1,経済史の課題
A.経済史とは何か
経済学の歴史ではない
経済学史あるいは経済思想史は別の科目
経済現象とは?
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産業:
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サービス業:
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商業:国内商業(卸売、小売)
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金融:銀行、保険、証券
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運輸・建設、インフラ
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政府:
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財政(中央と地方)→財政政策、経済政策(産業政策)
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金融政策
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労働、社会保障
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世界経済(グローバリゼーション)、国際商業=貿易、国際金融
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地域経済(EU統合{国より大きく世界より小さい}、ローカル)
経済史はそのすべてを扱う
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範囲は恐ろしく広い→時間的・空間的な限定が必要
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経済学の視点なり対象が関わってくる(資本主義、市場経済が中心)
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資本主義がいつ、どこで、どのように成立し発展してきたのか
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時間:中世から現代まで←近代資本主義は中世世界のなかから成立したから
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一国レベル
16世紀の絶対王制
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17世紀の市民革命
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18世紀の重商主義体制→産業革命
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19世紀の自由貿易体制
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国際レベル
ヨーロッパ内貿易の深化(中世)
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ヨーロッパ世界との遭遇と非ヨーロッパからの刺激の獲得=資本主義世界の形成(近世)
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非ヨーロッパの経済的・征服(近代)=資本主義世界体制の確立
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経済史においてもっとも重要なテーマ:
中世社会の解体の中から資本主義が徐々に形成され、経済社会を支配するに至る過程を辿ること
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時間:ヨーロッパおよび北アメリカを中心に議論
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近代資本主義はこれらの地域でいち早く、そしてもっとも典型的に発展した
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日本の特徴を正しく理解するためにも欧米経済史を知っておく必要
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経済理論は欧米社会の社会経済をモデルとして構築されてきた
B.経済史と経済学・経済思想
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経済学や経済政策思想は現実の経済現象、経済問題、経済政策と密接に関わっている
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経済史は、過去における経済現象、経済問題、経済政策を扱うから、その当時の経済学や経済思想と密接に関わっていた
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経済史とは単なる経済課程の歴史ではなく経済学の成立と発展の背景を知るためにも重要である
経済現象や経済問題にどのように対処するか
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経済成長か社会的公正(格差是正)か;規制緩和か規制強化か
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市場か政府か;製造業(もの作り)か金融業か
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環境問題をどう考えるか(経済成長との関係は)
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経済思想が大事
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経済思想は現代の問題であるが、歴史の問題でもあり、類似の問題が歴史上現れている
「歴史は現代につながる」
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歴史の教訓
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例:アメリカの1929年恐慌に端を発する世界恐慌
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何がどのように起きたのか? どのような対応が取られたのか?
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現代とどのようにつながっているか? 現代とどこが違うのか?
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過去に起こったことを正確に理解し、それを現代の問題に生かすことは重要なこと
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歴史の再解釈
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歴史に現代の視点んを読み込むことによって、過去の史実のイメージが大きく変わることがある
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例:1930年アメリカのニューディール政策
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肯定的評価(~1960s)→否定的評価(1970s~2008)→肯定的評価(2008~)
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1935:グラスティーガル法→証券と銀行の分離
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1990s:グラスティーガル法→証券と銀行の分離規制緩和
C.経済学と歴史学の境界領域としての経済史
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経済史は、歴史学と経済学の境界領域に位置する
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経済史学の二重性(両者のprincipleの交錯)
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経済史の土台にある二つの学問は二つの異なる文化に属している
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歴史学は人文学的学問
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経済学はますます非歴史的・非人文学的になってきた
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⇒経済史は、異質な二つの文化、二つの思考法の間を仲介する課題を背負う
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経済学(理論)との関係:
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経済史は、経済理論によって培われた概念装置や分析カテゴリーを用いることができる
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経済理論は、有用な理論的基準を経済史に提供することがある
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逆に経済史は、経済学に対して経験的な基礎を与えて経済理論に修正を迫ることができる(実証分析)
経済学と経済史学との違い:
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経済学者の目は通常、現代と未来に向けられる(景気予測、政策提言)
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経済史家は過去の現代的視点から書き換えは行うが、政策提言を目的としない
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経済学者は考慮するべき変数の数を限定し、その変数を吟味する
↑
↓
経済史家は、関係するすべての変数・要素・因子を考慮しなければならない
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経済史家が歴史の個別特殊性から逃れられない(事実・資料に基づかなければならない)
↑
↓
経済学者は自分のパラダイムの一般性を捨てられない(「それは例外だ」と言い逃れする)
重要な経済学者は経済史的考察に力を注いできた
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A.スミス:『国富論』
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F.リスト:『経済学の国民的体系』(ドイツ関税同盟の基礎を築いた人)
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K.マルクス:『資本論』『フランスの内乱』
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A.マーシャル:『産業と商業』
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M.ヴェーバー:『プロテスタンティズムと倫理と資本主義の精神』(一般には社会学者とされる)
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J.シュンペーター:『租税国家の危機』『資本主義・社会主義・民主主義』
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J.M.ケインズ:『自由放任の終焉』『一般理論』(高失業率時代)
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J.R.ヒックス:『経済史の理論』(晩年は歴史に系統)
D.経済史研究の意義
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日本の大学では学部毎に歴史系の講座・科目が置かれている
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例:経営史、政治史、法制史、教育史、農業史、建築史、科学史
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人間社会のもつ歴史性
経済学における経済史の位置:
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経済現象を歴史的・長期的に捉える視点あるいはそのための基礎的知識を提供することを目的とする科目
歴史学と有用性
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「市場」か「政府」か、あるいは少し一般的に「自由」か「規制」かという対比は、経済史、つまり資本主義の成立と発展の歴史を貫く問題である
E.その他
教科書:なし
参考文献(○印がお奨め):
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○石坂・船山・宮野・諸田『新版西洋経済史』(有斐閣、1985年)
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長岡新吉・石坂昭雄編『一般経済史』(ミネルヴァ書房、1983年)
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長岡・太田・宮本編『世界経済史入門』(ミネルヴァ書房、1992年)
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楠井・馬場・諸田・山本『エレメンタル西洋経済史』(英創社、1995年)
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○岡田泰男編『西洋経済史』(八千代出版、1995年)
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○藤瀬浩司『欧米経済史――資本主義と世界経済の発展』(日本放送協会出版、2004年)
成績評価
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期末試験、出席(アンケート)、レポート(夏休み向け・任意)
最終更新:2009年10月13日 12:23