青い肌(2) 無才C判定 ◆8JqZBHfJBk

    

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289 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/26(火) 20:33:57.59 qIzPFp22O

(´・ω・`)この駄作第二話目はKinKi Kids「Bonnie Butterfly」を勝手にテーマソングにして、無才が途切れ途切れにお送りします。

喜多川社長怒らないでくださいYO。
では投下


290 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/26(火) 20:38:34.22 qIzPFp22O

どうして生きているんだ?

終わりの苦しみは一瞬だけなのにお前はどうしてぐずぐずといつまでも救いと赦しを求めて足掻く?

同じことの繰り返しでしかないこの人生にどうしていつまでも執着するんだ?

生きるのは意志じゃない。楽しいから生きるわけでも苦しいから生きるわけでもない。

ただ死ぬのが怖いだけ。本能でしかない。そうだろう?

こんな人生なんて償いのためにさっさと終わらせるのが道理だ。

もはや夢と現実の境界すら誤魔化すぼやけた霧の中で、
ただお前は呆然と、突っ立っていることしか出来なくなってしまっているじゃないか。


291 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/26(火) 20:40:27.41 qIzPFp22O

藍色がひとしきり俺の声で呟いたあと、急に視界が開けた。

春の日差しが柔らかく彼を浮かび上がらせていた。

毛先の細い黒髪を風に少し浮かせて、彼は呟いた。

―きれいで可愛いね、この蝶。

―お前と同じ色してるな

にこにこと笑いながら呟やく彼に、俺は見たままのことを言った。
淡く顔だちはぼかされているのに、目の藍色だけは濃く濁りがない。

しばらく彼は目を丸くして俺を見ていたが、白い顔に笑顔が咲いた。


292 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/26(火) 20:42:53.60 qIzPFp22O


―なんだか、優しいね。響太君て。


違う、俺は弱い人間だ。自分の痛みしか感じることの出来ない弱くて汚い人間なんだ。

お前をひたすら傷つけてのうのうと生きてる。
何食わぬ顔で笑って、怒って、喜んで生きてる。

彼が指を差し出すと蝶は物怖じもせず花からその淡く桃色を帯びた細い指先に移る。


俺の目の前に差し出された蝶は青い燐粉をさらさらときらめかせながら風化していった。
留まっている指の白さでそれは目の覚めるような鮮やかさで瞼の奥に灼きついた。



ボニーバタフライ

第二話

299 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/26(火) 20:56:12.54 qIzPFp22O

はっ、として目が覚める。

カーテンの隙間からうっすらと夜明けの青い光がこぼれる、薄暗い自室のくすんだ天井が響太の目に飛び込んできた。

自分の荒い呼吸が部屋に響くのを聞くと、急に体の力が抜けた。


「くそ………………」

響太は、しばらく呆然と額を覆っていた右手を、敷き布団へ力なく振り下ろした。
シーツの皺が押し伸ばされて、パサリと気の抜けた音がした。

枕元に置いた目覚まし時計を手に取る。

針は5時前を指している。朝練の為にセットしたアラームが鳴るより、1時間以上も前に目が覚めていた。

心臓の鼓動が鼓膜を五月蝿く震わせるのを止めない。無理をして目を閉じてもあの色しか浮かんでこなかった。

寝付けそうにもなく、響太は上体だけ起こして、ベッド脇の窓のカーテンを少しだけ開けた。


300 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/26(火) 21:00:34.96 qIzPFp22O

明けきらない空はまだ暗く、町並みに充満する早朝の冷気は青すぎる。

黒く縁取られる高層ビルの輪郭と屋根を紺色に染め上げられて軒を連ねる住宅街が、少ない光を掴んで像を結んだ眼球の奥をだるくさせる。
カーテンから手を放し、響太はぐったりとベッドにもたれた。

(……あいつに、姉妹なんかいたのか…?)

帰蝶谷なんて名字はそうそう巷にあるもんじゃない。
たまたまあいつと同じ名字の転校生が来ただけだ、と片づけることは響太にはできなかった。

301 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/26(火) 21:05:03.97 qIzPFp22O

考えつくのは、あの転校生は彼の知る小4の頃の「帰蝶谷」の姉妹か、
そうでないなら、名字は大体父方の姓を名乗るという一般論からして、「帰蝶谷」の父方の親戚か。

姉妹だとするなら、響太と同じ学年に編入して来たのだから双子だ。

一卵性か二卵性かは分からない。響太の中での「帰蝶谷」の顔は記憶の中ですっかりとぼやけている。
比較しようがなかった。

忘れたと思いたいだけなのかもしれない。
無意識下の夢の中でも彼の顔ははっきりと見えないのだから、忘却願望は堅固なものだろう。

夢を見る度、目以外の顔のパーツがあやふやな彼の顔が頭から離れず響太は記憶の海からの反芻を試みていたが、彼の中で「帰蝶谷」は目の色以外、顔だけがすっぽりと抜けていた。

397 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 投稿日:2006/09/26(火) 23:29:54.14 qIzPFp22O

「行ってきます」

少し疲れの見える声で言い、響太はドアを閉めた。
ベランダと屋根に切り取られた、水に解かれた絵の具のように淡く伸ばされた雲が薄い膜のようになっている水色の空はやけに眩しく、
蝉は相変わらずやかましかった。

ジリジリと言う品もへったくれも無い声からして、ここ一帯に生息している蝉は、アブラゼミに違いないだろう。

日が暮れてくると、部活中の体育館に黒い染みを散らばらせた茶色い羽を羽ばたかせて、奴はよく侵入してくる。

男子は面白がるが、女子バスケット部のコートに乱入したときは大変なことになる。
練習そっちのけで走り回って逃げる可愛い一年生がいて、彼女の甲高い悲鳴は男子にとってはひとつの娯楽になっている。


398 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 投稿日:2006/09/26(火) 23:35:40.77 qIzPFp22O

とはいえ彼女、身内の部内からはその行動で大変な顰蹙を買っているのだが。

響太はすぐ横の階段を降り始めた。屋根から出ると、日の光が一気に瞳の中へと入り込んで、彼は一瞬だけ目を細める。学生靴のかかとが、コンクリート作りの、湯立つように熱い階段にくぐもるような音を立てた。


結局あれから学校には余り行く気にはなれなかった。

受験に差し障るからと、親にしきりに騒ぎ立てられて、響太が重い頭を押さえながらアパートの部屋を出た今、すっかり昼過ぎになっていた。


400 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 投稿日:2006/09/26(火) 23:42:08.39 qIzPFp22O

昨日は初めて練習をサボった。そして、今日初めて朝練をすっぽかし、補習に途中から出る。

いつもは一時間目から最後までちゃんと出席していたのだが、帰蝶谷の存在が気にかかって、正直他のことに気が回らなかった。

階段を降りきると、アスファルトの照り返しのきつさに顔をしかめながら、響太は途切れ途切れの街路樹の影を歩き出す。

響太は、朝礼の時の、彼女の微笑みを思い出していた。

もうあれから六年が過ぎたというのに、「帰蝶谷」に対する罪悪感は拭い去られ消えることなく、ずっと奥底に青黒い根を張って、必死でそれを押さえ込む自分をあざ笑っていたのだろう。


403 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 投稿日:2006/09/26(火) 23:46:11.95 qIzPFp22O

響太は俯きながら、調合された細かな石材の浮かぶ鼠色の道を見つめた。
せいぜい知らぬふりを決め込めばいい。

いつか気付かずにいられなくなる日が来るのだから……、と。
それは自分を指差して高笑いをしていたに違いない。


響太が家族と住むアパートから、炎天下の道を真っ直ぐ10分も歩けば高校につく。

青く晴れ渡った空の向こうに見え始めた校舎の姿が目に入ると、
響太は気が重くなった。



これ以降は来月まとめて新ネタと共に誰も期待していないと分かりきっていながらも投下します
今月いっぱい絵師に徹します(´・ω・`)

881 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/28(木) 20:54:56.55 iS5fZ3fOO

校門をくぐればからからに乾いた細い雑草群が点在する赤土のグラウンドが広がる。
各クラスの窓にちらちらと見える教師の姿を見ながら歩ききり、響太はドアから生徒玄関へと入った。

暑さ対策のために、それは開けっ放しにされていた。

ドアとドアの間に傘入れの置かれた石床の上に、閉められた方の扉の、銀色の冷たい戸枠が、外から照りつけられて影を描いている。

光が遮られて薄暗い空間の中に、靴箱と履き替えの板場が静かに蝉の声を聞いていた。

我が物顔で空に浮かんだ太陽のせいで額と首筋にうっすらと浮かんだ汗を、肘のあたりまでたくしあげたワイシャツの袖で拭ってから彼は自分の靴箱へと歩み寄る。

三年生の靴箱は響太が入ったドアからちょうど一番左端にある。


882 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/28(木) 20:58:06.80 iS5fZ3fOO

履き古して、縫い合わせ部分に少し塗装の剥げが目立つ学生靴を板場で脱ぎ、上履きに履き替えようと自分の靴箱を開けていると、
昇降口からザリ、と誰かが入ってくるゆっくりとした靴音がした。

それは三年生の靴箱のほうへと近寄ってくる。

自分と同じように途中から補習を受ける人間なんだろうと響太は思い、特に関心を抱くこともなく上履きを取り出す。

こんな暑い中にご苦労なことだ。

自分にも入ってきた人間にも労いの言葉を心の中で呟く。

足音は響太の後ろで止まった。


「森崎君」


落ち着きのある声は静かすぎて、靴箱との接合部を軋ませて閉じようとした扉の音に消されかける。

聞き覚えのある声に、一瞬肩をびくりと震わせて響太はゆっくり振り向いた。

そこには昨日と同じように黒い髪を結い上げた帰蝶谷がいて、彼女は、おはよう、とどこかぎこちなく笑った。


883 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/28(木) 21:02:52.91 iS5fZ3fOO

「あ……帰蝶…谷…」

「おはよう」

自分を見つめてくる真っ黒な目が、今日の夢を思い起こさせ、響太の心臓は嫌な速さを刻み出した。

―優しいね、響太君は

夢の中で聞いたまだ声変わりのしていない、淡やかな彼の声を思い出す。

…違う。
響太は頭の中で叫んだ。

今ここにいるのはその「帰蝶谷」じゃない。

自分は何を脅えているのだろう。彼女が「帰蝶谷」なはずがない。あいつは男だった。俺が知っているあいつは女じゃない。

ごちゃごちゃになる思考の中で、
響太が何もそれから先の言葉を言うことができずにいると、彼女は決まり悪そうに話しかけてきた。

「あのね、来たばっかりで本当に悪いんだけど…………」

薄い唇から漏れる声が、少しだけかすれている。

「保健室どこか…教えてくれないかな?」

884 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/28(木) 21:05:41.40 iS5fZ3fOO

「え?」

響太は帰蝶谷を見つめた。

どこか具合が悪いんだろうか。そう考えてみると少し顔が青い。それは色の白さによるものではないようだった。

帰蝶谷は、駄目かな、と弱りきった声で懇願するように響太を見てきたので、響太は慌てて言葉を返した。

「あ、うん、いいよ。俺…案内するから」

「本当?ごめんね。昨日先生から場所とかいろいろ説明受けたんだけど、忘れちゃってさ」

助かったあ、と心底安心したように言って、帰蝶谷は響太に並び立つと、靴を履き替え始めた。

それを見て、響太も止まっていた手を動かし、急いで上履きを履いた。


885 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/28(木) 21:07:13.90 iS5fZ3fOO

上履きを履き終え、響太は板場の上に一旦下ろしていた鞄を、また肩にかけた。

章の方を見やると、さっきよりも青い顔で上履きに足を入れている。


「保健室、二階だけど…昇れる?階段」

「うん……、大丈夫」


響太が尋ねると、爪先を軽く床に叩いて上履きの中の足位置を直しながら、章は力無く頷く。

風邪でもひいた?と響太が問うと、章は「まあ、そんなとこ」と曖昧に淡く笑った。


生徒玄関の横にはすぐ職員室があり、真っ直ぐ行った廊下の突き当たりに、二階へと続く階段がある。

窓から見える植木の緑は目に染みるように鮮やかで、額の中の絵のようだった。

886 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/28(木) 21:11:03.90 iS5fZ3fOO

職員室とは反対側の廊下に、アルミサッシの窓枠は金属的な冷たさでパズルのように居並び、風景を抜粋している。

その前を通り過ぎながら、二人は職員室のドア横の行事黒板の前に立ち止まる。

「夏期講習」とチョークで書かれ、そこから月末まで、同じくチョークで書かれた矢印が伸びているだけの行事日程の欄のすぐ横に職員の在校状況の掲示欄がある。

少し首を伸ばしてそこを見ると、養護教諭は何かの用事で三時まで出払っているようだった。

鍵は開いているので具合の悪い者は担任の許可を取ったら入って休んでいてよい、と備考欄に書かれてある。

「先生、居る?」

寒気がするらしく、章は長袖に包まれた細い肩のあたりをしきりにさすりながら言う。

「いや、3時まで居ないって。保健室で休むこと、担任には俺が言っておくから」

「ありがとう。ていうか私も馬鹿だね……思えば職員室の場所は分かってたから、入って保健室の先生に聞けばよかったのに」


887 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/28(木) 21:13:32.57 iS5fZ3fOO

具合悪くて頭回らなかったよ、と響太に帰蝶谷はすまなそうに謝った。

職員室の中を覗くが、補習で教師は殆ど出払っていて、残っている教師は何やら難しそうな顔でパソコンや机の書面の上を見つめて、忙しなく手を動かしている。

とても邪魔の出来る雰囲気ではないし、何よりこんな時間に廊下を歩いていることを咎められそうな気がした。

「気にしなくてもいい」と平静を装いながら響太は言って、再び歩き出す。

正直、「あいつ」と同姓のこの転校生とあまり一緒に居たくはなかったのだが。

窓の途切れる突き当たりの階段は少し冷たく薄暗い。

889 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/28(木) 21:19:47.86 iS5fZ3fOO

踊場にある一枚の窓は、鬱蒼とした常緑樹が微風に葉を擦れさせる、その隙間からの淡いこぼれ日しか採光出来ていなかった。

言葉を交わすことなく、ゆっくり階段を二人は昇りだす。時々、帰蝶谷の苦しそうな呼吸が響太の耳に届いた。

「もうすぐだから」

「うん」


その二言だけ、階段で二人は言葉を交わした。

保健室は階段を昇りきってすぐ真ん前にある。

だから、はっきり言って踊場から先は案内が要らないような気がして逃げ出したい気分に駆られたが、さすがに病人を一人で放っていくことは、彼には出来なかった。

「ところでさ、さっき」
「え?」

階段を昇りきると、響太は帰蝶谷に話しかけた。

帰蝶谷は少しだけ目を丸くして、さっきって?と聞き返したので、
生徒玄関で会ったときだと響太は付け加える。

891 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 本日のレス 投稿日:2006/09/28(木) 21:29:24.58 iS5fZ3fOO

「何で、俺の名前知ってたんだ?」

真顔で尋ねる彼に、帰蝶谷は血の巡りの悪い青白い顔で、ああ、と微笑む。

「昨日教卓の上の座席表見たの。グラウンドで会ったとき、あなたすごく背が高かったからよく覚えてて。朝礼のときも、すぐ分かった。だから名前なんなのかなー、って…………」

それだけよ、と帰蝶谷は言って、それじゃ、私休むから。と保健室のドアを開けた。

がらんとした廊下に、引き戸がガラガラとレールを滑る音が、やけに大きく響いた。

「ごめんな、変なこと聞いて」

響太が謝ると、彼女は弱々しく笑いながら、構わないと言うように頭を振った。

「じゃあ、俺上行くから」

「うん」

響太が階上をあごで軽くしゃくると、帰蝶谷は柔らかく頷いた。

閉める間際、彼女は顔をドアの隙間から覗かせて、「わざわざありがと」と響太に弱く笑いかけ、静かにドアを閉めた。


349 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 投稿日:2006/10/05(木) 19:38:03.22 kHOPR51rO

今日は、補習が五時間までしかない、ということをすっかり失念していた。

帰蝶谷を保健室へ送り届けて教室へ入ったとき、時計はあと2、30分くらいで五時間目授業終了の時刻をさしていた。

教師とクラスメートの視線を浴びながら、教卓の上の教材プリントを取って席へ帰ったとき高島から耳打ちされて、森崎は初めてそのことを思い出したのだった。

あまり来た意味無かったな……と彼は内心ため息をつきながら、黒板に忙しなく白チョークで書き足されていく数式を頬杖をついて眺めていた。


350 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 投稿日:2006/10/05(木) 19:49:13.74 kHOPR51rO


「そのプリントは?」

授業が終わり、生徒達が席から立ち上がる椅子の音や、各教室や廊下に響く談笑の中、
高島は森崎が鞄から取り出したプリントを指差した。

「帰蝶谷に届けろって。担任に頼まれたんだよ」

「ああ、さっき先生何か喋って置いてったの、それだったんだな。」

そういや帰蝶谷さん来てなかったな朝から、と高島は言う。森崎は頷いて、プリントを皺にならないよう自分のクリアファイルに閉じ、鞄へおさめた。

「つか何、お前帰蝶谷さんと家近いの?その任務を仰せつかるってことは。」

「いや、保健室にいるから。帰蝶谷」


352 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 投稿日:2006/10/05(木) 20:03:15.16 kHOPR51rO

「いいなあお前だけ。俺も行きたいよ」

襲うなよー、と言って笑う高島にバカと吐き捨てながら、森崎は鞄を肩にかけて教室を出た。

保健室に行ったら帰蝶谷に同い年の兄弟や親戚がいるか聞いてみよう。
正直怖いが、あの夢の残滓を取り去るにはそれしか、ない。
そもそも彼女があいつである筈がないのに、俺は何を彼女に罪悪感を感じているんだ。

あいつが彼女と関わりがあったとして、親族姉妹に小学校の頃のことを相談したとしても、自分の、「森崎響太」の名前が出るとは考えられなかった。
名前を覚えてもらえるほど直接的な関わりを、あいつと持ったことなどない。


354 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 投稿日:2006/10/05(木) 20:20:43.89 kHOPR51rO

巡らせていた思考は、森崎君、という明るい声で絶たれた。

声のしたほうを振り返ると、騒々しく人の行き交う廊下の向こうで樋口が手をぶんぶんと振っている。一方の手にはモップが握られている。
森崎は女子の雨具掛けのそばにいる樋口に歩み寄った。

「掃除当番か?」

「うん、今週ずっと。教室担当なんだ、私の班。今、廊下モップ掛けするとこ」

「あんま意味なさそうだな」

人の行き交いを眺めて森崎が言うと、樋口は白い歯を見せて快活に笑いながら、そうだねと頷いた。

「あ、そうそう!これ言うために呼んだの。今日部活休みだから」

「それは助かった。俺、部活の物一式家に忘れてきたから」

「運いいねぇ」


356 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 投稿日:2006/10/05(木) 20:33:39.07 kHOPR51rO

からからと樋口は声を立てて笑った。ついな、と森崎はこめかみを軽く掻く。

彼女が言うには、職員会議が当初より長引くことになったため監督が部活に顔出しが出来なくなり、それで部活が潰れたらしい。

「一体何話し合うんだろ」と樋口は首を傾げる。三年の進路とか成績会議の類いじゃないか?と森崎が言ったが、
大会もあるし大事な時期なのに、と樋口は納得いかないようだった。

「遠子ー!廊下まだー?」

「あわわわごめんごめん!すぐ終わるから!」

教室からした女子の声に樋口は大きな声で叫び返す。

「じゃ、俺行くわ」

「うん、悪いね長いこと足止めさせて」

気にすんな、と樋口に手を振ると森崎は教室棟の突き当たりの階段へ向かった。

もう一度帰蝶谷と顔を合わせるのは気が重かったが、はっきりさせなければならない。


「お前は、誰なんだよ……、帰蝶谷」

俯き階段を降りながら、森崎は小さく呟いた。


359 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 投稿日:2006/10/05(木) 20:46:42.45 kHOPR51rO

「失礼します」

森崎は、できるだけ静かにゆっくりと保健室のドアを開けた。

ベージュのカーテンで囲まれた2つのベッドと少し隔てて養護教諭用のデスクがある。
錆びたアルミのブックエンドで挟まれた本と閉じられたノートパソコンが放置されている。オフィスチェアには誰もいない。
開け放たれた窓の向こうを静かに雲が青空を流れていた。

「森崎君?」

すぐに一番端のベッドから帰蝶谷の声が聞こえたので、森崎は鞄をドア前に降ろしてプリントを取り出すと窓側のその場所へ近寄った。

カーテンで仕切られたベッドの中で上体だけを起こし、帰蝶谷は背をアイボリーに塗装された鉄パイプのベッド枠にもたれていた。

顔の青みは取れ、少しだけ彼女の頬に血色が戻っていた。
すぐそばの窓は閉められて、ベッドの囲いと同じ色のカーテンが引かれていた。西日が入って眩しかったのだろう。


366 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 投稿日:2006/10/05(木) 21:02:23.70 kHOPR51rO

「プリント届けに来たんだけど」
「あ、わざわざ有難う」

森崎が差し出したプリントをそっと受け取ると、帰蝶谷は布団に覆われた膝の上に置く。

「あのさ」
「何?」

顔を上げた帰蝶谷の黒い目に、森崎の手が少し震える。
「帰蝶谷ってさ………兄弟とかいるのか?あと、同い年の親戚とか」
「…いないよ、私、一人っ子だから。」

「あ、そうか。ごめんな……変なこと聞いて」

やっぱり別人だったのだ。あいつとこの目の前の女子は何ら関係などなかった。昨日から心臓にへばりついていた鉛の鱗が剥がれ落ちた気がして森崎は、じゃあ、ときびすを返そうとした。

「待って。」
「何?」

不意に帰蝶谷が呼び止めた。森崎が立ち止まり振り返ると彼女は穏やかに微笑んでいる。

「プリントのお礼にいいもの見せてあげる。そのまま、前向いてて」
「何を………」
「いいから」

いわれるがままに森崎は前を向く。正直ここから立ち去りたかったが、無碍な態度をとることもできなかった。


368 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 投稿日:2006/10/05(木) 21:15:52.59 kHOPR51rO

「いいよ」

しばらくして彼女の声が聞こえ、森崎は振り返った。
それと同時に、窓のカーテンが素早く引かれた。

「う………」

部屋の陰りの中で小さく絞られていた虹彩に、一気に日の光が雪崩れ込む。弱く呻いて、手をかざしながら、森崎は帰蝶谷を見た。

「お前…………!」

「何驚いてるの?…私を探していたんでしょ?」

帰蝶谷の真っ白な肌の上で、暗い藍色の目が笑いながら森崎を見返していた。

「俺が「帰蝶谷」だよ。久し振り、森崎君。」

そう言って、帰蝶谷は穏やかに形のよい薄い口元を上げて微笑んだ。
捕らわれたかのように、森崎は降り注ぐ光の中で深く色を放つ、彼女の双瞼から目をそらせなかった。


369 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 投稿日:2006/10/05(木) 21:18:39.05 kHOPR51rO

僕らは今でも叫んでる

確かめるように握りしめた右手
うざったい法則をぶち壊していけ

傷ついた足を休ませるくらいなら
たった一歩でもここから進め

歪んだ風をかき分けて
冷たい空を追い越して
それでもまだ
さまよい続けている

僕らはいつでも叫んでる信じ続けるだけが答えじゃない

弱さも傷もさらけ出してもがき続けなければ始まらない
突き破れ扉の向こうへ

扉の向こうへ

扉の向こうへ/Yellow generation

高宮マキでは済まないほどの鬱展開になるんでまた変えました。反省はしていない。これでBGM本当に最終決定。アニソンですがご容赦願うw


370 名前:無才C判定 ◆8JqZBHfJBk 投稿日:2006/10/05(木) 21:22:22.58 kHOPR51rO

帰蝶谷が女になった要因は次話で触れます。
本当は今話になる筈だったんですが。次から本格的に鬱が展開します。

駄文にお付き合い戴き、有難うございました
(´・ω・`)
スレ汚しと自覚しつつ、次回へ続く
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