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 「死神、クロナが極限状態のときにどちらを呼ぶかわかるか? 俺には判るぞ、コイツは絶対にラグナロクと俺を呼んで俺に縋る。絶対にな」
 「……試すか?」
 「絶望して自殺しちゃイヤだぜ死神くん」
 応える代わりにキッドが僕の腕をつかんで引っ張った。ものすごい力、あの細い腕のどこにこんなパワーが宿っているというのか。
 「い、痛いよゥ!」
 声を上げた瞬間に全身が凍った。……凍る、という表現は正確ではないかな。止まる、と言えばいいのか乾く、と言えばいいのか。動く事を禁じられる。瞬きでさえ。
 「あへぇえ!」
 くちびるだって動かない。いつもは口だけは必ず動かせるようにするラグナロクが!
 「おいおいクロナ、暴れるから爪が寄れちまってるじゃねぇかよ?」
 猫なで声で耳元の大男が優しく問いかける。ゾクゾク背筋が蠢いている。
 「姉ちゃんに怒られちまうな? そら、これ以上寄れないように」
 動かせない腕がゆっくり自分の意思とは別の命令で伸びてゆく。そしてまたパイプをぎゅっと握った。
 『わかったよラグナロク。君の命令なら全部聞くよ。なんたって一心同体だからね』
 自分の声がした。口が勝手に動いて喉が自動的に震える。いつものラグナロクの声色じゃない。僕の身体を完全に支配してしまっているのか!
 「フン、下らない音遊びだな。意思のない言葉だと返事だけで判るわ」
 溜息のようにキッドが言った。僕のみっともない身体に手を伸ばしてガラス細工に触れるように指を絡めてゆく。とろとろ滴る死神の唾液が僕に絡み付いてゆく。目が逸らせない。生ぬるい唾を延ばすように二・三度扱かれた。
 「あひぃぁ!!」
 「そうだクロナ、反逆しろ。お前の身体の主人を思い出せ」
 うるさいな!ふざけんな!僕の身体は僕のものだ!誰がお前らなんかに自由にさせるか!
 自分でも珍しいと思うくらいカッと頭に血が上った。僕の身体を好き勝手に弄くる奴らが急に腹立たしく思えて、いつまでも僕が大人しくやられてばかりいると思うな!と怒鳴りつけてやりたい気分だった。
 「嫌いだ!」
 声が出ていた。
 二人がきょとんとした顔でこちらを見ている。
 「僕はキミ達のオモチャじゃない!痛いのも苦しいのももうイヤだ!」
 身体は動かないのに、声が出る。顔は動かせないのに、涙は零れてゆく。心臓は勝手に動くのに、頭は凍ったまま。
 「なんで仲良くしてくんないのォ!? やだよ、喧嘩すんのやだよ、怒鳴り声も嫌い!従わされるのもイヤ!無理矢理捻じ込まれるのなんかサイテーだァ!!」
 僕が喚き散らすのを終えてはぁはぁうぐうぐ声にならない嗚咽に溺れているところに、まずキッドの笑い声が聞こえた。その次にラグナロクの引き笑いが聞こえた。
 混乱した僕が口を開こうとした瞬間に僕の体はふわっと浮いてキッドに抱きかかえられた。身体の自由は無いままに。
 「無理矢理捻じ込まれるのが最低? 面白いことを言うな、では何故こんなにもおれが締め付けられねばならんのか説明が欲しいところだ」
 ぐいと足が開かれて、ほんの少し鎮まっていた裂け目が割り広げられたと思った時には既に遅かった。ビクビク意思では止められない痙攣が断続的に繰り返される。
 「あひぇっ!」
 「ほら、動いているのが判るだろう? さすがにこれがラグナロクの仕業とは思えないが?」
 「当たり前だろう死神。俺様が出来ることなんて、このくらいのモンさ」
 「いひぇあ!?」
 慇懃な仕草で尻肉を持ち上げるように掴み、ラグナロクの舌がポンプみたいに蠢いて、お尻に突き刺される。ぎゅぽ、ぎゅぽ、と音がする度に吐き気に似たものが込み上げて来る!

 「いやぁああ!?なに!?なんなのラグナロク!」
 「涎をケツにな。グリセリンより安心だぜ、なんたって動物性由来だから」
 「いいいやァ~……!やだぁーー!なんれ、なんれそんなこと……!」
 声が掠れる。震える。がたがた身体が揺れている。
 ……揺れている?
 「やらっ!ちょっと!キッド!やめて!今動かないでェ!」
 「おれを好きと言うなら腰をとめてやろう」
 「俺様を好きと言えば身体を自由にしてやるよ」
 自分の悲鳴と同時に二人が楽しそうな声を上げた。子供みたいな無邪気さで。
 「やめて、ホントに二人とも、もうダメだよ、トイレに行かせて!」
 がくがく揺らされる身体がシェイクされて頭が狂いそう!お尻が熱くて股が大きく広がっているのが不安で仕方ない……のに、なのに、痛いくらいに勃起している自分が悔しくて腹立たしい。
 「ならば言え、どっちが好きだ?」
 「そうだクロナ、早く決めろよ。クソ塗れのベッドで寝る気か?」
 ラグナロクに言い方にぞっとした。視線を必死でめぐらせてベッドの脇にWCの看板を掲げたドアを思い出す。さすが豪邸、客間にいちいちトイレがあるとはなんて素晴らしい造り!
 「ああ、許して、許して、どっちかなんて決められないよ!」
 「だめだ。さあ答えろ、キッドと」
 「まさか一心同体のラグナロクの名を袖にはしないよなぁクロナ」
 「さあ」
 「さぁ」
 『どちらが好きだ?』
 台詞が重なって、僕の頭はついにプッツンしてしまった。
 「ら、ラグナロクーっ!」
 余りの大声に驚いた二人が力を抜いた途端、脱兎のごとくトイレに駆け抜ける。
 力一杯ドアを閉めたあとの狭いトイレの中で聞くラグナロクの高笑い。
 「ゲシシシシ!ざまぁねぇな死神野郎!あっさり捨てられてご愁傷様!」
 恥かしい、聞かれたくない、用を足す音なんて!いつもならラグナロクはトイレなんかで出てきやしないのに、真っ暗の闇の中でも視線を感じて全身が瘧のように震えて止まらない。
 「やだぁ、見ないで、聞かないでよォ~!」
 「ぎゃはははクロナ!いい格好だぜぇ、変態の死神野郎なら泣いて喜ぶんじゃないのか!?」
 情けなくて恥かしくて盛大に涙が出てくる。下る音はまだ聞こえていて、身体の中のものが全部出てるみたいだった。声を上げて泣きたい!
 「……ふふふ、クロナ……流石のおれも今のは少々堪えたぞ……」
 心臓が止まる音って聞いた事ある? ガン、て、ほんとに、ガンって音がするんだよ。今聞こえたもの。
 ぱっと電気がついて、狭い箱に光が溢れる。箱の中で間抜けに座っている酷い顔の僕を見下ろすようにキッドがドアを開けたのだ。失礼とか痴漢とか、そういう罵りを思いつきもしなかった。だってあんまり堂々としてるんだもの。
 「だって、だって……!ほんとに、漏れちゃいそうだったんだもん~!
 キッドが止めてくれてもラグナロクが主導権返してくれなきゃ僕動けないんだよ!?」

 我ながらものすごいのん気な抗議だと思った。でも、根本的な怒りが込み上げて来る前に矢継ぎ早という風に目まぐるしく事態が深刻化していって、脳みそがちゃんと処理してくれない。
 「いいや、嘘だな。お前は所詮そういう女だ。おれを弄んで最後には捨てる」
 「ちょちょちょっと!? 何の話だよ!? そもそもキミは最初僕達に脅されて無理やり……」
 「僕たち? 僕たちだと? ……そうか、おれの立ち入る隙など最初からないということか」
 「だから何勝手に納得してるのさ!?」
 「仕置きだ、クロナ。金輪際おれの命令以外きけない体にしてやる」
 乱暴に腕を引っ張られて、思わず本気で手を振り払った。だってまだトイレ流してもないんだよ!お尻だって拭いてないしね!?
 キッドの目が本気で怒っているような気がして一瞬焦ったけれど、ラグナロクが僕たちの間に強引に割り入ってきて視界が遮られた。
 「言うねぇ死神。この俺様を差し置いてこいつを調教しようなんざ100年早ぇ」
 「フン、身動きを封じるだけのお前にクロナに悦びを与えられるのか?」
 「粋がるなよ死神野郎、毎晩こいつの身体を慰めてやってんのは誰だと思ってんだ?」
 「クロナの体におれの体液の這ってない場所などない」
 「クロナの体に俺の指の入ってない穴なんかねぇ」
 二人の舌戦がヒートアップしている間にとりあえずお尻を拭いて水を流した。コレで一応一安心。ふうと息をついたらようやく脳が演算を終了したらしく、二人の会話の内容が理解できた。
 「ちょっとなんなんだよ二人とも!冗談にしても度が過ぎる!」
 「ではクロナをイカせるのが遅かった方が手を引くというのはどうだ。おれが勝ったら金輪際おれがクロナを抱いている間の干渉を禁ずる。お前が勝てばこれから先は全てお前の思うとおりに動いてやるよ」
 「はん、ずいぶん俺様に分のいい勝負だな? 禁じられたところで身体の中からクロナを操るなんざ容易いことだぜ」
 「お前は守るさ。普段下に見てるおれごときに負けた挙句に不正など出来るほどプライド低くは見えんのでな」
 「――――――勝負方法は同時挿し。お前は前、俺様はケツだ」
 「よかろう。同時挿しならクロナが絶頂に達した瞬間が3人同時に判断できる。実に公平だ」
 「ちょっとちょっとちょっと!!」
 「心配するな、必ず生まれてきたことを感謝させてやる」
 今まで見たことも無い程むちゃくちゃいい笑顔でキッドが親指を立てる。
 「そうじゃない!やだよなんだよそれ!普通にされるだけでもやなのになにお尻って!馬鹿じゃないのキミ達!しんじゃうよ!」
 「良かったなぁクロナ、さっきの浣腸が無駄にならなくて」
 これまた見た事もないくらい優しく微笑むラグナロクが僕の頭と腰をゆっくり撫でた。
 「ラグナロクのばかあああああ!」
 共鳴する相手もなく、悲鳴だけが狭いウォータークローゼットに響く。
 あっという間にひょいと抱え揚げられたかと思うと電気が消えてまた闇に逆戻り。光に慣れた目に薄闇は恐ろしくて、どうやって引っ張り出されたのかも解らぬまま正常に空間認識が出来たときには自分の口からカエルを踏み潰したような酷い声が出ていた。
 「ぐがぁぅえぇぇあ!」
 夕食のビーフストロガノフ(パティの得意料理なのだそうな)がそのまま口から出そう。
 「おいクロナ、もちっと色気のある声を出せよ」
 ラグナロクが背中でひっひっひと笑う。胸をつかんでいる大きな手が突起を引っ張って痛痒い。お尻に差し込まれているラグナロクの身体の一部は自在に動いてて、まるで触手だ。

 「やめ、やめて、ラグ、なろ、ク!……なか、うごい、出ちゃ…っ…!」
 「ぐるりと全部確かめてやった。中にもう何もねぇよ」
 完全に浮いてる顎がぐっと力一杯反らされてラグナロクの降るような唾液に鼻を塞がれてしまった。喉に流れ込んでくる大量のラグナロクのゾル状の体液が生臭くて僕は酷く嘔吐いてしまう。
 「げへゅ、ぐひゅ、がはぉ!」
 「おお、可愛そうにクロナ」
 芝居がかった口調であの大きな口をあけて、ラグナロクが僕の口に幾筋もの触手を伸ばし、鼻の穴や口から直接ヨダレを掃除機みたいに吸い取る。ぞぞぞぞぞ。重苦しい振動が脳髄に響いて、そのたびに息が楽になって、嬉しい。
 「げほ、げほ、げほっ!」
 普通に咳払いが出来てホッとする。酸素万歳。
 「クロナ」
 「はい?」
 声がした方に顔を向けた途端にバクッと音がしてキッドに鼻を吸い付かれた。そのまま無理やり彼がしたことがすごい。
 ずるずるずるずる!
 「ぎへぇぇぇぇぇぇぇ!」
 信じられない!何その対抗心!絶対間違ってるから!そんなの全然嬉しくないから!!
 ぷは。満足げなキッドの顔がどうだと言わんばかりで、僕は気絶しそうになった。喉も鼻もすっきり爽快ですごく死にたい。耳がつーんてする。泣いていいですか。
 「……やるな死神……俺でも今のはちょっと躊躇するぜ……」
 「クロナの鼻水ぐらいいくらでも飲むぞおれは」
 神様
 仏様
 アラー様
 名も知らぬあまた犇めく八百万の神様たち
 その全部に文句をつけたい。僕がいったい何をしたって言うんだ? これが何かの罰なのか。だとしたらお前ら全員僕の敵だぁ!!
 「あふぇ、あひぃん……んは、んは、んんん~!」
 ずくずく振動は続いていて、骨盤がどうにかなってしまいそうなことを思い出したからそんなことすぐ忘れちゃったけど。
 「どうしたクロナ、いつもよりずっと気持ちいいらしいな。中がゴリゴリ音を立てているぞ」
 キッドが無体なことを言って、少し冷たい手を、僕の、股間の、それに……!
 「いへぇやぁぁぁ!!」
 これ以上ないくらい敏感になっている僕の外部性器がキッドの指に包まれて、優しくもどかしく擦られた。
 「ははは、すごいな。ソウルの柄くらいになってる」
 楽しそうに笑うキッドが憎かったわけではない。説明の出来ない感情がそう命令したから、途切れる呼吸を振り絞って声を出す。諦め半分脱力半分そこに少しの安堵と期待を振りかけた僕はキッドの胸に頬を寄せた。
 「キッド」
 「何だクロナ」
 「僕のおちんちん、舐めてくれる?」
 ぶはっと頭の上で噴出す音が聞こえた。二つ。
 『ななななななななな!!?』

 「ラグナロクも舐めた事ないんだよ。気持ち悪がってさ」
 尿道に細くした指を差し込まれた事はあるけどね、とは敢えて言わない。実際ラグナロクの舌が僕のアレに這った事はないのだからまあいいだろう。
 「勃起はするけど射精はしたことないの。ガラクタなのさ。憐れに思ってくれるのが本当なら、舐めて射精させてよ」
 少し笑って言う。
 怯んだのが判る。
 ざまぁみろ。
 たじろぐキッドが面白いと思った。
 苦虫を噛み潰して飲み込んだみたいに眉間に皺を寄せたキッドが渋い声で唸ってる。あはは、楽しい。
 「……よかろう」
 ――――――はェ?
 阿呆みたいな声が勝手に出た。
 「舐めてやる」
 耳のなかが乱反響しているみたい。
 ――――――ナニヲ?
 「クロナのペニスを」
 ――――――だめだこいつ、本物の変態だー!!
 「いひへぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!たたた助けてラグナロクーっ!」
 慌ててキッドの身体を突き飛ばし、シーツの上を転げるように逃げた。本気で。
 「うわっ!寄るなクロナ馬鹿!この変態!変態!染る!キモチワリーこいつらぁあぁぁ!!」
 「いやー!引っ込まないでぇぇぇ!独りにしないでええぇぇぇ!」
 霧散し始めたラグナロクの腕をしっかと掴み、僕はもう死に物狂いに程近く悲鳴を上げた。
 「離せ!きもい!変態性欲者が!触るな!噛み付くぞコラァ!」
 ものすごい形相で威嚇したと思ったら、しぽんと軽い音を立ててラグナロクが背中の傷に丁寧な蓋をして引っ込む。ううう裏切り者ォ!
 「き、キッド、落ち着こう。冷静になれ? な? 男性器だよ? そんなもん舐めてどーすんの?」
 ずりずりと後ずさる僕。
 「射精させる」
 じりじりと前のめる彼。
 「ばばばばばばかじゃないの!! しないっつってんだろ!? まぁ気を静めよう? キッド、自分の股間についてるのと同じ物ですよ? 気持ち悪いよね? ナシだよね? 常識で考えて?」
 「睾丸がないからさほど奇異には写らん」
 しれっと言い放つキッドの顔がようやく闇に慣れた目にうっすら見える。ド変態がいますよー!ここに涼しい顔して恐ろしい事を言い放つ凶悪な変態がーッ!!
 「いいいいいやあぁあぁぁああぁぁああぁぁ!!」
 絶叫した。気持ちいいくらい絶叫した。金色の目がいつも通りつまらなさそうに半分になってて、壁際に追い詰められていたのにようやく気付いた。いつの間に僕の腰の下に手を突っ込んディスカー!
 「んぐっんむ~~!!むぃ!むぃ!むいぃぃぃぃ~!!!!」
 片手で口を押さえられ、片手が腰からあっという間に肛門に至っていた。全身全力で反抗するのに、上手く力が分散されない。なにこれ、なにこれ、なにこれぇ!?
 ずぐぐぐ、と恐らく中指が僕の内部に侵入した。ラグナロクの涎が残っているのか、割とスムーズで簡単に吸い込まれるように。
 「あふぇ、あふぇ、えひぃぃぃぃ……!」

 うそだ、うそだ、うそだ。なんで、あそこでもないのにこんなぐぢぐぢ音するのぉ? ねちねちかき混ぜられる音がして腰が痺れて動けない。痙攣する二つの性器がゾクゾクしている。
 「ふぅん、前立腺は普通に機能するんだな。或いは睾丸は内部にあるのかもしれない」
 キッドがお尻の中の何かを確かめるようにまたグリグリと指をかき回した。もちろんそんなもの構ってる余裕はコチトラにはないから、必死によく通る鼻で呼吸するだけ。
 「良かったなクロナ、上手にすれば射精できるぞ」
 キッドが親切な顔でにっこり笑った。うふふ、なにその天使の笑顔!死神の癖に!!
 「いいいいいです!結構です!したくないれすぅぅぅ!」
 両手に渾身を込めて口を塞ぐキッドの手を引き剥がして悲鳴をあげた。
 「時にクロナ、爪はどうした。そんなに強く力を込めては歪んでしまうのではないか?」
 はっとして両手の爪を確認する。酷い有様、目も当てられないほどに寄れて擦れて跡がついているじゃないか。自分の顔が見る見るうちに真っ青になるのがわかった。
 「あーあ、リズ悲しむだろうなぁ……一点ものだからもうどうやっても手に入らない」
 「う、う、うううぅぅぅ~どどどどうしよう~!」
 暗澹たる気持ち。こんなに悲しい事はない。あんなに頑張って守ったのに。
 両手を顔に当てて涙が吹き出る寸前、キッドの軽い声が聞こえた。
 「さて取り出したるはこのマニキュア瓶」
 ピンク色にうっすら光るキッドの片手に、彼の目と同じ色をした形も全く同じ瓶がちょこんと乗っていた。まるで魔法のように。
 「あんまり気に入っているらしいから、内緒でもう一瓶作らせておいたんだ」
 「……そ、それ、どっから出したの?」
 「ここは企業秘密としておこう。……それより、取引に応じるか?」
 「な、何をすればいいの?」
 「何もしなくていい。むしろ何もするな」
 「はぁ?」
 「おれがお前のペニスを射精させるまで身動ぎを禁ずる」
 「いへぇあぁぁ!?」
 「おれの気が済んだら爪に色を塗ってやろう。どうだ、いい取引だろう? 丸儲けじゃないか」
 「や、やだ、やだ、やだよ!……だってそんなっ……いいいいやだよ!」
 「女性器を舐められるのは好きなくせに、何故そんなにペニスは嫌がる」
 「ペニスペニス連呼するな!このド変態が!イヤに決まってるだろ!ホモかよ!」
 「……ふうん、つまり、女としておれに仕置きされたいのか」
 にやーっと死神が悪魔の顔をして笑う。
 「じゃあ両方の性器を同時に可愛がってやる」
 涙が
 飛沫になって
 どことも知れないところに
 散った。
 「いやあああ!? やああああああああああ!!」

 真っ赤なタイを無造作に襟から引き抜き、暴れる僕の手首を縛る。
 「本気で仰け反るお前の身体を支えるのは片手じゃ足りなさそうだからな」
 両腕の環の中に頭を通してキッドが意地悪く笑いながら言った。
 あとの手順はいつもの通り。足を開かれて、つまびからかにされたそこに、キッドの直立が宛がわれて、確かめるように押し入ってくる。掠れてひび割れて、なのにどこか濡れている声が骨に響く。
 「あ゛っ、あ゛っ、あ゛あっ……!」
 口の端から涎の筋がツーッと走った。溺れているみたいに息が出来ない。見開いた目が乾いているのに涙が溢れて止まらない。
 「……どうしたクロナ、入れるときにそんなに力んでは痛かろうに」
 いつもよりひどく興奮しているみたい。ずきずき痛い男性器が空気に触れているのがとても怖かった。時々キッドや自分の身体に触れると飛び上がりそうに疼く。
 「……恥かしくて死にそう……!」
 「そうだな、ラグナロクに尻を犯されてるより締め付けてる。見えるか? ほら、ペニスがぴくぴく動いてるぞ」
 「き、ド……許して……もう、やだぁ~!」
 「不思議なもんだな、お前の中に居るのにペニスをいじるというのは」
 「聞けよこの変態死神!」
 腰が融けてドロドロに糸を引く。キッドの少しひやっとする手はじっとり汗ばんでいて、丁寧に包まれる過程が見てもないのに刻々と脳裏に更新された。柔らかくて繊細な指の仕草に急かされて、思わず何度も腰が浮いてしまう。
 「は、ははっ……クロナ、よさんか、そんなに腰を振ってはおれがもたん」
 嬉しそうなキッドの声もどこか遠い。
 「気持ちいいか? おれがペニスを触るのがそんなに気持ちいいのか?」
 意地の悪いキッドの台詞さえ意に介せない。
 「返事をしろクロナ。快感を貪るのに感けておれのことを忘れてくれるなよ」
 そんな声が聞こえたから、決死の覚悟で僕は叫んだ。
 「大好き……!」
 息が出来ない。
 息が出来ない。
 息が出来ない。
 マカが僕の手を握ってくれて、嬉しかった。でも同じくらい怖かった。どうしたらいいか解らないくらい身体が震えた。
 堪らなく嬉しいはずなのに、マカの温かさが、マカの笑顔が、マカの気遣いが、重たくて申し訳なくて、辛かった。こんなに素敵な世界に繋がるものを、僕は何も考えず切り刻んでいたのだ。ただ命令に従う為に。ただメデューサ様に捨てられない為に!
 僕は卑怯者だ。僕は臆病者だ。僕は優しくされる資格なんてない。
 なのに、この胸に仕舞っておけない悲鳴。
 誰か助けて。
 誰か、誰か、誰か。僕を助けて。独りの僕を救って。僕を……見てよ。
 「クロナ」
 急にキッドが僕の名を呼び、腕の環から頭を抜いて、乱暴に手首に結んでたタイをしゃくり取ってどこかへ投げ捨てたと思ったら、僕を強く胸に掻き抱いた。
 「この胸に刻むから、もう一度心臓の近くで言ってくれ」
 涙が鼻にまで溢れて、声にならない。
 濁音ばっかりで意味の通らない言葉を何度も何度も繰り返した。キッドの鼓動がどんどん早くなっていく。その音に掻き消されるまいと、何度も何度も同じ言葉を口にした。まるで懺悔のように。
 解かれた腕が掻き毟るようにキッドの背中に回っている。精一杯爪を立てて、二度と離れないくらいに魂をくっ付ける。共鳴させるんじゃなくて、ただ、くっ付けたい。くっ付きたい。きみに。

 胸がドキドキして頭がくらくらしてあそこがズクズク疼いている。いつの間にかキッドが僕の中で激しく脈打っていた。
 「……出してる……」
 「あっ……当たり前だっ!あんな……あんな可愛いこと言われて!おれがイかないわけないっ!」
 「……いいよ別に……もう、いいんだ……」
 僕は神様も、地獄も、奇跡も信じない。
 僕が信じられるのは目の前にある現実だけ。
 だから、僕は今ここにいる神様も今ここにある奇跡も信じるよ。
 この世界で生きてゆく事が僕にとっての地獄でも、僕はここに居る。ここに居たいんだ。
 だって、君達がここに居るんだもの。



 キッドが丁寧に塗ってくれた爪をランプにかざす。
 きれいな色だ。とっても落ち着く。僕はきらきら輝くネイルを飽きることなく眺めては幾度となく指を動かした。
 「おいクロナ」
 僕の服はいつの間にかきれいに元通りになって身体を覆っていた。つまりラグナロクがちゃんと生成してくれたわけだ。
 「なに、ラグナロク」
 声をかけても姿は見えない。僕の身体の中から声を出しているみたい。
 「お前がどんなに償ったところで、お前がしてきた事ってのは消えねぇんだ。お前や俺が殺した奴が生き返るか? 食っちまった魂が元あった場所に戻るか?
 ……希望をもつなクロナ。俺達の歩く道ってぇのは死神野郎のとは違う。少しの間重なっただけの道中に思い入れると、後が辛いぞ」
 少し硬い声。少し哀れんだ声。少し……冷たい声。
 「……ラグナロクは優しいね」
 深い色で輝く十本の爪は今も濡れたように光っている。
 「俺ァな、グヂグヂ泥沼で足踏みしてるテメェの性格がデェッ嫌えなんだよ!行くも戻るもしねぇで愚痴ばっか垂れやがって!そんな暇があるなら魂の一つでも取れっつぅんだ!強くなって誰も彼も黙らせちまえばいい!叩き伏せちまえばいい!迷うな!怯むな!振り返るな!」
 いきり立つラグナロクは彼らしくもなく、ちょっと怒ってるみたいに見えた。……見えたっても、姿は現してないんだけど。
 「僕はダメだよ。ラグナロクみたいに強くないもの」
 失笑気味にため息をついた。そうだ、僕は弱虫で泣き虫でイジケ虫。ただの虫野郎さ。
 「泣き言なんか聞きたかないねぇ!お前の出来ることは何だ!? 否定だ!否定しろ!目の前に立ち塞がる物、お前に害成す物、お前を挫く物、魔剣ラグナロクで切り捨てろ!お前は今までそうやって生きてきたんだろ!
 前の主人はもう死んだ、今度はお前がお前の主人だ。好きに命令すればいい!」
 魔剣が僕を煽るので、僕は思いつくままの言葉を口にした。
 「……生きて、ここに居たい。みんなと死武専にずっと居たいよ」
 数瞬あとに、ため息混じりにラグナロクが今までとは違う随分絞った声で言った。
 「なら戦って奪い取れ。お前をここから引っ張り出そうとする奴を俺様を使って否定しろ」
 ねぇラグナロク。あのまま一人ぼっちで居たら僕、死神くんがどうしょうもないヘンタイなのも、キミが僕の味方をしてくれる事もあるのも、リズやパティに優しくされる後ろめたさも知らなかったんだよね。
 ああ、鬼神にならなくて良かった。
 僕はもうすっかり薄くなってしまったキッドのタイで縛られた手首の跡を摩りながら、本当に心から、そう思ったんだ。



終わり




著者コメント


……っていうフタナリがいいと思いました。俺は。


 「そういえばキッドとの勝負、結局ドローだね」
 「……あのヘンタイ死神とはどうも相性が悪い。いつか絶対切り刻んでやる」
 みたいな会話するラグクロに弊社は漲ってきたんだが御社はどのようにお考えでしょうか。

 もっと広がれキックロの輪!……しかし昨日の謎の書き込み不可はなんだったんだろうか。