保管庫

血族 無才C判定 ◆8JqZBHfJBk

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156 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/30(土) 19:30:18.49 AmaNXSy9O

(´・ω・`)やぁ
すまないね、またなんだ。

駄作ばかり投下しているこの自分に君が「またか」と怒るのも無理はない。これはサービスのビックルだ。落ち着いて飲んでほしい。

この駄作「血族」はGO!GO!7188「浮舟」を聞きながら無才がお送りします。ホラーとのたまいながら全く怖くないです
書きながらの投下ですのでいつも以上にgdgdですがご了承願います

では書き始めます


158 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/30(土) 19:40:36.32 AmaNXSy9O

黒い髪を耳に少しかかるくらいの長さで切りそろえた小さな男の子が、脱衣場の隅に置かれた台を引っ張ってきてその上に立った。

それでもその背丈では洗面台に届かないので、洗い立ての真っ白な踝までのソックスに包んだ足でつま先立ちをしながら、彼は窓から入る日差しをまとう鏡をのぞき込む。

ううん、と洗面台にまだ短い腕をのせたままため息をついて、彼は悲しそうに薄い色の眉根をよせた。
目尻があどけないくりくりとした茶色の可愛らしい瞳が、光を吸い込み鮮やかな色を鏡に映し出している。


161 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/30(土) 19:59:27.48 AmaNXSy9O

「どうしたの昭ちゃん」

彼の後ろから優しい声がかかった。

鏡に映った、穏やかに微笑む母の、桃色の形のよい口元を見て、少年は憮然とした顔で後ろを振り向く。

「どうしたの?そんなに怒って。お友達にいじめられた?」

心配そうに尋ねてくる声は包み込むように柔らかで、少年は憮然としていた顔をしゅん、と下へ向けた。

「僕、おかあさんににてないよね」

「あらあら」

落ち込んだ様子でぽつりと呟く少年にくすんだ鶯色の着物の裾をさばいて近寄ってしゃがみ込むと、女性は微笑みながら、慈しみのこぼれるしぐさで彼の頭を白い手で優しく撫でる。
巻き上げ髪のうなじはきめ細やかに白く、皺ひとつない。

「そんなことないわ。昭は母さんにそっくりよ」

「だって僕、おかあさんみたいにきれいなお顔じゃない」

ふい、とそっぽを向いて少年は口ごもり、涙ぐんで淡く血色のさした頬を膨らませた。

163 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/30(土) 20:14:47.97 AmaNXSy9O

「またそのことで落ち込んでたの?」

女性がくす、と笑みを零して尋ねると、少年はそっぽを向いたままこくりと頷き、小さな手のひらで涙を拭った。

窓の向こうからは時折、蝉が途切れがちに鳴く声が聞こえる。

「心配しなくても、昭は大きくなったら綺麗になるわ。」

だってお母さんの子供だもの、とおどけて女性が言うと、
少年は母のほうに向き直って、ほんと?と震える声で聞き返す。

ほんとよ、お母さん嘘ついたことある?と女性が少年の頬にそっと触れると、ぶんぶんと彼はかぶりを振った。
女性は微笑ましそうに目を細めて彼を見つめた。
「わかったら涙拭いて。向こうで麦茶飲みましょう、ね。」

「うん」

頷いて、ようやく少年は笑う。女性は彼の髪を優しく梳いて、ちゃんと手洗っておいで、と穏やかに言い、また少年が頷くのを見ると、彼の頭を撫でてから、脱衣場を出ていった。

174 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/30(土) 21:05:47.32 AmaNXSy9O


■血族


今年の冬は暖かくて、反物の色の染まりが悪い、と番頭さんが算盤を弾きながら吐き捨てるように言っていたのを、
昨日の雨で土が混じって汚く色の滲んだ雪道を歩きながら、龍也は思い出した。

布は織り上がって藍草や紫草などの染料で染めた後、冬場の冷たい川の流れで洗う。その水が冷たければ冷たいほど、布は鮮やかで、良い色を出す。


龍也は雪を街並みに優しく振り掛ける白い空を見上げた。

真冬に指を麻痺させるほどに染みる冷たさの中に手を浸す洗い手たちは、何を思うのだろう。


175 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/30(土) 21:17:46.70 AmaNXSy9O

真っ白な中に、木肌の黒さだけが隙間をぬう、閑散とした雪景色の中にたゆたう目が覚めるほど色鮮やかな布を、腰まで冷や水に浸かって節々が皹た手で擦りながら、何を彼ら、彼女らは思うのだろう。

女の口紅の原料になる紅花は、昔、乙女の柔らかな手でつまれ、その鋭い棘が指を突き刺し滴る血で、一層鮮やかな赤い紅を作ることが出来たという話を彼は思い出した。

それを唇にのせて微笑む吉原の女郎は、さぞや嫣然としたものだったろう。

コートの肩と学生帽に軽く積もった白い雪を払って、また龍也は歩き出した。

177 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/30(土) 21:28:54.35 AmaNXSy9O

この通りをまっすぐ行って二番目の角を右に曲がると彼の家の「雪屋」はある。

大店の多いここ界隈でも一番の老舗の呉服屋で、洋装の流行りで店を畳む者もいるが、雪屋は頑なに呉服のみを扱っている。

品と仕事が良いので立ち回りが苦しくなる、ということもなく、今年もまた無事年を越すことが出来そうだった。

ただ今年は本当に布の出来が良くないようで、いつもと比べれば客足は少なかったが。

コートの前から入り込んだ冷たい風に龍也は身を縮ませながら、いつまでたっても歩き慣れない雪道を滑って転ばないよう慎重に歩を進ませた。

184 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/30(土) 21:48:56.11 AmaNXSy9O

創業したときから変わらない瓦張りの屋根の下に雪を避ける、暖簾の垂れる引き戸を開けて藍染の布を潜ると、
「お帰りなさい」と従業員たちがにこやかに龍也に声をかけてきた。


「ただいま」

「雪道は大変でしたでしょう」

戸を閉めて挨拶を返し、雪を払っていると、色の白い若い女中が話しかけてくる。

帰るまでに何度か転びそうになったことを話すと、東北の出身らしい彼女は、「奉公のために出てきたここの雪道では転んだことはない」と自慢気に微笑んだ。
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