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 ガツン!と音がして顎がかみ合わなくなった。思いっきり蹴り飛ばされたらしい。
 「はァ、はァ、はァ……ききききキミ、自分の立場わかってんのか!?」
 唇の端から何か流れている。どこか切ったのだろうか。拭うと確かに不愉快な金属の味。
 「ご褒美が欲しかったら言いなよ!魔道具のある部屋の場所!」
 「……何度も言っている。お前の言ってることの意味が良くわからん……」
 もう一発蹴りが入った。今度は左から。ああ、これで左右対称だな。
 「踏み潰されたいの!」
 ヒステリーのように甲高い声で叫んでいる。またぽたぽた何かが降って来た。……胸糞の悪い……
 部屋は暗い。窓の外は新月の世界。月に一度、こいつの頭は狂う。何かに支配される。今までとは違うものになる。
 話していることも支離滅裂で意味を成さない。頭の狂ったこいつを一番最初に見つけたのがマカでなくおれで良かった。
 優しい彼女がこれを見てたらきっととても心を痛めただろう。
 「逃げればいいじゃないか!早く逃げなよ!何でバカ正直に部屋に来るの!」
 まためちゃくちゃなことを言い始めている。本当に逃げたら追いかけてくるくせに。
 「なにさ!涼しい顔しちゃって!弱い僕のこと馬鹿にしてるんだろ!僕を救えもしない死神の分際で!」
 自由に言わせてるのに、たまに腹が立つ事がある。これがこいつの本音かと思うと情けなくなる。おれはなんと無能な死神なんだろうか。
 「なすがままにやり込まれてやることで哀れんでるつもり!? 下衆が!」
 ぽたぽたぽたぽた。
 水は絶えず降って来る。おれは喉が渇いているが、そいつを飲み干すことは出来ないのだろうなと漠然と思った。
 「助けなんか要らない!誰も助けられない!希望なんか持っちゃいけないんだ!!」
 叫びと共に首を絞められた。苦痛から生まれた狂気で手加減なく全力だ。流石に苦しい。こいつは堪らん。
 「どうして抵抗しないの!いくら死神でも死ぬよ!」
 突き飛ばそうかどうしようか逡巡して、どうせこいつを助けられないなら死ぬのもいいかと思った途端、手の力がふっと緩んでようやく空気が吸える。何度か咳き込んで喉を痙攣させた。涙が出てくる。
 「……なんで、なんで、なんで……!」
 嘔吐きと共に嗚咽が部屋に響く。
 おれはなんと言葉を掛けていいかさっぱりわからなかったので、黙っていた。
 マカならこいつを抱きしめて心配しなくていいと慰めるのかな、とおれには出来そうもない想像をしながら。






著者コメント

 力及ばず単に悲惨な話になってしまった。吊ってくる。