美月 禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo

    

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881 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/15(日) 14:54:31.29 157VawluO

時間が足りなかったから途中まで投下orz



あなたは逃げないでいてね。
このままずっとそばにいてね。
萎びた指で触れられるのが日々の日課であり日々の苦役。
彼女は美月(ミツキ)を裸にして抱き寄せる。そうして長い日は一時間ほどそのままでいるのだ。
「綺麗だわ、あなたはとても綺麗」
飽く事なく繰り言を口にして彼女は美月の身体を撫で続ける。
昔は肌の上を皮膚の弛んだ指が通る度鳥肌が立ちそうになった。そして彼女にそれを気付かれたら風邪か熱かと大騒ぎをされ、裸の添い寝をさせられる。
伸び切った肌に触れられ続ける悍ましさ。


883 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/15(日) 14:55:59.96 157VawluO

だから美月はこの二年で身体を凍らせるようになった。心はとうに凍っていた。
「女は私以外しらなくていいわ」
身の毛もよだつ言葉すら美月の顔に張り付いた微笑を剥ぎ取れ無い。
愚かな人。
世間から取り残されて、何故自分の息子が逃げたのか、何故息子が消えたのかも知らない。
美月にもタイムリミットが迫っていた。
「世の中は恐いわ。でも私と居れば大丈夫よ」
堅牢な楼閣に閉じこもった老婆は、15の最後の夜に男にしてあげるわとしゃがれた声で歌う。
微笑は消えない。
だが少しだけ美月は驚いた。知っていたのか、と。


884 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/15(日) 14:58:59.58 157VawluO

酔った頭を醒まそうとして重い鉄の扉を開けて暁人(あきと)は外に出た。
冷たくて直ぐにでも冬の気配を運んでくる晩秋の風が、ほてった体に気持ち良かった。
漏れ聞こえる重低音に耳を傾けながら空を見る。
分厚い鉄越しの腹に響く低音を聞きながら外の空気を吸いつつ空を眺める。暁人にとって幸せな時間だ。
「「───ぁ」」
隣のビルの非常階段にそいつはいた。
聞き落としそうな声を二人零して、視線が縛られた。どうしてなんて覚えていない。
「俺、暁人。君は?」
「美月だ」
なにかを喋ったわけじゃ無い。ずっと空を見上げていた。


885 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/15(日) 15:02:08.47 157VawluO

その間中背中にベースが響いていた。




普段と違う事に気付いたのは鉄の扉が開いてからだった。
外よりも暗い室内から出て来た彼女はきついアルコール臭を撒き散らしていた。
「帰ろう」
臭いほど酔ってはいない様子で彼女は言う。
半年前はあれだけかわいかったのに。やつれ果てた父の妻。幼なじみのお姉さん。
「お父さんも待ってるから」
好きだった。
年上風を吹かせる癖にどじで間抜けで、だけどそれがかわいくて好きだった。
「あっくん」
こんな風に媚びる女じゃなかった。そこが好きだったのに。


886 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/15(日) 15:04:33.52 157VawluO

初めての女を義母と呼ばなくてはならないなんてどんな喜劇だろう。
暁人は背を向けた。美月と名乗った子はじっと暁人を見つめている。
深い眼差しが言葉以上の雄弁さで暁人に語りかけている。
お前は間違っていない。
「あっくん、お願いよ……私なんでもするわ!」
手を延ばせば触れられそうな美月は長い髪を揺らして空を見上げた。
「ババァが甘ったるいこと言っても気持ち悪ぃだけだぜ」
天使のような笑みを浮かべて夜空を見上げたまま言い放った美月に、暁人は目を見開いた。
あはは、と笑って美月は尚も続ける。


888 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/15(日) 15:07:37.01 157VawluO

「帰れっつわれたんだから帰れよ」
暁人の肩越しに彼女を見据えているであろう表情は凍てついていた。一瞬前の笑顔は絶対零度まで下がっている。
言われているのは自分ではないのに、風貌は美少女のそれなのに圧倒的な冷酷が暁人の血を冷やしていった。
「息子が大事なら帰ってくれないかな。女の子口説いてる最中なんだ」
振り向いて見せた笑みは美月の天使の微笑みだ。
巧妙に牙を隠して確実に喉笛を食いちぎるための武器だ。



家具はベッドだけという部屋は天窓がやたらと大きくて、青い夜に月が大きく咲いていた。


249 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/17(火) 03:17:15.87 9G8kmQY9O

前スレ881からやってる、短篇とか言いながらまだ終わりらないあれの続き



家具はベッドだけという部屋は天窓がやたらと大きくて、青い夜に月が大きく咲いていた。



帰りそうに無い義母を暁人は置き去りにした。
こいよと甘く囁いた美月のいる非常階段へ跳んだのだ。
青い肌にサイズの合っていないワイシャツにジーンズを来ただけの美月は、よく見れば至るところに怪我をしている。だけど軽やかに楽しげに階段を駆け降りていく。
ひらひらと漂う白い布は原色のネオンを滲ませて、影絵みたいに身体を透かしながら美月に纏わりついた。


250 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/17(火) 03:18:38.75 9G8kmQY9O

気まぐれだった。
暁人に声をかけたのは。
眩しそうに目を細めて空を見るから、愛おしそうにしているから、どんな世界を見ているのか知りたかった。
祖母から逃げ出して来てから、まだ72時間も経っていない。
世界に蔓延する男児の女体化現象は、16才の誕生日を目前にして美月の身体に兆した。
まずは内蔵。骨。そして肉。焼かれ、砕かれ、裂かれた。
普通であれば16才の誕生日から変化は起きる。
美月の身体はそれを待てなかった。
「美月」
嗄れた声が完全に身体を支配する前に逃げ出した。
老いた指先が蠢く度温度は失われていくのだ。


251 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/17(火) 03:19:40.92 9G8kmQY9O

屋敷には女は祖母しかいなかった。狭くは無いが小さな世界に男だけを置いて、世界は未だ自分を中心に回っていると思っている。
美月にとって、だからこれは天啓だ。祖母には災難だろうがなんだろうが関係ない。
逃走を手伝ってくれた老いた料理人に着せられたシャツは大きくて、動く度に裾が風に膨らんだ。
これが自由だ。
吹かれるまま惑い揺らされ、これこそが自由だ。
なにかのためにと溜め込んでいた金をジーンズのポケットに詰め込んで、指輪もいくつか捩込んだ。
「お前は誰だ」
美月を見て、祖母はそう言った。膨らんだ胸を一瞥して、


252 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/17(火) 03:23:57.45 9G8kmQY9O

吐き捨てるように。
微笑んだ美月は朝日に体を曝しながら、解放の瞬間を迎える。
「女を叩き出しなさい」
外へ。
外へ。
外へ。
これでもう縛られることもなくなる。
昨日までは短かった髪が頬をくすぐった。
変化だ。
変わらなかった日々がやっと終わったのだ。




上顎を舌でなぞられて息が漏れた。
男性的なとはまだ言い難い身体は、しなやかに絡み付く。
唇を吸って、歯列を割られて、熱い舌が掠めるように口腔を侵されていく。あやされているみたいに何度も何度も舌先を触れ合わせていれば次第に身体から力が抜けていく。


254 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/17(火) 03:33:46.71 9G8kmQY9O

気がつけば深く口付けていた。舌を上から下から撫でられるとしがみつくことしか出来なくなる。
口の中一杯の互いの唾液が塞がれている唇から漏れていく。
体温と同じ温度の雫は室温に冷やされる。その、なんてことも無い冷たさすら刺激を欲する肌には甘い痛みだ。
冷たい肌を熱が浸蝕していく。
苦しい位に呼吸は奪われて暁人の腕の中で立っているだけが精一杯だった。
飲み干せ無かった唾液はシャツに染みて冷たい。
背筋を焦らすように触れる手がもどかしい。
「ちゃんと触れよ」
消えそうな声で美月はねだる。
薄い布が隔てる肌と肌が、


255 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/17(火) 03:39:46.27 9G8kmQY9O

ざわめき粟立ち、互いを呼んでいる。
鼻から抜ける声と唇を合わせる音、それからきぬ擦れだけが耳に入る。
がらんどうの部屋は二人で満たされていた。
剥き出しになった肩から暁人が手を滑り込ませた。
触れられる側から溶け出しそうだ。
首筋を撫で上げた熱く柔らかな舌にのけ反った美月は、喘ぎながら月に見惚れた。
潤んだ目にはきらきらと瞬いている。
指先まで発火しているように熱い。
暁人が唇を離すたび、美月に残した唾液は空気に触れて温度を失う。冷たさが熱さを加速させて、触れられてもいないのに未熟な膨らみは張り詰めていく。


423 名前: ◆CrZFiJnWzo 投稿日:2006/10/17(火) 23:53:08.12 9G8kmQY9O

寝なきゃならないので割り込みますスマソ


暁人から触られるのに嫌悪は無い。
気持ち良くて溶けそうで暴れそうで、泣きそうなほど切なかった。




酔っ払いが近くで騒ぎ立ててもいても隣に立つ暁人にすら聞こえる大声に辟易した顔で、美月は話の途中で携帯の電源そのものを切った。
内容までは聞き取れずともわからないではない。
閉まっている店のシャッターに凭れて立つ暁人の足元にしゃがんだ美月は鞄一つ持っていない。でも遊びに来た風には見えない。
違和感があるからだ。
「お前家出か?」
「ちげーよ。……追い出されたんだ」


428 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:2006/10/17(火) 23:56:46.60 9G8kmQY9O

微塵の悲愴さも無く、眼をぎらつかせて言い放つ様は儚さなど無い。
「自分の孫に欲情する変態ババァが極度の女嫌いでねぇ」
口端を引き上げて美月はさも楽しそうに笑う。
真っ白な肌に緑の髪は綺麗な服を纏い、お嬢様が部屋で飾っているだろうフランス人形──ビスクドールだ。整った顔はどこまでもシンメトリーで、作り物の如く。
それが昂ぶる感情に瞳を爛々と輝かせ牙の代わりに八重歯を見せていた。
「毎日毎日俺の体触りまくってた癖に、こんな身体になったからって追い出されたんだよ」
「お前……」


431 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:2006/10/17(火) 23:59:32.66 9G8kmQY9O

「そのために女になる日を待ってたんだけどな!」
女体化現象は医療でなんとかなる時代になったと言うのに。今では女体化が逆に珍しくなったのに。
「そのばーさんはお前を男のままにしたかったんじゃないのか?」
「あぁ、予防接種?んなもん受けさせてもらってねーな。それに」
立ち上がった美月は眼を瞑った。
「俺、親と一緒に十一までストリートで暮らしてたから」
予防接種は通常十歳までに受けなくてはならない上、検査入院等も必要なため金がかかる。路上生活者がおいそれと出せる金額では無い。
目を細めて懐かしそうな口ぶりで、


432 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/18(水) 00:03:06.94 LPlYwjTEO

辛い話にしか聞こえないのに美月はそんなそぶりを一切見せない。
辛いどころか嬉しそうに笑う。
「注射されなかったのはラッキーだったぜ。暁人にも会えたしな!」





御祖母様がお探しですと馬鹿げた事を言った奴は、電話越しにでもわかるくらい美月の声に驚いていた。
呆れる位関係の無い人間を美月の世界から排除したがった祖母は、女体化防止のための検査や諸々をしなかった。
知らなかった可能性もあるが、あの狂的な美月への接し方から考えると道を外す事を最初から企んでいたのかもしれない。
「なぁ、これ売りたいんだけどさ」


433 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/18(水) 00:06:00.92 LPlYwjTEO

426
イインダヨー
割り込んだのはこっちだし!



「ん?」
ポケットに押し込んだ紙幣の奥から指輪を取り出した。掌の中で器用に指に嵌めた美月は暁人に手を見せた。
「は……?」
美月のような綺麗な顔では無いけど、それなりに味のある顔をしている暁人の顔が歪む。
もしかして、価値ないのかこれ。お綺麗な宝石箱に入ってたから売れると思って持って来たのに、あのババァ最後まで最低だ。
心の中で毒づきながら美月は皺だらけの指を思い出していた。
どこまでも追い掛けてきやがって。
「未成年じゃ買ってくれねーよ」
「まじで!?」


435 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/18(水) 00:10:08.40 LPlYwjTEO

そう言われてみればそうだ。
祖母の指を追い払った暁人の発言は尤もだ。
金もあまり無いのに今度は年齢に縛られるのか。
自由はそう簡単に手に入らないのか。
うなだれた美月に暁人は少し考える様子で、低く言った。


「金ないならうちに来るか?」


口が勝手に動くなんて暁人自身、初めての出来事だった。



ラファエロが現代日本人の美意識を持って少女を彫ったならこんな顔をしているのだろう。
大きな眼を上目使いにして誘うくせに、仕種は完全に少年の大胆で粗野なそれで、言葉遣いも女らしいとは言えない。
二重の人。


437 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/18(水) 00:16:06.71 LPlYwjTEO

白と黒。女と男。天使と悪魔。
アンビバレントさが強烈で目が離せない。
「さっきの人、誰?」
踏み込まれても許している。惹かれている。
「親父の奥さん。俺の初めての女」
最初から親父のほうばかりを見ていた女の視線を知らない振りでごまかして、中途半端に想われて抜け出せない位緩く縛られて、最後は生温くめった刺しにされた。
「ハードだな」
「美月ほどじゃない」
美月は綺麗に微笑んだ。
「どっちがなんて比べるもんじゃねーよ。
俺も暁人もしんどかった。だけどでくたばらなかったから会えた。それでいいじゃねーか」


438 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/18(水) 00:17:23.65 LPlYwjTEO

親はホームレスで、祖母はあんな指輪をいくつも持ち倒錯的な愛情の持ち主。
ファミレスの和風ハンバーグを旨い旨いとかきこむ美月はどことなく優雅で、ちゃんとマナーを躾られていたのだろうと考えられる。
それでいいじゃねーか。
そうは言っても美月のほうがハードだよ。
暁人は美月の旺盛な食欲に驚きつつも、細い首を眺めていた。


634 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/18(水) 21:31:07.80 2lXVr8dl0

投下なさげだから15分間隔くらいで投下するお


目の前の男は初めて話しかけてきた若い男だった。
美月の周りは常に祖母に管理されていて、美月に近づける者は50を過ぎた老人ばかりだった。
偏執的な祖母は片手で足りる使用人に妥協しなかった。
いくら年増でも生物学的に女である人間は門の中にすら入れなかった。
だから暁人みたいな人間が自分に興味を持ってくれることが嬉しかった。
ずっとずっと美月の世界は祖母が作り上げた箱庭。
それ以前は貧しくとも強かった母の腕に抱かれた孤島の中にあった。
「暁人、お願いがあるんだけど」
きっと思っている以上に自分は世界を知らない。
時折思い出したように執事が外の世界の常識について語ったが、
あの家から飛び出してきてから三日、知らないもののほうが多かった。
「俺に世間ってヤツ、教えてよ」
日に焼けた肌といくつかのニキビの痕。
決して美月の知る美しさを持っているわけではない。
だけど同情や同調なんかではないもっと強くて優しい眼差しに苦しくなったのだ。
「え? ああ。いいけど」
見られたくない、でも見ていたい。
その目の奥に何があるのか。
どんな風に自分が映っているのか知りたくて、知るのが怖かった。
午後9時過ぎのファミリーレストランは制服姿の高校生もまだ多く、
見ているだけで美月には新鮮であったけれど、強く惹かれるものはなかった。
薄っぺらな表情で談笑しながら、虚ろ。
面白いとは思ってもそこまでだ。
「何が知りたいんだ?」
「───全部」
この世界で生きていくうえで必要な全て。


638 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/18(水) 21:47:39.69 2lXVr8dl0

「あれは?」
「スターバックスっていうカフェ。喫茶店とマクドを足して二で割った感じの店」
「じゃーあれ!」
「あれはー……たぶんケーキ屋。果物屋からの進化なはず」
「へー。じゃああの変なピカピカしてるのは?」
「あー……うーん。テレビの電波出してる塔」
「電波?」
「そう。テレビはわかるよな?」
「うん」
「テレビってのは勝手に映像でてるんじゃないのわかるか? 映像の大本が必要なんだ。
それをあのデカイ塔がばら撒いてるって感じだ」
「すっげー! 暁人すげーな!」
はしゃぐ様子はまさに小学生そのもので、知識もその程度しかなかった。
世界を教えてくれと言われたとき咄嗟に承諾してしまったが、いざ教えるとなってから
何を教えたらいいのかわからなかった。
だから美月の目に付いた全てを教えていく。
「なあ、あれなんだ?」
「缶ビールの宣伝カー」
「あれは?」
「ビール会社のオブジェ。ウ○チじゃないぞ」
長い髪を揺らしながら足早に軽やかに駆け回る美月は幼いのに大人びていた。
やっぱり美月の二面性だ。
一方の顔を見るともう一方を見なくては収まらなくなるのだ。
裏があるわけではなく、ただもう一つの顔がある。


641 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/18(水) 21:55:50.10 2lXVr8dl0

「あれは」
ファミレスから坂を登ったり下りたりして気がつけば周りは繁華街から少し離れていた。
控えめなネオンと隠れるような入り口の建物が立ち並ぶ。
しまったな。奥まで来過ぎてしまった。
「暁人?」
「……ちょっと変わったホテルだよ」
額に手を当てながら暁人はため息混じりに答えた。
無邪気になんの意図も無く美月は聞いてきたのだろう。それは理解してる。
だけどやっぱり美少女にラブホテルを説明しなきゃならないこの状況は、
いくら中身が男だとわかっていても悲しい。
「どう変わってんだ?」
「───セックスってわかるか?」
好奇心一色だった美月の表情が失せる。
「へー。よくやるな」
笑みを浮かべて感情を覆い隠す。
微動もせずに凄絶な微笑を湛えていた。
「信じらんねー。触られる為の場所なんて頭おかしいんじゃねーの」
冷笑、蔑み、嫌忌。
それらは全て叫びだ。
少なくとも暁人の耳には悲痛に響いた。
「何が楽しいんだよ、手までつないで」
叫びながら自分の表情がどう変わっているのにかも気づかず、罵り続ける。
「美月、もういいよ」
坂の頂上から行き交う人を眺めて、張り裂けんばかりに感情を爆発させていた。
細い首が頼りなげで、黒髪の合間に見えた白いうなじが手を誘った。


643 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 本日のレス 投稿日:2006/10/18(水) 22:10:34.25 2lXVr8dl0

指先で艶めいた黒髪に触れかけて、暁人ははっとして拳を握り締めた。
だめだ。
今の美月に触ってはいけない。
今の美月は昔の自分だ。
周囲が全て敵で、周囲が全て自分を笑っていると思っていたとき、慰めてくれたのであろう義姉の優しさは
ただ煩わしいだけだった。もちろん彼女が義姉であることが多分に関係していたけれど。
「俺ってやっぱ、変なのかな」
変貌は一瞬だった。張り詰めていた空気も和らぎ、美月は項垂れていた。
「あいつらマジで楽しそうだ……」
「まあな」
「俺おかしいのか?」
坂の下には人目もはばからずにいちゃつくバカップルや、少し年の離れた──邪な雰囲気がしないではない──二人組み、
恥ずかしそうに俯きながら行き先を決めあぐねている初々しい恋人達。
「恋愛って、わかるか?」
自分も知らない答えを暁人は美月に求めたわけじゃない。
触られることがただ気持ち悪いだけなんて悲しい。
「質問に答えろよ暁人」
暁人は首を横に振った。
否定は美月の質問に対してか、それとも美月の発言に対してなのか、自分自身でもわからなかった。
おかしいといえばおかしいのだろう。
おかしいということが特異であるという意味だけを持つのであれば、美月はおかしい。
ネガティブかと問われれば、今はそうだと答える。
暁人はだけどと思う。
だけどこの先変わっていくこともあるだろう。
「人を好きになるって、わかるか美月」


647 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:2006/10/18(水) 22:27:33.77 2lXVr8dl0

この男はなにを言っているのかと美月は思っていた。
馬鹿にしているのかと言いたかった。
「わかるか?」
「……わかるよっ!」
たぶん年齢なんてあんまり変わらないのに、さっきから暁人は美月を子供のように扱う。
物を知らないから子供に思われたのか、だとしたら心外だった。
知らないのは美月のせいではない。知りたくても知ることができなかった。
「じゃあ、好きってどういうことだ?」
「え───」
どういうことって。
「嫌いじゃなくて……」
好きな食べ物。
「嬉しいとか……」
あの家で唯一好きだったドーベルマンのバグジー。
「そばに居たいとか……」
一緒に遊ぶんでいたくて、なにかあるとじゃれて。
「触りたいとか……」
好きだったから触れたいと思った。
もう余りに遠い記憶で、美月を軽く噛んだだけだと言うのに祖母はバグジーを毒殺した。
それ以来美月は全てから距離を置くようになった。
好きだとか嫌いだとかいう感情を捨てたのもきっとその頃だ。
体が冷たいと感じ始めたのもその頃だ。
「美月がおかしいんじゃないだろ」
甘美に響く言葉は嘘だからだ。
受け入れたのは紛れも無く美月だった。
強制されても最後まで拒み続ける選択だって、可能だったはずなのに。


649 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:2006/10/18(水) 22:34:18.76 2lXVr8dl0

「俺もおかしいんだよたぶん」
おかしくなっても、壊れきることが出来なくて逃げ出せたのだ。
受け入れた振りをしながら逃げることばかりを考えていた。
「お前さっき言っただろう。今ここに美月は立ってる。おかしかろうがマトモだろうが関係ない」
「なんだよそれ」
吐いた言葉が自分に振りかかる。
これじゃ自分の言葉の説得力がなくなるじゃないか。
「いいんだよ、そんな全部キレイでいようなんて無理なんだ」
子供じみた少年特有の潔癖さだと暁人は言った。
かわいそうだと執事も料理人も庭師も慰めてくれた。慰めながら、仕方ないのだと言われている気がしていた。
暁人は慰めじゃない。褒めてくれた。我慢できたからここにいるんだろう、と。
何度も何度も泣きそうな日はあった。
でもみつきは決めていた。
絶対に泣かない。
自由になるまで絶対に泣かない。
バグジーが死んだときに美月は決めた。
バグジーの命を奪った祖母からこの身が自由となるまで泣くものか。
「なぁ暁人、俺お前好きになっていい?」



雪崩れ込むようにしてマンションのエレベーターに乗った。
キツく握られた手首は痛くて、ここまで暁人を怒らせたのは一体自分のどんな行為だったのかと考えたが、
美月にはわからなかった。


63 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/29(佐賀県庁) 03:54:56.56 ILaktUPE0

すげー久しぶり('A`

好きになっていいかと訊かれて駄目だと言えるほど意地が悪いわけでもない。
ましてや美月みたいな美少女に言われたら、中身が男だとはわかっていてもくらっとする。
その眩暈を覚えている間に乱暴な言葉遣いの美月の声を聞くと、ストレートだと疑わなかった自分の性癖が
もしかしたら両刀だったのかと、後悔と恐怖と興味とその辺り諸々のよくわからない感情が腹で渦巻く。
「暁人?」
見上げてくる美月は確かに外側は女だ。暁人だけじゃなく10人に聞けば10人とも女だと答える位女だ。
胸だって膨らんでいる。シャツが大きいくて体にあっていないから襟元が開いていて、柔らかい隆起がうっすらと
影に縁取られて暁人は目を背けた。
好きになっていいかなんてこんな風に訊かれるのは残酷だ。
たとえイエスと答えたとして、本当に美月が望むような好意を暁人が持てるか難しい。
振る舞いが男のままで無防備だから、ふとしたときに見てはいけないものが視界に入るのだ。
「別に俺に訊くことじゃない」
「嫌なのか?」
中身は男だ。暁人は自分に言い聞かせる。美月は男だ、女じゃない。
逸らしたのに追ってくる美月の視線が痛かった。
真っ黒なまつげに縁取られた眼の真っ黒な瞳は逃げても逃げても逃がしてくれない。
「俺はお前の事好きだよ」
思考より先に言葉が飛び出ていた。


219 名前:禁煙失敗した('A` ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 19:13:00.42 gFWo409q0

「よかった」
美月は瞼を伏せた。
「暁人を好きになれるように、俺頑張る」
少し長い髪が俯いた頭に沿って首筋を流れた。
襟元が大きく開いていてそこから見えた背のライン。首筋、うなじ。
抑えられなくなるのも時間の問題だとはわかっていた。
無理矢理引っ張り出してきた理性でとりあえずの行動を決める。
こんなときは別のことを考えるしかない。
衣服を調達してから暁人の部屋に向かった。
今日はイレギュラーが多すぎだった。
部屋に着いてすぐに風呂に入った美月が上がるのを待っている間に寝てしまったらしい。
気がつけばクッションの上で寝ていた。
それが何度か続き、自分の家なのに暁人はクッションに、美月はベッドに寝るようになった。
自分の家なんだけどなと思いはしたが、マットレスの傷んだ古いベッドとクッションなら
寝心地は大して変わらないなんて変な理屈をつけて暁人は自分を納得させた。
仕切りの無い12畳の四角い部屋にはベッドしかない。
何もない部屋だった。
最上階であるせいか妙に天窓が大きかった。
夏の間はスクリーンで殆ど覆ってしまうが、夜は開けていた。
天井の殆どがガラスだ。
そこが暁人は気に入っていた。
どうせ帰ってくるのは寝るときだけだ。
空を見上げることが無いのなら寝るときに見ながら寝てやればいい。
この部屋に決めた時にそう思った。
白い壁に窓を通して花が咲く。
吸う煙草の赤い点だけが時折瞬いた。


222 名前:禁煙失敗した('A` ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 19:23:10.61 gFWo409q0

不思議な同居生活が始まった。
美月の持っていた指輪と金は一年くらい遊べそうな額ではあったけど、暁人のバイト先に興味を持ったのと、一人の時間をもて余したことから美月も働くことになった。
幸い個人経営のライブハウスで、店長兼オーナーは二言目に「女の子丁度ほしかったんだ」とか言って、ロクに聞きもせずに美月を雇った。
暁人が家を飛び出してたまたま常連だったこの店に雇われた時と同じだ。
「頑張ってくれるなら」
ただそれだけが条件に17才の暁人を雇った。
誕生日が過ぎて18になり、ようやくちゃんと従業員としておけるよと笑って言われた。
素性や経緯なんかを深く追求したりしなかった。
そんな店長だったから美月の不思議な行動、つまり見た目は女なのに全く女っぽさの無い仕草だとか、言葉遣いだとか、極端に人に触られることを嫌うことについて訊いたりしなかった。
美月の事情についても同じだ。
頑張ってね、とだけ言って初日は普段どおりに店を営業した。
ライブの無い日はただのバーになっているこの店の客は常連が9割を占める。
廃ビルのようなおんぼろビルの唯一のテナントだから新規のお客なんて殆ど見たことが無い。
バイトどころか家から殆ど出たことの無い美月には、洗い場で洗い物をさせている。
店長の気遣いだった。
それでも初めての労働に最初の一週間くらいは相当疲れていたようだったが、それが暁人に幸いした。
寝ている美月があまりにも無防備すぎて本当に子供のようで、何もしていないのに犯罪者のように感じたせいだ。
手を出すとか出さないとか、そういうもの以前の問題だと暁人は思う。
恋愛感情よりたぶん庇護欲の方が強い。
「これ洗って」
洗い場、といっても客も少ないこの店は実際店長一人でだってまわる。
ライブの日だけは暁人と二人では苦しいくらいだが、それほどキツいわけでもない。
だから美月の仕事量は極端に少ない。
そのせいか暇を見つけては店内の掃除をし始めた。


232 名前:禁煙失敗した('A` ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 20:11:47.62 gFWo409q0

投下の続きー
BGMはGreen Dayなのになんでこうなるのかな('A`




そのうち客と話すようにもなった。
「りょーかい」
そして、店員であるが故に当然のように客に絡まれる。
「で、暁人君ってさ、美月ちゃんに手出したの?」
「出してません」
とんでもない事を訊くのはいつも女だ。
女同士の会話の方が男よりもえげつないと言われる所以がわかる気がする。
「どーなの美月ちゃん」
別の客が背を向けている美月に声をかけるけれど、水を扱っているせいか聞こえないようだった。
「洗い物してるときは聞こえないか」
てへ、っと舌を出して大学生風の女たちは笑いあう。
美月が働くようになってから、閉店後の付き合いは断っていたけれど大して影響は無いようで内心ほっとしていた。
最後まで付き合ったことは無いし、店長も一緒だから営業のうちだ。
誘われることは多いけれど、別に暁人はそんな大層な容姿なわけじゃない。
たぶん若いから物珍しくて相手してくれているだけだろう。
グラスを洗い終わった美月が振り返った。
「手出すってなに?」
暁人は美月の無知さと幼さをこの瞬間だけ呪った。


234 名前:禁煙失敗した('A` ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 20:18:45.12 gFWo409q0

洗い物をしながら背後の会話を美月は聞いていた。
少しだけ美月はいらついていた。
暁人に絡んでいる女たちが苦手だったからだ。苦手と言うよりは嫌い、に近い。
馴れ馴れしく暁人に話しかけていたりするのが気に食わなかった。
美月だって暁人に知り合ったのは最近だから、当然知らない人が暁人と仲が良かったりするのはわかる。
だけど彼女達の視線が嫌だった。店で働くのは楽しかったが、美月は相変わらず女が苦手だった。
店長がいる時なら店長が客の相手をするからいいのだが、暁人と美月だけの時間が増えていくにつれ嫌悪がつのった。
洗ったグラスを拭いて棚に戻した後、美月はわざと訊いた。
「手出すってなに?」
暁人の表情が固まる。
暗い店内でも眼が慣れてしまえば関係なかった。
「え……美月ちゃん……?」
「ねーなに?」
答えてくれそうにも無い暁人を放って無邪気を装って訊いた。
顔を見合わせる彼女達は戸惑っている。彼女達は美月がちょっと変わった女の子くらいにしか思っていなかった。
「美月、後で」
「今教えろよ」
「美月?」
困惑とも不審とも取れる顔で暁人は美月を見た。
だから笑う。出来るだけきれいに、出来るだけ感情を隠して笑う。
「冗談キツいなあ美月ちゃん」
女の一人が言った。
冗談だと取ってくれたならそれで良かった。彼女達はどうでも良かった。
「あはは、冗談でしたー」
そうして、二人の関係は少し変化した。


238 名前:禁煙失敗した('A` ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 20:32:11.85 gFWo409q0

その二日後、高校生位の男三人グループに声をかけられて、美月は適当にあしらっていた。
「彼氏いないの?」
「いなませんよーご注文は?」
「とりあえず生三つ。彼氏居ないなら店終わったら遊ぼうよ」
「生三つですねー。気が向いたら、付き合うよ」
営業スマイルでそういうと三人は騒ぎ出した。
ビールサーバーからジョッキに生ビールを入れるのももう慣れた。最初は泡ばかりになったが、それもなくなった。
「行くなよ」
二つ目のジョッキにビールを注いでいたら暁人がチャームを用意しながら言った。
「暁人に関係ないだろ」
美月はただ、暁人が多くの知り合いを持つように、自分にそういう人が居れば少し楽になるかと思ったのだ。
だからさっきの発言はおかしくないし、咎められるようなことでもない。
暁人にだっているじゃないか、そう言いたかった。
「美月、お前はわかってないんだ」
「何を?お前はわかってんの?俺がなに考えてるのか」
少しずつ、少しずつ亀裂が入っていくことに気づきもしない。
「──好きにしろ」
そして、美月は閉店後彼らと食事をしてくると言って誘われるまま街に消えた。


245 名前:禁煙失敗した('A` ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 20:47:11.41 gFWo409q0

そもそもこんな関係は不自然だし、不健康だ。
いくら子供みたいに見えて手が出しにくいと言っても、健全な男子たる暁人にはきつかった。
かと言って放り出すわけにも行かず、無視も出来なかった。
放っておけばいいんだと思いながら暁人はクッションを殴りつけていた。
「くそ……っ」
好きとか嫌いとか恋愛感情とかを持つ前に目が合って、それが全てだった。
それ以上を思う前に女がそこに居た。
目を背けたくなるくらいキレイな女で、それに感情を抜きに欲情した自分を知られたくなかった。
あの男達もきっと同じだ。
暁人が感じたものとあの男達が感じたものは違うかもしれないけれど、結果は同じだ。
探せる自信も無かったけれど。
「放っておけるわけねーだろ」
馬鹿みたいに無知で、無邪気で、その下に激情を隠した、あれは獣だ。
どうしようもないくらいに子供なんだ。
エレベーターで階下に降りる間も立ち止まっていたくなかった。
別れたのはたった一時間ほど前なのに動いていないと嫌な考えだけが頭を巡る。
開きかけたエレベーターの扉をこじ開けるようにエントランスホールに飛び出して、マンションを出た。
深夜でも眠らない街の空は明るかった。
そして漆黒のアスファルトを挟んだ向こうに真っ白な美月が立っていた。
車道へ左右の確認もせずに躍り出た暁人を暴風が襲った。
「ばっ……!」
暁人に気づいた美月が叫んだ。
トラックらしき車体が一瞬前の視界にあった事を思い出した。


250 名前:禁煙失敗した('A` ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 21:06:54.13 gFWo409q0

派手にこけたことだけはわかった。
「ってえ……」
「馬鹿かお前!」
真っ白な美月が体を揺さぶっていた。
「車が来てる事位確認しろよ馬鹿野郎!」
そう言う美月の服もボロボロだった。
シャツのボタンは無いし、袖も片方無かった。唇の端が切れていた。
「ふざけんなっ」
アスファルトから体を起こすと、少し足が痛んだ。そんなもの気にしていられなかった。
「あいつらどこだ?!」
「逃げて来たんだからわかるわけないだろ!」
すぐそばの車道には時折車が走っていた。
轢かれることなんて考えていなかった。エンジン音で怒りと焦燥に熱されていた頭が冷めてくる。
「だから行くなって言ったんだ」
体はそう痛くなかった。立ち上がってレールガードに腰をかけた。
ジーンズからよれよれになったマイセンを引き出して口にくわえた。
美月は何も言わなかった。
想像したくなかった。
もう一度ポケットに手を入れてライターを探した。
今は冷静になることが第一だったのに、見つからなかった。
たった一時間だ、未遂に決まっている。そう暁人は考えた。いや、願っていた。
別に処女性だとかそういうことじゃなくて、やって穢れただなんて事を言い出すわけじゃない。
ただ美月が傷ついていなければいいと思っていた。守らなくてはいけなかったのに。
ライターが見つからない。
カチリと音がした。
「なんで美月がライターなんか持ってんだ」


253 名前:禁煙失敗した('A` ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 21:21:58.32 gFWo409q0

雪崩れ込むようにしてマンションのエレベーターに乗った。
キツく握られた手首は痛くて、ここまで暁人を怒らせたのは一体自分のどんな行為だったのかと考えたが、美月にはわからなかった。
小さな箱の隅に押しやられて暁人に覆われた。
やっぱり暁人はでかいなぁと関係の無い事を考えていた。
口付けは唐突で獰猛だった。
「んーっ!」
血の味が広がって唇の端が痛んだ。
持っていたライターを取り上げて書かれていた文字を見て暁人の雰囲気が一変した。
また轢かれそうになりながら車道を無理やり通ってマンションに入った。
暁人は一言も言葉を発さなかった。
きっとこれは自分が悪いのだ。
美月は暁人が行くなと言うのに行った。
そのせいだ。
危ないからと言うことだったのだろうにそれを無視した自分が悪いのだ。
縦横に舌がかき混ぜていく。
鉄の味と煙草の苦さと臭い。
眩暈がしそうだ。
ライターを持っていたことがいけないのか。遊びに行ったことを暁人は知っていたし、そのことに付いて話している間は怒っていなかった。
「くるし……」
すこし離れた唇の間で言ったら暁人の唇に触れた。
背を何かが走った。
腕を頭の上で捕まれて居なければエレベーターの床に座り込んでしまっていただろう。
さっきまで重ね合わせてすらいたのに、掠めただけの触れ合いに何かが持っていかれた。
「何された?」


257 名前:禁煙失敗した('A` ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 21:41:30.95 gFWo409q0

すいません、上の
「何をされた?」は
「何された?」でお願いします(´д`;)




そして暁人はわかっているかのようにぎりぎりの距離を保っていた。
「何も……っ」
顔を背けた美月の腕を放した暁人は優しく頬に触れた。
「ごめん」
そして暁人は離れた。
いつもならすぐのエレベーターのくせに、そのときだけはやたら長かった。

生活は普段どおりに戻った。
夕方くらいに家を出て働いて日付が変わった頃に家に帰る。
ただ暁人は美月に近づかなくなった。
常に一番遠くに立っているように見えた。
あの時、暁人に触られたことに美月は嫌悪を感じなかった。
他の人にならずっと感じてきていたのに、耐えていたわけでも無いのに、逆に頬に添えられたては暖かくて、ずっとそのままでいてほしかった。
だけど暁人は美月が近づくと離れた。
何がいけなかったのか美月にはわからなかったし、暁人が何を考えているのかもわからなかった。
あの時何故謝られたのか、その理由も話さないまま月日は過ぎていった。
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