保管庫

純 えんたー ◆omo3TX7gyc

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319 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 19:22:07.75 Ty9upsV20


「純、寝てないで学校の準備しなさーい」 
 扉の向こうで聞こえる母の声に若干意識を取り戻す。
 朝らしい、わかっているが睡魔の方が大きいのだから仕方ない。ベッドで寝返りをう

ってぽつりと呟いてみる。
「ったく、まだ眠いっての……」

 ?

 喉がおかしいみたいだ。喉が乾燥してしわがれる事はあったが逆に声が高くなるなん

て初めての経験だ。
「っんぅ……けほっ!」
 咳をしてみるが別に喉は痛くもない。おかしいなと思って喉に手を伸ばしたところで

 俺の意識は一気に覚醒した。
「なんじゃこりゃ……」
 手を当てた喉には喉仏がない。何度も撫でてみるがあの突起は綺麗さっぱりなくなっ

ている。
 そして、もうひとつ股間にも違和感があった。朝だというのに朝立ちの感覚がないの

だ。


320 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 19:23:50.87 Ty9upsV20

 まさか息子がこの年齢でもう再起不能になってしまったのだろうか?まさか毎日五回のオナニーは過酷だったのか?などと冗談をいってる場合じゃない。大慌てでパンツに手を突っ込んで股間をまさぐってみる。
「……居ない」 
 息子が居ない……家出だろうか。あの子は一度も実践で使ってやれない不出来な父を見限ったのだろうか。そして俺の股間にあった茂みも消えている。誰だ?陰毛とチンコをまとめて切り落とした不届き者は。 
 とりあえずトリップしかけた頭で鏡の前に立ってみる。

 八十六点と言ったところだろうか?非常に高得点だ。

 元がいいのだろうか化粧をしなくても自然と映える顔をしている、自然な美人だ。肩の辺りまで伸びた黒髪は寝起きだというのにサラサラしておりそれも得点が高い。
 なによりはその格好、大き目の男性用パジャマだ。完全にはだけており露骨に自己主張をする胸元に目が行ってしまうのは男の性と言わざるをえない。
 試しに少女に向かって微笑みかけてみた。
 にっこりと笑いかけると少女もにっこりかわいく笑ってくれた……


「……………」 

「純!本当に遅刻す――

「あああああああぁぁぁぁぁーーーー!!」



 とりあえず吼えた。


(需要があれば供給がんばる)


328 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 19:50:38.59 Ty9upsV20

『急性XX男性』

 近年、染色体異常のXX男性の発生率が急上昇した。正確にはXX男性の亜種らしく急性XX男性と呼ばれている。
 数十万~数百万人に一人といわれていたXX男性に対して急性の方は分母が指折りで足りてしまうほどの発生率らしく。さらに徐々に女性 化するのではなくたった一晩で完全な女性化をしてしまうらしい。
 ちなみに女性化は性行為を一度でも行うことで防げるとのこと。


 つまり、冗談抜きで俺の息子は一度も使わなかった父を見限ったのだ。
「どうすんだよ……俺」
 俺は肩を落としながら調べ物をしていたパソコンの電源を落とした。
 右手にあるマウスがでかいしキーボードが手に余る。イスににいたっては床に足がつきもしない。
 仕方ないのでレバーを上げてイスの高さ調節をしようとしたら逆にイスの高さは上がってしまった。このイスは座ってる人の体重で高さを下げるタイプなので一定の重さがないと押し上げられてしまう、つまり俺の体重が軽すぎるのだ。



330 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 19:51:21.40 Ty9upsV20

「くそう、女ってのも不便だな」
 ちなみに今は昼前、朝から大騒ぎをして親に事情を説明するとその日は学校を休めた。普段ならこの上なくうれしいがこんな事があっては正直複雑な気分である。母は俺の身体を興味深そうに眺めた後、買い物に出かけていった。親父はすでに仕事に出た後だった。
「さて……と」
 やることもない俺は、地に付かない足をぷらぷらさせながら胸元を覗いてみる……
 そこには、大きすぎもせず小さすぎもしない程よいプリンが二つほど胸に引っ付いてる。
「……」
 俺の白い喉がごくりと鳴った。

 むにむに

「ぉお!」

 もにもに

「うはっwww」

 ぱふぱふ




――五分ほどで虚しくなったのでやめにした。

(ぐだぐだと続きそう)


365 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 20:54:57.87 Ty9upsV20

 夕方になっても母は帰らなかった。結局、俺は一日暇をもてあましていたのだ。
 することもないのでゲームをして暇をつぶしていたところに玄関のベルが鳴った。
「あ、はーい」
 返事をしたところで気がついたが、俺は人前に出て行っても大丈夫なのだろうか?宅配便とかであれば別に顔見知りでもないので大丈夫とは思うが。返事をしてしまったのだからもう出て行くしかないだろう。
 意を決してドアを開ける。
「……」
「すいませーん。坂井君いますか?」
「長岡……」
「へ?」
 口が滑って呼んでしまった。大急ぎで俺はドアを閉める。
 ちなみに同じクラスの悪友。おっぱいマニアこと『おっぱい長岡』の異名は奴の事を言う。どうせ俺を冷やかしに来たんだろうが今日はまずい。何がなんでも帰ってもらわないと困る。
「すいませーん。あなた誰ですかー」
 ノックの続くドアを背にしてこの状況をいかに退けるか、しばらく悩んでいるとノックは自然と止んでくれた。
「やっと帰ったかあのアホ」
 そう安堵したところで奥の俺の部屋で窓が開く音がした。


369 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 20:56:26.35 Ty9upsV20

「まさか……」 
 大急ぎで部屋まですっ飛んでいくとそこには靴を片手に不法侵入をする長岡の姿があった。
「おじゃましまーす」
 お邪魔しますじゃないだろこの不法侵入者は、俺の背が縮んだせいで長岡の姿がやけに大きく見えるがここで引くわけにはいかない。
「お前はいい加減、人の家に勝手に上がりこむのは――っつ」
 一発頭を叩いてやろうとしたら逆にあっさりと両手をつかまれてしまう。非力な自分がまったく憎らしい。
「やめっ、放せよっ!」
 長岡が見定めるように俺の胸元に顔を寄せてくる。
「ほう、82cmのB……いやCかな?……形はいいけどそれじゃだめだ」
 残念そうにかぶりを振って手を放してくれた。
「やはりDだな、そこから俺のサプライズが始まると言っても過言じゃない」
「長岡、俺がいるときならまだしも勝手に人の家に上がりこむなって言ってんだろ」


371 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 20:57:02.21 Ty9upsV20

「まあ、待て」
 スッと手を突き出して制止してくる。
「うん?」
「一応訊いておくが、お前は坂井純なんだな?」
「え?あ、ああそうだよ悪いかよ」
「悪くはないがなぁ、そうかお前が急性XX男性だったとはな。可愛らしくなって実によろしい限りだよ」
「うるせーよ。何の用事だお前!」
「ずいぶんだな、親友に末期癌が発見されて今日は学校を休むと教師から聞いて心配してやってきたというのに」
 学校を休む理由に末期癌を使うとはさすが俺の母。女体化ついでに俺を戸籍から抹消でもする気なのだろうか?
「とりあえずだ、坂井」
「んだよ」
「胸を隠せ、乳が丸見えだ」
よく見てみると確かに、暴れたせいで突起まで丸見えである。
「……先に言え」

 案外と長岡は順応力があるらしく前と変わらない接し方で今日の学校での馬鹿話を聞かせてくれた。それ自体はうれしいのだがひたすら「おっぱいが小さいのはだめだ」「今日から巨乳になるために努力を怠るな」と熱弁してくれたのでとりあえずぶん殴っておいた。
 一時間ほどたった七時過ぎ頃に母が帰ってきたので長岡は俺の部屋の窓から颯爽と帰っていった。


(いいのか俺……こんなんでいいのか?)


429 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:10:26.30 Ty9upsV20


遅くなった>>371続き


 母が朝から奔走してくれたおかげで俺の学校への復帰は案外とスムーズにすんでしまった。
 服や日常品の準備もばっちりで女子の制服に袖を通すのは緊張したがこれも致し方ないのだろうと俺も割り切った。
 次の日、学校に向かう俺の足取りは重かった。自転車で俺を抜き去っていく男子や女子が興味深そうに俺を振り返っていくし後ろでは女子がひそひそ話をしている。
 俺、変じゃないよな?もしかしてどっかおかしいのか?きょろきょろと身体を見回してみるが異変は見当たらなかった。
 クラスメイトは俺の異変に驚いていたが男子は端々で色目を使ってくるし女子は可愛くなったじゃんと茶化してくるし、もう散々だ。

「みんなして見世物みたいに見やがって……」
 教室の端の席で俺は恨めしそうにつぶやいた。
「クラスの男子が校内トップクラスの美女に化けたんだ。無理もないだろう」
「長岡?……どうした」
「いやなに、親友が疲弊してるのだから意味もない応援をしてやろうと思ってな」
「というか、美女ってのはどういうことだ?」
「何だ、自覚はないのか。周りのやつがお前を見ていなかったか?」
「朝から注目されっぱなしだ。俺何か変か?」


430 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/05(佐賀県庁) 23:11:10.80 Ty9upsV20

「変ではない。朝から美人の転校生がやってきたと裏では盛り上がっていたのだぞ」
「はぁ?」
 いかん、さすがに頭が痛くなりそうだ。
「まぁ、実際は性別反転した元男子と言うことで反応は微妙だがな」
「これから実にめんどそうだな……」
「ちなみに俺は安心するがいい。最低でもDカップ以上でなくては俺は駄目だ、お前のその並乳に興味はない」
「長岡、ツッコミを入れたいところなんだが微妙に入れづらいぞ」
「失敬。まぁ、なりふり構わない男子の告白と百合の気がある女子にはせいぜい気をつけるがいい」
「はいはい、もうなるようになりますよ」
 立ち去り際、長岡は何かを思い出したかのように立ち止まって振り返る。
「ああ、そうだ坂井」
「なんだ長岡。まだあるのか」
「一人称をボクにしてみろ、バカ受けすること間違いないぞ」
「死ね、このおっぱい伯爵」
「アディオース。はっはっはっはっは」

(何をやらせようか非常に悩むなこれは……)


609 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 18:22:05.36 p6aJuOXW0

430の話の続き

 霧島柚高(きりしま ゆたか)ってのはうちの高校の美少女ランキングナンバー2、いわゆる良家の典型的なお嬢様でプライドが高くて常識に欠ける唯我独尊女。
 絵に描いたようなやつなのだが、その容姿端麗さゆえに先日まで校内美少女ランキングナンバー1だった彼女なのだがここ最近でかわいそうにもナンバー2と呼ばれるようになった。
 それはなぜか?先日突如と現れた坂井純(さかい じゅん)と呼ばれる女がその地位をあっさり奪い取ってしまったらしい……というか俺だ。
 まぁその結果、俺は不幸にも学校の注目を浴びるついでに隣のクラスの霧島の目の敵になってしまったわけだ。女体化して二週間がたつがもう最近一日一回は霧島が「ちょっと坂井さん?」とか言って絡んで――
「ちょっと坂井さん?」
「は、はい!?」
 気がつくと俺の背後に先ほど考えていた霧島の姿。まさかこのタイミングで出てくるとは思ってもみなかったぞ。
「な、何か?」
「まったく貴方は、いくら元男性とはいえ今は女性。それなのに体育では男子と一緒なんて一体どういうつもりなのかしら?」
「いや、元男だから男子のところで着替えて男子のところに参加してるんだが」


610 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 18:23:29.30 p6aJuOXW0

 状況説明から言っとこう。今は2時間目と3時間目の間の休み時間で3時間目は体育だ。で、その授業は1組と2組の合同で行われる、着替えは1組で男子、2組で女子。俺は今のところ一応男子と着替えて男子の体育に参加している。
 ちなみに今の場所は俺の所属する1組、男子の着替えるところだ。
「まぁ、貴方が私の実力を恐れて一緒に体育ができないことは仕方ありませんけど、流石に私としてもこれ以上は見過ごすわけにはいきませんの」
「いや、別に恐れてないから。ついでに着替え中の男子が迷惑してるから早々に帰ってもらえないか……?」
「あくまで抵抗する気なら仕方ありませんわね。長岡さん!坂井さんを連行するからお手伝いお願いできるかしら?」
「いや、ちょっとまて」
 霧島が目を向けた先にはすでに着替えを済ませた長岡が腕を振りながら俺に向かってきていた。
「すまんな坂井、俺はおっぱいの味方でな。おとなしく女になってこい」
 そういえば霧島は胸がでかかったな。ここで安易に友を投げ売る長岡の正義はおっぱいと共にあるわけだ。
 俺はあっさりと長岡に捕まり2組に放り込まれてしまった。流石に女の身体は見慣れているのだが、元男の女がいてもいいのか?という疑問符が残るこの雰囲気が居づらいのだ。
 俺はすばやく着替えてとっとと男子の体育に合流しようとしたら案の定、霧島に捕まってしまった。
「貴方は今日から女子として参加するのよ」
 そんなこんなで俺は霧島に引っ張られて女子の体育に参加する羽目になってしまった。

(苦情なんかうけつけねーよ、ちくしょう)


620 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 19:03:22.62 p6aJuOXW0

610

「はーい、今日の体育は持久走するわよー……って坂井君がなんでこっちにいるの?」
 突如現れた男子、もとい元男子に女子担当の体育教師も驚いたらしい。
「彼にもいい加減に女性としての自覚を持ってもらうために私が連れてきましたの」
 俺の後ろからずずいと霧島が出てくる。
「あらそう。まぁいいんだけど、坂井君は皆に欲情しちゃだめよ?」
「先生、いいからとっとと授業始めてください」
 茶番の好きな教師なのだがいちいち付き合ってたら授業が終わってしまう。
「あら、初々しい反応を期待してたけど、つまんないわねぇ」
「いい年して生徒で遊ぼうとしないでください」
「つまんないから坂井君は罰ゲームね」
「はぁ?」
 何を言い出すんだこの教師は。
「……はーい、各自で準備運動しときなさい。五分後にスタートで運動場5周。坂井君は8周よ」
「ちょっとまて、職権乱用すんなダメ教師」
「はい、坂井君は10周~」
「……」


621 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 19:04:27.77 p6aJuOXW0

 口答えは許されないらしい。これなら男子の方に行った方が楽だったに違いない。男子は体育館でバスケだったかな、うらやましい。
 仕方ないので黙って俺も準備運動を始める。
「10周とは随分大変な数字ですわね」
 霧島、頼むから絡んでくるな。そして俺の横で準備運動を始めるな、他所でやってくれ。
「別に、10くらいなら走れるさ」
 つまらなそうに答えたその言葉を霧島はどう受け取ったのか少しムッとした表情をした。
「……あらそう。貴方は10周くらい走れるけれど、私にはできないとおっしゃりたいのね!」
「そんなことは一言もおっしゃってませんから」
「その宣戦布告、確かに受け取りましたわ。先生!私も10周走りますわ」
 お願いだから大人しく5周走ってください。ややこしくしないで下さい。
「あら、霧島さんやるきなの?」
「もちろんですわ」
「面白そうじゃない。坂井VS霧島の頂上決戦ってところかしら」
「坂井さん、貴方にだけは負けませんわよ」
 やる気満々準備体操をする霧島、何が彼女をそこまで突き動かすのだろうか。
「……」
 もう勝手にしてくれ。


(苦情?しらんがな……勝手に投下していくぜ)


626 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 19:26:45.57 p6aJuOXW0

621

「はい、よーいドン」
 教師の声と共に各自が一斉にスタートする。
 まず先頭に飛び出したのは俺。何せ10周も走るのだから急がねばならない。少し後方では陸上部の女子がテンポ良く走っている、たったの5周。陸上部には余裕に違いない。
 2周目に入ったあたりで最後尾の連中を1周遅れにする。そのあたりで陸上部を追い抜いて短距離走をして俺に迫りくるバカがいた。 
「坂井さん。逃がしませんわよ……!」
 何を隠そう、隠す意味もなく霧島である。
 短距離ダッシュで俺の横についた霧島は息を切らせながら得意げな顔をする。明らかにやせ我慢である。
「霧島、無茶するなって。バテるぞ」
「なにをおっしゃるかと思えば。私がバテる?ご冗談ですわね」
 バカにつける薬はないと言うがごもっともだ。
「……もう、知らんから好きにしてくれ」



627 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 19:27:44.63 p6aJuOXW0


5周経過。


「ちょ……坂井さん。は、早い、早いですわよ」
 霧島は当然のごとくバテていた。
「もう5周過ぎただろ、お前は休めって」
「だ、だが断りますわ……私を甘く見ると後悔しますわよ」
 どこからやる気が沸いてくるのだろうか、まったく根性だけは賞賛に値する。
「頑張り過ぎてぶっ倒れるなよ」
「ぐ、愚問ですわ」


8周経過


 俺と霧島の会話はなくなっていた。
 疲れたから?そうじゃない。もう霧島は半周遅れになっているからである。
 横目で半周後ろを走る霧島を見る。今にもぶっ倒れそうだがその遅い足は止まる気配はなく、その顔つきはまだ諦めていない。真剣そのものである。まったく、呆れるを通り越して感心しちまうよ。



628 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 19:28:32.47 p6aJuOXW0



10周経過


 俺はとうに走り終わってしまったのだがついに1周遅れになってしまった霧島はまだ走っている。
「……」
 黙ってみてるのも気が悪いので後ろから霧島を追いかける。11周目になるがここまで走れば10も11も同じだ。
 ダッシュで霧島に追いついて声をかける。 
「おい、霧島。大丈夫か」
「……」
 声をかけると、ギロリと鋭い目つきで睨まれた。「情けを掛けられるほど落ちぶれてはいませんわ!」と言ってるかのような目つきである。 
 まぁ、意思は欠片も折れてはいないのだろうが、身体が限界らしく足元はふらふらと止まりはしないが倒れそうですと自己主張している。
「……ほら、肩かしてやるから」
「……」
 霧島の目は嫌だと言っていたが振りほどくほどの体力はもうないらしい。
「しっかりしろって、完走するんだろ」
「……愚問……ですわ」
 仕方なしと受け取ってくれたのは幸い。俺と霧島は2人3脚の形で女子たちのエールを受けながらゴールした。


629 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 19:29:52.38 p6aJuOXW0


「はい、お疲れさん。二人とも感動的なラストシーンだったわよ、映画にして校内放送でもしたいところね」
「先生、霧島のこと何で止めなかったんですか。無茶ですよこれは」
「生徒の自主性を尊重って奴よ。それに走らしたほうが霧島さんの為だもの」
「言うことだけは最もらしいですよね先生」
「ほめ言葉として受け取っとくわ。はい、坂井君は霧島さんを保健室までお姫様だっこね」
「え?」
 まさかと思い振り返ってみると霧島は仰向けになって虫の息でぶっ倒れていた。
「お、おい霧島。大丈夫かお前?」
「……」
 ぜーぜーと呼吸だけをしながら目線で「愚問ですわ」と答えてくる。
 こいつ本人に意思確認をするのが間違いらしい。俺は有無を言わさず、といっても有無も言えない霧島を抱えあげる。
「じゃあ、持っていってきます」
 よっこらせと、でかい胸のわりに軽いその身体を抱えあげて俺は保健室に向かった。
「坂井君。押し倒しちゃだめよ~。あ、でも霧島さんがいいって言ったら許可するわ~」

(飯とか食ってくるんで、続き投下はしばらくあと。……苦情は受け付けないぜ!)


652 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 20:40:42.61 p6aJuOXW0

629

「悔しいですわ!」
 コップに入った水を一気飲みで干した霧島は開口一番そういった。
 俺も保険室の先生に水をもらってゴクゴクと飲む。
「悔しいっていってもなぁ、ほら女子で10周走ったのはすごいと思うぞ俺は」
「そうじゃありません!」
「?」
「私が自身で許せないんですわ。坂井さん貴方、この霧島柚高が金やちやほやされるために走ったと思ってるのかしら!?」
「何でそこで金が出てくるんだよ」
「今回のことは思い出すだけで苛立ちますわ!……もうっ、次は負けませんからね」
 何でこいつはこんなに頑張るのだろうか。負けず嫌いで一蹴してしまうにはちょっと異常だと思う。
「なぁ、霧島」
「……なんですの?」
「何でお前そんなにがんばってるんだ」
「頑張る?ああ、父からいつも言われていましたの『甘えるな、甘える暇があったら努力を怠るな』と。ですから私の辞書に甘えるという単語はございませんの」
「へぇ、そりゃすごいな」
「愚問ですわ。昔からすべてに挑戦を続けていたのですから、私が貴方ごときに負けるわけにはいきませんの」
「……あ、ああ」
 今度なにかあったら適当に負けようかとも思うが。でも、こいつはわざと負けたことを見抜いて、そっちに文句つけてきそうだ。


653 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 20:42:51.33 p6aJuOXW0

「ところで坂井さん。私も気になったことがあるんですが……」
「何が?」
 座っていた霧島は何も言わずに立ち上がって俺の目の前に立った。
「?」
「これですわよ、これ!」
 いきなり霧島にもにゅもにゅと胸を揉まれた。
「な、なにすんだよお前!?」
「体育でようやくわかりましたが貴方ノーブラでしょう!」
「それが何だよ、邪魔なんだから別にいいだろ」
 体育の時は確かに胸が揺れて邪魔で仕方ないが普段の生活ではあんな物、つけてないほうがよっぽど楽だ。


654 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/06(佐賀県民) 20:43:42.12 p6aJuOXW0

「別にいい?いいわけありませんわ。女性としての自覚を持ちなさいと言ったでしょう。それにノーブラ自体、破廉恥ですわ!」
 破廉恥なんて言葉使ってる人間初めてみたよ。
「坂井さん。貴方、週末にご予定は?」
「へ?……一応無いけど」
 嫌な予感がする。それどころか嫌なこと以外おきるわけが無い。
「日曜日の朝に迎えに行きますわ。首を洗って待ってなさい」
「はぁ?」
 日曜日と言えば惰眠を貪るためにあるものだ。いまだ男性下着で済ましている俺が女物の下着を買いに行かされるなど言語道断。首を洗うのは勘弁願いたい。
「いいって、俺はこれでいいんだし、霧島に付き合ってもらうのも悪いし――
「お黙りなさい!行くといったら行くわよ、いいわね!」
「は、はい……」
 週末は実に大変なことになりそうだ。

続く


(今日はここまでかもしれない、苦情はうけつけないぜ……)


732 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 00:09:07.25 bgxqVTzn0

654続き

 日曜日、俺は朝から出かける準備をしていた。
 買い物?まったく持って違うね。俺は今から逃げるのだ。今日、霧島が俺の家を訪ねてくるらしいので逃げるのだ。ブラジャーなんか買いにいってたまるか。ノーブラ万歳だ、世の男子諸君も皆そう思ってるに違いない。
 準備完了、このまま家を抜け出て街のほうで適当に遊んでいれば霧島に会うことも無いだろう。
 窓を開け昨夜準備しておいた靴を出したところで玄関のベルが鳴った。
「はーい」
 母親が反応して応対しにいく。マズイな、思ったより敵の到着が早い。
「しかしもう遅いのだよ、甘いな霧島君。っと」
 靴を履き終えた俺は早々に家を抜け出した。


733 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 00:10:06.65 bgxqVTzn0

 家を出て五分ほどだろうか、わき道を歩きながらこれから何をしようか悩んでみる。
 ゲームセンターに行ってもいいし適当に誰かの家に遊びに行くのもいいだろう。
「どうすっかな。とりあえずゲーセン行って遊ぶかな」
 そんなことを考えながら歩いていると後ろで何かがこすれる音がした。
 擬音で表現するなら、ギャギャギャ!!といった感じだ。まるでドリフトでもしてるような音。まさかこんなわき道でドリフトをするバカはいないだろうと思って振り返る。
「……」
 自転車が後輪をテールスライドさせながらこっちに向かっていた。乗っているのは何故か霧島である。そして彼女の乗ってる自転車は俺の自転車である。ちなみに名前はハチロク。
「坂井さん!見つけましたわよぉー」 
 何か叫んでいる。
「やばい……」
 俺は本能的に逃げだした。あれはやばい。まじやばい。どれくらいやばいかっていうとまじヤバい。というか人の自転車を勝手に乗り回すなよ霧島。
「お待ちなさーい!!」


734 名前:えんたー ◆omo3TX7gyc 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 00:10:41.12 bgxqVTzn0

 問答無用、全力で俺を追いかける霧島。対する俺は小回りを武器に路地を曲がりながら逃げまくる。
「ったく、勘弁してくれよ」
 俺はすばやく角を切り返して細い路地へと曲がる。そうさ、足の小回りにタイヤが勝てるわけが無い。
「くっ!」
 霧島がオーバースピードでカーブに入る。
「曲がる!!曲がってちょうだい!!坂井のハチロク!!」
 タイヤが唸りをあげる。その時、あるはずも無いエンジン音が聴こえた気がした。
「俺の負けか……」
 曲がりやがった。俺でもできないであろう芸当を霧島はやってのけやがったのだ。
 俺は足で相手は自転車。体育でアイツに勝ったとはいえこれ以上走って自転車に勝てるほど俺は速くない。
 仕方ない、これ以上逃げても無駄だ。ここでお縄につこうと俺は角を曲がったところで止まった。
「ようやく、観念しましたわね」
 俺が止まったのを確認して霧島も自転車を止める。その自転車の止め方はスキーのような、後輪をロックして前輪を軸にして止めるやり方。丁度俺に対して横向きに止めるつもりだったんだろう。
「ちょ……!?」
 勢いがつきすぎていた、後輪の勢いは止まらず前輪も巻き込んで車体全体で俺に襲い掛かった。
 制御を失った自転車から霧島はすばやく飛び降り。ガシャンとでかい音と共に俺は吹っ飛ばされる結果になった。
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