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浩二と薫 カレーうま」(2006/10/22 (日) 10:33:09) の最新版変更点

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*** 150 名前:147 投稿日:2006/09/20(水) 02:18:25.56 Ud5UBZeR0 浩二と薫は同級生だった。別に昔からの知り合いというわけではなく、知り合ったのは中学の頃。 初めて会ったときは既にケンカしていた。 薫が持ち運んでいた給食のカレーを、こけた拍子にたまたまその場にいた浩二に頭からぶっかけてしまったためだ。 その場で取っ組み合いになり、廊下中カレーまみれになって周りが大混乱になっている中、 先生が止めに入ってようやくその場は落ち着いたものの、それ以後顔をあわせるたびにケンカになっていた。 中学の間中はずっとケンカばかりしていた気がする。薫は後になってそう振り返る。 いつまでもケンカをやっていた原因は、薫と浩二は何をやっても引き分けになっていたためであろう。 運動でも成績でも、いつも結果は引き分けだった。 高校に入り少し落ち着きを持つようになった頃、そのことに気づき、二人はふっと笑いあった。 「そういえば何やっても、お前とはひきわけだったな」 浩二が少し遠くを見るように言う。 「しかもまた同じ高校、同じクラスだしな。これがいわゆる腐れ縁ってやつか?」 「そうだな。カレーの臭いのする腐れ縁だ」 「まだ根に持ってたのかよ」 *** 151 名前:147 投稿日:2006/09/20(水) 02:19:48.27 Ud5UBZeR0 これ以後、二人は大の親友となる。 浩二はまじめな性格で、生徒会役員に選ばれるなど、いわゆるいかにもな優等生タイプ。 一方薫は、若干勝気な上にいたずら好きな性格であったが、持ち前の明るさと面倒見の良さで、周りからは慕われていた。 水と油のような二人だったが、今では中学の頃が嘘のように気があった。 高校二年になったある日、薫が珍しく学校を休んだ。小学生からずっと皆勤だったことを普段から自慢していた薫だ。 休むなんてあまりにもおかしい。 課題のプリントが出されたので、渡すついでに様子を見てみようと思い、薫の家へ足を運んだ。 ピンポーン チャイムを鳴らしてもだれも出ない。留守だろうかと思い、帰ろうとした矢先、ドアが静かに開いた。 *** 152 名前:147 投稿日:2006/09/20(水) 02:20:56.76 Ud5UBZeR0 出てきたのはシャツにジーパン姿の薫似の女の子だった。 パッチリとした目に薄い唇、少し巻き毛がかかった薄茶色のロングの髪は、遺伝だろうか。日に当たるといっそう輝きを増す。 薫は自分が女顔であることをひどく気にしていたが、もし女性だとしたらさぞかし綺麗だろう。もったいないと密かに思ったものだが、 目の前にいる少女はその希望を見事に体現してくれている。少し見とれてしまったことが恥ずかしくなり、あわてて少女に声をかけた。 「あ、薫君の妹さん?今日出された課題のプリントもってきたんだけど、渡してもらえないかな?」 若干声が裏返っていたかもしれない。浩二はまた恥ずかしくなった 鞄の中からプリントを取り出そうとしたとき、目の前の少女が口を開いた。 「俺だよ、浩二」 「・・・・は?」 *** 153 名前:147 投稿日:2006/09/20(水) 02:22:26.14 Ud5UBZeR0 二人は薫の部屋で向かい合って座った。 「なんか、朝起きたら女になってた」 そっけなく薫は事情を説明した。 「・・・あれか」 浩二は思い当たる節がある。それは、最近世界中で急激に増加しつつある奇病である。 15~16の性交未経験の男性が突然女性になる症状-通称TS症候群。 環境ホルモンの影響か、生殖能力が衰えて子孫を残せなくなるという本能から、 遺伝子レベルにわたって細胞を組み替えてしまう奇妙な病気だというのは、中学の頃社会の授業で習った。 まさか薫がその病気にかかってしまうなんて・・・・浩二は驚きを隠せない。 驚いて口がしまらなくなっている浩二をみて、薫はニヤニヤしている。 「なんでお前がそんなに驚いてるんだよ。まあ、なっちまったもんはしょーがねー。 ここはいっちょ男らしく、さっぱりと女として生きていくっきゃねーよな!」 女なのに男らしくも何もないだろう、心の中でツッコミつつ、いたって元気に振舞う薫をみて、浩二は落ち着きを取り戻す。 *** 154 名前:147 投稿日:2006/09/20(水) 02:24:36.85 Ud5UBZeR0 そのとき、薫の目から一粒の大きな涙が流れ出した。 浩二はぎょっとして薫を見つめる。 「あれ・・・なんでだろ?何か涙がとまんねえや・・・はは・・・」 そういうと薫は体育座りのまま嗚咽を漏らした。 これからの生活のほとんどが一転してしまうのだ。いかに勝気な薫と言えど、やはりショックは大きすぎた。 友でもあり、ライバルでもあった浩二に泣き顔を見られまいと、必死に体を縮める。 普段の薫は、その小さい体のどこにエネルギーをしまってあるのだろうかと思わせるほど前向きで、大きく見えた。 手の中に納まってしまうんじゃないかとさえ思えるほど小さく見える薫を見て、浩二はいたたまれない気持ちになる。 友として、どうにか彼・・・いやもう彼女だ。支えになってやりたいと心から思った。 *** 155 名前:147 投稿日:2006/09/20(水) 02:28:30.77 Ud5UBZeR0 「俺・・・これからどうなっちゃうんだろう・・・?」 このとき、初めて薫は浩二の前で弱音を吐いた。いや、もしかしたら人前で初めてなのかもしれない。 「確かに謎の多い奇病だし、これから大変になるだろう。だが、世間的にも症例が多い分認知されているものだ。 初めは戸惑うかもしれないが、社会的にも保障はされている。これからのことはお前の気の持ちようなんじゃないか?」 下手な慰めよりも、今自分の持っている意見を実直に述べる。彼女に対して今自分が出来るのはこれくらいだ。 「気の持ちようか・・・そうだよな」 香るがようやくその顔を上げた。目が少し赤みを帯びている。 「よし、くよくよするのは終わりだ!浩二!下着買いに行くから付き合え!」 立ち直りの早いところが薫のいいところだが、突然の発言に浩二は顔が真っ赤になった。 女性になった薫が買いに行く下着というのは当然女性物だ。自分が行っても何も出来ないし、むしろ恥ずかしい。 「なに恥ずかしがってんだよ。ほら行くぞ」 「あ、ああ」 促されるまま浩二は重い足取りで薫を追った。 振り向きざま「ありがとな」と小さく囁く薫の声を、浩二は聞き逃さなかった。 *** 175 名前:147 投稿日:2006/09/20(水) 03:18:56.58 Ud5UBZeR0 もう少し書いた分投下しまつ 近所の商店街の婦人服店の下着コーナーで、薫は唸っていた。 「うーん、どれがいいかなあ、なあ、浩二、こういうフリフリなのってどうよ?」 ニヤニヤしながら浩二に話題を振る。 「し、しらん!俺に振るな!安けりゃなんでもいいだろ!」 ただでさえ慣れない店、そして女性ものの下着コーナーである。浩二は耳まで真っ赤になっていた。 二人のやりとりで店員さんが笑いをこらえているのが見える。 せめて顔が知れないように、もう少し遠くのデパート辺りにして欲しかったのだが、既に日が沈みかけていたので近所の方がいいと、薫が無理やり引っ張ってきたのだ。 「おもしろくねーなー。安けりゃいいってもんじゃないんだぜ?女の下着ってもんは」 ニヤニヤしながら、薫は手に取ったショーツをばっと広げてホレホレといわんばかりに浩二に見せ付ける。 からかっているのは明らかだ。そうだった。薫は生まれもってのいたずら好きだった。 今更一緒についてきたことを悔やむ浩二を尻目に、薫は尚も下着を物色している。 一度女になってしまったからにゃ、思いっきり美人になってやる。薫は店まで来る道中でこんなことを言っていたが、 ここまでの切り替えっぷりには、度肝を抜かれる。 「よし、これにしよう」 「ちょっとまて」 薫が指差した先にあったのは、赤色のスケスケのショーツとブラだった 「なんだよー、なかなかかわいいじゃんこれ」 浩二はあきれて声も出ない。学校に着ていくもんじゃないだろう。 「せめてこういうのにしろっ!」 と、熊さん柄の下着を手に取った。・・・・手に取った。とたん浩二はまた真っ赤になる。 「ほうほう、浩二君は熊さん柄がお好き、と」 メモを取り出してぺろっと鉛筆をなめるしぐさをはじめた。 *** 176 名前:147 投稿日:2006/09/20(水) 03:21:38.55 Ud5UBZeR0 「も、もう知らん!俺は帰る!」 さすがに薫のおふざけが過ぎたのか、怒り浸透という感じで入り口の方へツカツカと歩いていった。 「おっ、おい待てって。ゴメンナサイ、申し訳ありません浩二様っ」 ねだるように謝られて、拍子抜けしてしまった浩二は、複雑な表情でその場で立ち尽くした。 「まあ、これくらいが着始めはちょうどいいか。おーい店員さーん」 大声で店員を呼ぶ薫。浩二は、もう今すぐにでもここから走り去って行きたい気持ちだった。 「これください!」 先ほど浩二が手に取った熊さん柄のパンティと、その横でマネキンが着けていたごく普通の白のブラをビッと指差した 「か、かしこまりました」 店員さんすら引いている。元気がよすぎだ。 「ブラのサイズのほうはどうなさいます?」 「あー、よく分からないんで計ってもらえません?」 そんな会話が続くと、薫は店員と奥の方へ歩いていった。 これでしばらく静かになる、と安心した矢先 「おーい浩二、俺Cだってさー」 「いちいち大声でいうな!」 店員さんと周りの客のクスクスという笑い声で、浩二は少し涙ぐんでいた とりあえず今日はここまでで・・・ノシ *** 737 名前:147 投稿日:2006/09/21(木) 23:18:18.59 n6HndSjl0 ではいこうと思うんだ 買い物を済ませ、薫は少ししんどそうに荷物を抱えている。 男のときの体力のつもりでいたが、どうやら少し買いすぎた。 下着だけでなく、制服やその他女性用品も買うことになったためだ。 むしろ下着よりこっちのほうが優先すべきじゃないのかと思いながら、息を荒げる薫を見ていた。 「持ってやろうか?」 「いや、いい」 今までずっと体力勝負でも引き分けだった浩二に助けられるのが癪なのか、きっぱりと断る。 浩二は無言で薫から荷物を取り上げた。 「浩二?」 「黙って持たせろ。男が見てるだけじゃこっちが情けないじゃないか」 薫は目をぱちくりさせた後、ふっと笑った。 浩二なりに気を使ってくれたのが嬉しかった。 だが、それと同時に、自分はやはり女になってしまったということを再度自覚することになる。 「あー、やっぱ俺女になっちまったんだなー」 「そうだな・・・」 *** 738 名前:147 投稿日:2006/09/21(木) 23:18:51.01 n6HndSjl0 無言のまま、薫の家まで歩くなか、二人はふと空を見上げた。満月の光が、暗い夜道を照らしている。薫はあることを思い出した。 「あ、そういや俺、今日誕生日だったっけなあ。浩二、明日でいいから飯おごれ」 今日一日のごたごたですっかり忘れていた。 「なんでお前におごらないといけないんだよ」 「いいじゃんか、けちだなー」 「うるさいな。さあ、着いたぞ。明日はちゃんと学校に来いよ」 持っていた荷物を薫に渡すと浩二は振り返りもしないまま帰っていった。 「家の前で浩二が見えなくなるまで見送った後、ふと荷物の上に小さな包装紙が置いてあるのに気づいた。 自分が物色に夢中になっている間に急いで買ったのだろう、セロテープで閉じているだけのそっけないラッピングだった。 浩二は覚えていたのだ。 「あいつ・・・」 ふっと笑って中を開けてみる。 「あいつ・・・」 今度は引きつった顔で笑っていた。 中身はカレーライスの形をしたキーホルダーだった。 *** 739 名前:147 投稿日:2006/09/21(木) 23:19:24.79 n6HndSjl0 翌朝、教室の前が騒がしかった。大体予想はつく。薫が女の子になってみんな驚いてるんだろう。 昨日少しだけ見せた薫の泣き顔が浩二の脳裏に浮かんだ。 好奇の目に晒されるであろう今、守ってやれるのは自分しかいない。そう自分に言い聞かせ、勢いよく教室のドアを開ける。 と同時に、ドリフよろしく盛大にすっこけた。見事なこけっぷりに周りから拍手が起こる。そんなものいらない。 薫は昨日買った熊さん柄のパンツを穿いたまま、女子の前でおもむろに見せていたのだ。 回りの女子はキャッキャと騒ぎ、男子はよだれを垂らしてその光景を至福とばかりに眺めている。 「お、浩二。お前が選んでくれた熊さんパンツ、バッチリ穿いてきたぜー」 お尻フリフリしながら薫はニヤニヤしている。 「浩二くんってば、顔に似合わず可愛いのがすきなのねー」 周りの女子も、昨日の一部始終を聞いたのか、ニヤニヤしている。 (ヤツはいつも俺の考えの斜め上をいく・・・・) 浩二はorzの体勢で突っ伏したまま動けなかった。 *** 740 名前:147 投稿日:2006/09/21(木) 23:21:12.42 n6HndSjl0 「お前はもう少し淑やかにしろ!」 昼食を食べながら、箸をびしっと薫に向ける。 休み時間でも”いろいろ”やらかしていたため、なぜか浩二のほうが疲れきっていた。 薫は、はっはっはと笑いながら豪快に飯を頬張っている。 とんだじゃじゃ馬だ。これからのことを思うと浩二は胃が痛くなる。 ・・そういえば、なぜ自分がこんなに気疲れするのだろう?薫は何の変わりもなく、普段と同じように周りと接している。 こういう性格の薫だから、周りも特に気にする事なく接している。 みんなにとっては薫は薫なのだ。意識しているのは自分だけじゃないのか。 今の薫を薫としてではなく”女”として見ているのは・・・。 女・・・。 もしかして、自分は今、薫を一人の女性として見ている・・・?ライバルでもあり親友でもあった薫を。 パッチリとした目、薄い唇。少し茶色い巻き毛の髪。 女性化した薫を初めて見たとき、自分の中に熱い思いが募ったのは確だ。しかし・・・。 「どうした?ぼーっとして」 気が付くと、薫の顔が目の前に来ていた。 「うわっ!」 驚いた浩二は思わず弁当をこぼスト同時に、拍子でお茶をズボンに引っ掻けてしまった。 「あーあ、何してんだよまったく」 薫はハンカチを取り出して浩二のズボンを拭いた。 手を洗ってもズボンで手を拭き、ハンカチなど持ったこともなかった薫が、今自分のズボンを手持ちのハンカチで拭いているのだ。 浩二は驚きを隠せなかった。確実に女性らしくなってきている。 薫に触れられながら、熱い思いと寂しい思いが交錯し、浩二は複雑な面持ちで薫を見ていた。 *** 741 名前:147 投稿日:2006/09/21(木) 23:22:59.33 n6HndSjl0 放課後、鞄に教科書を入れ帰ろうとしていたとき、薫が話しかけてきた。 「なあ、帰りがけにちょっと付き合ってくれないか?」 どうやら、戸籍の書き換え登録をするらしい。 昨日自分と合う前に、病院でTS症候群の診断書をもらっていたらしいので、早速市役所に行こうというのだ。 TS症候群の症例の増加傾向に伴い、診断書と登録書だけで手続きは完了と、容易なものになっている。 役所の入り口で、男女の二人連れとすれ違った。婚姻届けを提出してきたのであろうというのが容易にうかがえた。 「結婚か・・・」 ふと薫がつぶやく。薫は今女性ではあるが、一昨日まで男だったのだ。 今から戸籍上でも女性になる薫は、結婚相手は当然男ということになる。複雑な気持になるのは痛いほどわかった。 「したいのか?結婚」 「そりゃあなあ。かーわいい奥さんもらって、子供たくさん作ってさ、 休みの日はそいつらが『あそぼー』とか言っても、『もう少し寝かせてくれー』とか言ってるダメ親父になるのが夢だったんだよ」 ダメも何も、薫は二度と「親父」にはなれないのだ。あどけなく言う薫を見て、浩二は胸が苦しくなった。 無事登録も終わり、帰ろうとしたとき浩二が口を開いた。 「まあ、今日はあれだ。正式に女性になった記念に・・・飯おごってやるよ」 照れているのか、そっぽ向きながら頬を掻いている浩二を見て、薫はにぱっと満面の笑みを浮かべた。 「いいとこあるじゃん!こ・う・じ・く・ん♪」 そして、浩二は後で激しく後悔することになる。 *** 742 名前:147 投稿日:2006/09/21(木) 23:23:39.42 n6HndSjl0 「いやー食った食った」 帰り道の薫は足取りはやたら軽やかだった。 「ほんとに・・・」 空の財布をパタパタしながら沈んだ顔でそっけなく返す。まさかこんなに食うとは思わなかった。 あの体のどこに入るのか。 そうこうしているうちに、薫の家が近づいてくる。 「今日はありがとな。こんど飯作ってやるよ。俺結構料理得意なんだぜ?」 そんな特技があるとは知らなかった。昨日今日と、今まで自分の知らなかった薫ばかりが見える。 もっといろんな薫を見てみたい。笑った薫、泣いた薫。怒った薫。そして・・・ そんな欲求が自分の中に芽生えていたのに気づき、少し顔が赤くなった。 「何考えてんだよ。なんか変なことでも考えてるんじゃないか?」 「い、いや、別に」 図星を付かれ、それ以上何もいえなかった。 家の前でじゃあなと声を掛けようとしたとき、薫は浩二の耳元でそっと囁いた。 「お前、ズボン拭いたとき勃ってたろ」 軽やかに身を翻して家に駆け込んでいった薫を見ながら、浩二はその場で立ち尽くしてしまった。 今のところここまでだと思うんだ *** 798 名前:147 投稿日:2006/09/22(金) 01:01:28.94 aegxYb9i0 他の人のにwktkしすぎてなかなかすすまないんだぜ?wwwww とりあえず続き投下 薫はちゃぶ台にあごをついて、ぼーっとテレビを眺めていた。 昨日今日とバタバタしてて、さすがに疲れたようだ、何もする気が起きない。 思いのほかテレビ番組に疎い薫は、8時のN○Kニュースに切り替えた。 真っ先に映ったのは、「TS症候群の女性、めでたく結婚」の文字だ。 ふと、市役所の入り口ですれ違った男女のことを思い出す。 (幸せそうだったな・・・) いつか自分が結婚するとき、あんなに幸せそうな顔が出来るだろうか。 いや、そもそも自分は男を愛することなどできるのだろうか・・・・。 一人になると、いろいろな不安が頭の中をめぐり、言い知れぬ恐怖に襲われる。 『あいつ』といる時は全然平気なのに。 あいつ。そう、あいつだ。 ずっとケンカばかりしていたのに、物心ついて初めて人前で泣いてしまったとき、真正面から向かい合い、欲しかった言葉をくれたあいつ。 ごたごたする中、自分ですら忘れていた誕生日をしっかり覚えていてくれたあいつ。 バカなことやってる自分を、しっかりたしなめてくれるあいつ。 そして、あいつのズボンを拭いたとき、あいつの高まりに気づくと同時に、自分の中に芽生えた熱い思いに気づいてしまった。 さっきあんなこと言うんじゃなかった、と後悔しても遅い。 はっと我に返る。 「何考えてんだ、俺・・・」 無意識のうちにカレーのキーホルダーを握り締めた。 ともかく、今は女性としての生活に慣れよう。そう思い、風呂に入り早めに床に就いた。 背広を着て、大人っぽくなった浩二がにっこり微笑む夢を見ながら、薫は幸せそうに寝息を立てた。 *** 801 名前:147 投稿日:2006/09/22(金) 01:04:33.43 aegxYb9i0 丁度同じ時間、浩二も同じニュースを見ていた。 『TS症候群の女性、めでたく結婚』 浩二はなんだかいやな気分になる。TS症候群といっても、体の器官もさることながら、性染色体までXXである。 子供も産めるし、本物の女性と全く同じなのだ。いちいちニュースの話題に出して好奇の目に晒すことはないだろう。 12,3年前からTS症候群が発症し始め、それから増加傾向にある。 初期の人たちが丁度婚期を迎えるような年齢になりつつある今、しょうがないことではあるのだが。 だが。身近な人間がその中に含まれてしまった今、このような場で晒し者にさせたくない。守ってやりたい。 別れ際にあいつが囁いた時の、甘い吐息が頬をかすめた感触を思い出し、頬に手をやる。 あの時一瞬だけ見せた『あいつ』の顔を思い出そうとするたびに顔が真っ赤になる。 あの顔はまさしく「女」そのものであった。 明日どんな顔であいつをみればいいのか・・・。 いや、いたずら好きなあいつのことだ。明日には忘れてるだろう。いつものことだ。 浩二は、自分にそう言い聞かせた。そう言い聞かせなければ気持ちがあふれてしまうことには浩二はまだ気づいていない。 昨日今日の気疲れがどっと溢れ出てきたような気だるさを覚え、机に向かうこともなく床に就いた。 大人っぽくなった薫がどこか知らない家の玄関の前で、にっこりと微笑んでいる夢を見た。 二人が見た幸せな夢は、友情の歯車がきしみ始める前兆でもあった。 とりあえず今日はここまででノシ >>743 wktkしてくれてアリガトン *** 152 名前:カレーうま ◆SadRzQKyFM 本日のレス 投稿日:2006/09/23(土) 00:06:43.70 TFsFTNxJ0 新スレ乙ですお( ^ω^) 前スレ>>147改めコテ変えますた 続き投下 翌朝教室のドアを開けたとき、薫は男と手を握っていた。別に言い寄られているわけではない。 腕相撲のジャッジをしていただけだ。 「レディース、GO!」 「いや、『ス』はいらんだろ」 すかさずツッコミを入れる浩二に気づいて、薫は大げさに手を振った。 「おーっす。浩二、お前も参加しないか?」 手首をくいっくいっとしならせる。 「いや、いい」 浩二はそっけなく返した。普段は過ぎるほど真面目な性格の浩二も、薫が仕掛ける勝負事ならノリが良い。 中学の頃の因縁のせいだろう。 しかし、女性化した薫と、腕力で勝負しようという気にはなれない。 それに、遊びごととはいえ、男と手を握っている薫姿に何か釈然としないものを感じた。 机に突っ伏して、昨日のことと、夢のことを思い出してしまう。なんだか力が入らない。 (何を意識しているんだ俺は・・・。) *** 153 名前:カレーうま ◆SadRzQKyFM 本日のレス 投稿日:2006/09/23(土) 00:07:22.15 TFsFTNxJ0 「おーい。こうじくーん」 顔を上げると薫が目の前にいる。目の位置が丁度薫のへそ辺りに来て、思わず目を背けてしまった。 「どうしたよ。元気無いな。風邪でも引いたか?」 おもむろに浩二のおでこに手をやる。 「・・・・」 薫に触れられ身動きができなくなった。顔が真っ赤なのが自分でも分かる。 「うーん、やっぱり熱あるな。保健室にでも行ってこいよ。俺が先生に連絡しといてやる」 「どうせ『浩二君は、幸せを捜し求めて空の彼方まで飛び立っていきました』とか言うつもりだろ。授業は受ける」 「ばれたか」 この前は風邪で欠席して連絡を頼んだ時、『浩二君は出稼ぎに炭鉱掘りに行きました』と先生に連絡した薫だ。 気分が優れないのは確かだが、こんなことで授業をさぼりたくなかった。 *** 154 名前:カレーうま ◆SadRzQKyFM 本日のレス 投稿日:2006/09/23(土) 00:08:22.48 TFsFTNxJ0 昼になると気分が落ち着いてきたのか、食が進む。 「もうこぼすなよ」 薫がニヤニヤしている。 「うるせーな、さっさと食え」 憮然とした表情で、黙々と食べ続けた。 昨日のことを思い出すのを必死に抑えようとするものの、なかなかうまくはいかない。 ここでこぼしたら、薫はまた拭いてくれるのだろうか。 チラリと薫の方に目をやる。 「お前・・・前から思ってたけど、ずいぶん乙女チック弁当だよな」 薫が持ってくる弁当は、普段の振る舞いからは信じられないくらいほどかわいらしいもので、きれいに装飾が施されている。 「あー、隣の子がウチと同じで父子家庭だろ?俺料理得意だからその子の分も作ってるんだ。そのついでだよ。 女になった今なら丁度似合ってるだろ?」 *** 155 名前:カレーうま ◆SadRzQKyFM 本日のレス 投稿日:2006/09/23(土) 00:09:12.42 TFsFTNxJ0 薫は一人っ子で、母は薫が幼い頃に亡くなったらしい。父親は仕事で出張が多く、ほとんど家にいる事が無いのだという。 そのため薫は今まで自分のことはすべて自分一人でこなしてきていた。 薫から自分の家庭の事情の話など、口に出すことはこれまで全く無かった。 昨日の帰り道、薫は初めて自分の生い立ちを話してくれたのだが、そのことが苦だとは全く思っていないそぶりである。 薫の強さの秘密が少し分かった気がした。 「ん?どうした?欲しいのか?」 欲しいという言葉で一瞬体が反応してしまったが、弁当のことか気づき、そのまま流した。 「俺は自分のがあるからいい」 「あらま浩二君。もったいないこと。この薫様が直々に食べさせてやるっていってるのに」 ウィンナーをいかにもおいしそうに口へと運ぶ。 浩二は自分の分を平らげてしまってその様子を見ていたが、その妖艶さあふれる食べ方に身を硬くした。 思わずゴクリと唾を飲み込む。 「なんだ、やっぱり欲しいんじゃないか。体は正直だな。ほれ、あーんと言え」 *** 156 名前:カレーうま ◆SadRzQKyFM 本日のレス 投稿日:2006/09/23(土) 00:10:10.99 TFsFTNxJ0 いかにも誤解を招きそうな言葉ばかり浴びせかけるながら箸を向ける薫にむっとして、仕返ししてやろうと画策する。 あいつが好きなのは、確か甘いものだったはずだ。 「そうだな。あーんは言わんが、これは貰おう」 浩二は箸を避けて、薫の弁当からイチゴをつまんでひょいと口に入れた。口の中いっぱいに甘さが広がる。 途端薫は、教室中に響き渡るほどの悲鳴をあげた。 「それ最後まで取ってたやつなのに!てめ!」 「お前がくれるって言ったじゃないか」 薫が浩二の肩をゆさゆさ揺らし、抗議の声を上げるが、取り付く島もないというそぶりで、そっぽ向いている。たまにはいい薬になるだろう。 周りからクスクスと笑い声があがる。 「なんだか二人、カップルみたいねえ」 女子の一人が、こちらにまで聞こえるくらいの声でそんなことを言ってきた。 いつもの薫のことだから、冗談めいたことを口走ってその場を流すかと思っていたが、少し様子が違う。 すこし俯いたかと思いきや、はっはっは、と少し大人しめに笑っただけで、それ以上何も言わなかった。 「・・・覚えてろよ」 ギロリと睨む薫の目に、浩二は引きつった笑いしかできなかった。 *** 207 名前:カレーうま ◆SadRzQKyFM 本日のレス 投稿日:2006/09/23(土) 03:01:43.00 TFsFTNxJ0 >>191 ホットミルク吹いちまったじゃねーかwwwwww 続き投下 「あー、今日も一日がんばったなっと」 背伸びをしながら校門をくぐる。隣の優等生はぐったりしていた。 あの後散々薫のいたずらに振り回された挙句、なぜか自分まで職員室に呼ばれて一緒に説教食らったりと、ろくなことはなかった。 (イチゴ一個でこれかよ・・・) 浩二は眩暈がする。 「大分お疲れのようですねえ、浩二君」 薫がニヤニヤしている。 「おかげさまでな・・・」 いつもの癖で一緒に下校しているが、今日はさっさと帰りたい気持ちだった。 「んー、よし、それじゃあ、俺が疲れを吹き飛ばすくらいうまい飯でも作ってやる。昨日は奢ってもらったしな。光栄に思えよ」 やりすぎたと思ったのか、浩二の方に目をやらずに少し胸を張って言った。 薫なりの照れ隠しであることを知っている浩二は思わず噴出してしまう。気持が和らいだ気がした。 「ああ、頼むわ。○皇もびっくりの料理期待してるぜ」 *** 208 名前:カレーうま ◆SadRzQKyFM 本日のレス 投稿日:2006/09/23(土) 03:02:25.94 TFsFTNxJ0 薫が腕を振るってもてなしてくれた料理は本当に美味しかった。 さほど大食いな方ではない浩二だが、次から次へと出てくる料理に箸が伸びる。 「う、うまい・・・・」 思わず本音が出てしまう。 「そうかそうか、まだまだおかわりあるからたんと食え」 薫も浩二の食いっぷりを見て満足そうだ。空いた皿を持って、薫は台所へと歩いていった。 おかわりを待っている間、浩二は部屋の周りをぐるっと見渡していた。 リビングの中はいたって綺麗に整っている。掃除が行き届いているようだ。 今まであまり気にはしなかったが、普段からこの部屋も、薫の部屋もスッキリとした清潔感があったと思う。 ほとんど一人暮らしのような生活の薫だが、こういうところもしっかりしているのか、と感心する。 ああ見えて、結構家庭的なのだ。 「これならどこの嫁に行っても恥ずかしくはないな・・・」 ポツリとつぶやいた後、首元にふわっとした感覚が生まれた。 *** 209 名前:カレーうま ◆SadRzQKyFM 本日のレス 投稿日:2006/09/23(土) 03:04:30.02 TFsFTNxJ0 「誰が嫁だって?」 ぎょっとして振り返る。あごを自分の肩に置き、いたずらな目でこちらを見据えた薫の顔があった。 「ずいぶん気が早いこと言ってくれるじゃねーか。こっちは女歴3日だぜ?」 薫から漂うほのかな香りが鼻をくすぐる。浩二はあわてて薫を払った。 「なんでもないっ!お前はいちいちくっつくなっ!」 このままここにいたら、自分を見失いそうになる。飯を食ったら早めに帰ろう、そう自分に言い聞かせた。 「・・・俺に触られるの、そんなに嫌か?」 その声は、いつもの屈託の無い、明るい声ではなかった。 「あ、いや、そういうわけでは・・・」 浩二はそれ以上どういえばいいのか分からず口ごもる。 そういえば、薫は普段から、自分と話しているときはぺたぺたと触ってくる癖があった。 これまでの暮らしで、誰にも甘えることがなかった所為だろうか。 人懐こい性格の薫だが、薫なりに他人コミュニケーションを深めるために、無意識に身に付けてしまったものなのだろう。 今自分は、薫を既に女として意識してしまっている。守ってやりたいと思っている。 だが、今気を抜いたら、そんな薫を自分が傷つけてしまうかもしれない。そう思い、思わず薫を拒否してしまった。 重い空気が二人を包む。 「なーんてな!おい浩二、早く食わねーと飯冷めるぞ」 薫の一言で、はっと我に返る。さっきのおかわりの分がテーブルに置いてあった。 薫の顔は、いつもの明るい笑顔に戻っていた。 *** 210 名前:カレーうま ◆SadRzQKyFM 本日のレス 投稿日:2006/09/23(土) 03:09:11.84 TFsFTNxJ0 夕飯を食べた後、二人でテレビを見ていた。面白い番組も無かったのでニュースに切り替える。 今度はどこかの女優が結婚したという報道をやっている。 「結婚かあ。まあ、女と言ってもこんな俺だし、元男じゃ嫁にしたいなんていう変なやつもいねーか」 女として生きていく覚悟を決めたが、いざ結婚やら恋愛やらということになると、そううまくいくものではないだろう。 浩二といて安心しきったためか、夕べ一人になった時、自分を襲った不安を、思わず零してしまった。 そんなことは知らず、ヘラヘラと笑いながら珍しく自虐的なことを言う薫に、浩二はむっとする。 その言葉は、薫だけでなく、薫を女性として意識している自分までを下げているように感じたからだ。 「俺が変だって言うのかよ」 四つん這いのまま、薫にずいっと迫っていた。 普段とは違う浩二の雰囲気にたじたじになり、次第に壁の方へと追いやられていく。 「お、おい、どした、浩二?浩二くーん、目、目が怖いよお?」

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