「カズ 507」(2006/10/20 (金) 12:52:32) の最新版変更点
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***507 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 本日のレス 投稿日:2006/09/27(水) 11:34:28.70 j3whsLQG0
カーテンの隙間から漏れる日差しを感じて、ゆっくりと意識が浮き上がる。
寝起きは悪くないはずなのに、妙に息苦しいのは何故だろう。
「・・・・・・・っっっっっ」
「あ、起きちゃった? おはよう、カズ君」
「・・・オハヨウゴザイマス・・・って、何してるの、かーさん」
「お目覚めのキス」
そう言って、オレに覆いかぶさったままニッコリ笑ったのが、自分の母親だってのは
認めたくはないが事実なわけで。
*** 508 名前:507 本日のレス 投稿日:2006/09/27(水) 11:40:25.23 j3whsLQG0
数度、瞬きを繰り返して現実を確認する。確認したところで母親が布団の上に上半身を
乗せている事態は変わらない。
「オレを窒息させる気?」
溜息とともにそう言うと、母さんの頬がぷくっと膨れた。
・・・かわいいじゃねーかよ、この人、今年で幾つになるんだっけか。
「だって」
「だって?」
よいせ、と起き上がったオレを、心なしか残念そうに見ながら母さんはこう言った。
「あんまり可愛らしいものだから、つい」
そう言って小首をかしげて微笑む様は、確かに、親父が以前酔った勢いで口を滑らせた通り
『性別を無視して一目惚れした』代物ではあるものの。
*** 509 名前:507 本日のレス 投稿日:2006/09/27(水) 11:46:31.11 j3whsLQG0
「つい、で、息子にキスするんかい」
「いけない?」
あたりまえだろ、とオレが言おうとした時、ドタドタと騒々しい足音が部屋に入ってきた。
「遅いと思って心配して来てみれば!」
「あら、あなた」
「・・・・親父・・・・」
この家の中で、いったい何が心配なのか、聞くだけ愚問だというもんだ。
毎朝こうなんだ、この夫婦。
つまり親父は、それが自分の息子であっても男が母さんの傍にいるのが気にくわないんだな。
「大丈夫か? なにかされなかったか?」
なにをするんだ。つーか、されたのはオレの方だ。
「大丈夫、心配性ね、コウ君は」
まったくだよ、心配の方向が違うよ。
大体、結婚して何十年も経つのに、いまだに名前呼びかよ。
「アカリが可愛いから、いけないんだよ」
「あら、私のせい?」
「それ以上は自分たちの部屋でやりやがれ! この万年発情夫婦!!」
両親が自分たちの世界を作っている間に、とっとと制服に着替えたオレは、言い捨てて部屋を出た。
*** 510 名前:507 本日のレス 投稿日:2006/09/27(水) 11:56:15.94 j3whsLQG0
オレの家族は、両親、姉1、姉2、そしてオレの五人家族だ。
ちょっと間を置いて生まれた三人姉弟の末っ子なんて、家庭の中じゃ
おもちゃみたいな物なんだろうけど。
『いや、どっちかってーと、ペットかな』
ガシガシと顔を洗いながら考える。
仲が良いのはいいことだし、あんな両親でもキライじゃないけど、
毎朝毎朝繰り返されるアレは、いいかげん何とかしてほしい。
「あ、おはよう、カズ」
「おはよ、マナ姉」
キッチンにいた姉2にあいさつして、オレは冷蔵庫から麦茶を取り出した。
「カズ、お母さん、あんた起こしに言ったんじゃないの?」
「来たけど」
「けど?」
「親父が乱入してきて」
「ああ」
その一言で分かるってのもどーよ。
*** 513 名前:507 本日のレス 投稿日:2006/09/27(水) 12:04:08.52 j3whsLQG0
マナ姉は隣に来て冷蔵庫をあけると、サラダを取り出してオレの手にのせながら言った。
「お父さん、浮かれてるからねぇ」
「浮かれてる? いつもあんなもんだろ」
そう言ったオレに、マナ姉は大げさに肩を竦めると、チッチッチと眼前で人差し指を振った。
「分かってないわねー」
「なにがだよ」
渡されたサラダを持ってテーブルに着くと、まだ湯気の出ている目玉焼きがセッティングされていた。
「いただきます」
少しの間、無言が続く。食事中は無駄話はしないとかいうルールがあるわけじゃないんだが、
メシを集中して食ってると無口にならないか? なるよな。
つーかさ、・・・本気で来ないんだが、あの両親。
*** 514 名前:507 本日のレス 投稿日:2006/09/27(水) 12:15:47.99 j3whsLQG0
「で、なにが分かってないって?」
食事の仕上げに麦茶を啜ったオレに、マナ姉は短く言った。
「あんた、もうすぐ誕生日でしょ」
「ぐぶっっ」
「汚いなー」
麦茶を噴出したオレに、マナ姉がタオルを投げつける。
顔洗ったばかりなのに、と見当違いなこと考えているオレは、やっぱり動揺しているんだろうか。
「お父さん言ってたわよー、どうやら野望は達成できそうだって」
「・・・あんのクソ親父ーっっっ!!」
あの父親はどういう訳か昔から “三姉妹”という響きに憧れていたらしい。
理由は知らない。
幼馴染だった母さんと結婚して子供ができて。
それが女の子が続いたもんだから本人は有頂天だったらしい。
*** 515 名前:507 本日のレス 投稿日:2006/09/27(水) 12:25:18.10 j3whsLQG0
ああ、『らしい』って伝聞推量形なのは、姉1から聞いた内容だからなんだけど。
当然だよな、オレ、生まれてないし。
とにかく、よし目標達成だ! って時に生まれたのがオレだった。
姉1であるリカ姉曰く『笑えるほど落ち込んでいた』らしい。オレに言われても困るけど。
その態度を姉1に笑われ、姉2に蔑まされ、母さんに窘められ、
さすがに心を入れ替えたのかと思いきや、次の日にはもう『女体化ってこともあるよな』
と言っていたんだと。
男が童貞だからって、別に全員女体化するわけじゃない。なんだか色々と難しい要因が絡んで
性別が変わっちまうんだ。けれど、どうやら女体化しやすい傾向の家系があるってのは
分かってきている。
*** 516 名前:507 本日のレス 投稿日:2006/09/27(水) 12:35:00.03 j3whsLQG0
確かにオレの母さんは以前は男だった。
両親から幼馴染だってことは聞いてたんだけど、
それにしちゃあ、母さんの写真がないことが小さい頃は不思議だったんだよな。
だってさ、分かんないぜ、ふつーさ。
黒いランドセル背負ってる小さい頃の親父の隣で、やっぱり
黒いランドセル背負ってる半ズボンの子が母親だなんて。
でも小学校に上がって暫くしてから説明されたし、大体、今は女体化についての講習会みたいのを
学校でやるんだぜ。親父たちの時代はそんなのなかったから大変だって言ってたもんなぁ。
「誕生日に必ず変化するわけじゃないだろ」
なぜか言い訳じみて聞こえるオレの言葉に、マナ姉は肩を竦めて言った。
「そりゃそうだけどね」
変化の期間には幅がある。だいたい15歳を境にして三年くらいだそうだ。
いつ変化するかは、こればっかりは個人差なんで分かり様がない。
*** 518 名前:507 本日のレス 投稿日:2006/09/27(水) 12:46:35.53 j3whsLQG0
「カズ、あんた、ただでさえお母さんにそっくりなんだから、このままいくと
九割九分の確立で女体化するわよ」
「あー・・・うん・・・」
なんだその高打率。
確かに母さんの昔の写真は、感心するほどオレとよく似ていて、
見る度に複雑な気分になるのは確かだった。
昔と造作が変わってるわけじゃないのに、なんだってそんなにちゃんとした女顔なんだ、母さん。
・・・それって、オレも女顔ってことかよ・・・
*** 520 名前:507 本日のレス 投稿日:2006/09/27(水) 12:52:24.35 j3whsLQG0
「まあ、うちの家族の場合、女体化で慌てふためいたりはしないけど」
慌てないどころか、喜んでるだろ、約一名。
正直なところ、男の性別にこだわっているわけじゃない。女体化して幸せになっている
具体例を身近で見てるから、悲観することもない。
あんなバカップルの両親でも、少しは役にたつこともあるもんだ、うん。
「でも・・・」
「なに? カズ?」
食べ終わった後の食器を片付けていたマナ姉が、オレの呟きを聞きとめた。
「・・・このまま親父の思い通りになるのも癪だ・・・っ」
拳を握り締めるオレを見て、マナ姉は何か言いかけたが、結局なにも言わず
呆れたように三たび肩を竦めただけだった。
・・・ひとまず終わります。
読んで下さってありがとうございましたw
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