだった。
それで地球は救われたはずだった。
「やはり……違う。ここはパワースポットとしては不十分だ……!」
彼は度重なる実験により得た感覚がここは適切ではないということを告げていた。
阿蘇山は霊験あらたかな山。世界中の人間を生贄にささげるには絶好のポジショニングであるはずだった。
「どうしても奉げれる生贄の数が足らない……」
コバヤシは苦々しい顔のまましばらく辺りをウロウロと歩き回りパワースポットの霊的強度を確かめた。
なぜか戦場を無防備に歩く彼が妨害されることはなかった。
「ダメだ……これでは小惑星が地球に……オレ達は今回も何もできなかったのか……」
コバヤシは絶望に打ちひしがれた。
彼はひざから崩れ落ちそうになったが、MMR仲間に自分が言ったことを思い出し、すんでのところで踏みとどまった。
「いや……あきらめない!! それがオレたちにできる唯一の闘い方なんだよ!!」
地球を、人類を救うということをもう一度心に決め。
コバヤシは阿蘇山をあとにし、新たな旅路に向かった。
そしてコバヤシは間に合わなかった。


コバヤシエピローグSS――明日を救え

2009年2月某日
とある場所にある世界を救うために結成された組織――ブルーフィクサーの司令室。
「ダメです、後はあの小惑星の軌道がズレてくれることを祈るより他の手はありません」
「なんてことだ……気がつかなかった……私の作戦ミスだ……あの小惑星がもっと遠くにあるうちに何とかしていればこんなことには……」
沈痛な面持ちで頭を抱える長官。
「世界連盟より入電!」
司令室に響き渡るピキーンという電子音。
モニターにはヒゲ面の世界連盟の偉い人が映る。
「月影長官、世界連盟の計算ではあと10分で小惑星は太平洋沖に激突し世界各地は津波に飲み込まれる。おそらくこの災害の死者は30億をくだらないだろう」
立ち上がる長官。
「連盟代表、私の責任です」
「月影長官、責任問題を云々してる時じゃない」
「しかっ――」
長官の言葉をさえぎり発言する紅一点の女博士。
「代表、こうなった以上、ブルーフィクサーと世界連盟の全軍をもって1人でも多くの人を救出しましょう」
「博士、残念ながらブルーフィクサーも世界連盟も動くわけにはいかない」
「え?」
驚愕の表情をあらわにする女博士。
「いったいどうしてだい!」
偉い人に問いかける力持ちポジションの男。
「もう、何もしても間に合わん。救えるのは少数の人間だけだ。そのために犠牲者がでれば、その後の救済活動に差支えが出る」
「なにを・・・!」
声を荒げる力持ち。
「まて」
それを制する長官。そして彼はそのまま偉い人に問いかけた。
「救える命も見捨てよというのですか?」
「少数の命のために、人類全てを滅亡に導くわけにはいかん」
「まってくれ!」
悲痛な表情で戦闘員のリーダーが投げかける。
「30億の命が死んでいくというのに……誰も……誰も助けることはできないって言うのか!」
黙り込む偉い人。
「何とか言ったらどうだ!」
「残念なのは私も同じだ。諸君の安全を祈る」
再度室内に電子音がピコーンと響き渡る。
残されたのは真っ黒なモニターだけ。
「なんてことだ私の作戦ミスの為に……」
崩れ落ちる長官。
「長官、自分を責めないでください。だれもこんな事態をはじめから想像もしません」
「しかし」
司令室に響き渡るアラート音
「小惑星太平洋に激突!太平洋上に津波発生!」
そして、世界の各地で人も町も船も飛行機すらも津波に飲み込まれる。
地上の全てが洗い流される。
世界に響き渡るムーディーな音楽。世界の終わりを告げる音楽。

世界連盟の計算も虚しく、津波は予想外の被害を出しブルーフィクサーも世界連盟も大きな打撃を受け、救済活動はままならなかった。
文明に環境に大きな被害を出したこの災害を境に人類は衰退した。その後、数年の時を経てこの数千年栄華を築き上げていた人類文明は終幕を迎えることとなる。