母が戻らなかった夜、当然のように父もどってきませんでした。
父は日ごろから家には戻らず、戻ってきたときは母とケンカを繰り返すだけでした。
夜になっても帰らない両親。その中でポツンと姉が兄と僕に言いました。
「昨日の夜、なんとなく目が覚めたとき、お母さんが私たちの顔を泣きながら
じっと見ていたの。起きちゃいけないと思って、寝たフリをしていたけど、
お母さんは一人一人の顔をじっと見ながら、泣いていたの。
やっぱり……。お母さんは今日出て行くことを決めてたんだ。」
兄もそれに気が付いていたそうです。年の離れた姉と兄は、今日起こる出来事を
知っていたかのようでした。
母はこの辛い毎日から抜け出すため、胸が張り裂けそうな葛藤の中、僕たちを置いて
旅たっていきました。
ただ、僕だけはそのとき、何も理解していませんでした。
最終更新:2006年10月19日 09:31