*9が指定したカプ・シチュに*0が萌えるスレまとめ@ ウィキ内検索 / 「29-089」で検索した結果

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  • 9-089
    てぶくろ ちょっと早いクリスマスプレゼントを持って会いに来たよ。 ブランドとかはわからないから君に似合うかどうかだけ。 赤い毛糸のマフラーにしてみたんだ。 その金色の髪に映えるから。 何て言って俺にくれたマフラーは、どう見ても高級品だった。 手触りが変だ。こんなのデパートの配送の時にも触ったことがない。 安く見積もっても万単位。 明日から出張でいなくなるお前に俺も用意していたなんて言えなかった。 小遣いを叩いて買ったグリーンの毛糸のてぶくろ。もちろんただの毛糸だ。 今は俺の手を暖めている。 帰ってくるのは25日の夜。 買い直そう。お前に似合うと思ったあの皮手袋に。 間に合うだろうか? なんて考え込みながらつるはしを握り締めていたら現場監督に怒られた。 てぶくろ
  • 19-089
    共犯者 「ち、ちいちゃん、どうしようっ」 息を切らしながら俺の家のインターホンを鳴らした瑛はひどく焦っていた。 理由を聞くとどうやら、近所で有名なカミナリジジイの植木鉢を割ってしまったようだ。 「そうだ!俺にいいかんがえがあるぜ」 そういうと俺は割れた鉢を両手でかかえて自分ん家の庭に走り出した。 「ええっ」 「なんだよ、文句あんのかよ。お前のためだぞ」 穴を掘って、割れた植木鉢を埋める。 「しょーこいんめつってコトバ知ってるか?」 「も、もし見つかったら、ちいちゃんも怒られちゃう!やっぱり僕・・・」 「いいの、俺も きょーはんしゃ」 10年たっても変わらない。幼馴染の瑛は相変わらず鈍くさかった。 「ち、ちいちゃんどうしようっ」 勢いよく教室に飛び込んでくる。 「あ...
  • 9-089-1
    てぶくろ 眼鏡はすぐ曇るし雨混じりの雪は降るし、だから冬は嫌いだ。 校舎の入り口で眼鏡を拭いていると後ろから背中を叩かれた。 「純、今日一緒帰ろうぜ!」 振り返ると勇太が立っている。 傘が目当てだなと思いながら僕は勇太との間に傘を差して歩き出した。 天気や授業の話をしながら帰り道を歩く。 言わないようにしているけれど、一緒にいると心が温かくなる気がして、やっぱり僕は勇太が好きだなと再認識する。 雨混じりの雪はすっかり雪なった。 冷たい手をさすって暖めていると、勇太が手袋を片方押し付けてきた。 「片方貸してやる。」 「いいよ、借りたら君が寒いだろう。」 手袋を返そうとするが勇太は受け取らない。 仕方なく手袋を右手にはめると、左手を掴まれて勇太のコートのポケットへ押し込まれた。 人のコートの中で手を握られて歩くのはなかなか歩きにくいな、と考えなが...
  • 19-089-1
    共犯者 …えェ、ですから私は共犯者なんです。 藤野が?全て罪を認めると? いいですか…イイエ、毛布なんぞ要りませんよ。飴玉?子供扱いしないで下さいよ。 水?そんなら一杯頂きます… …フゥ。 いいですか、藤野が何と言ったかは知りませんが、私は藤野の共犯者なんです。 えェ、私は四宮の長男です…そして藤野は我が家に出入りしていた庭師です… 坊っちゃんと呼ぶのは止めて下さい。幼く見えましょうが私はもう十八です。 そうです。来月祝言を挙げる事になっていました。そしてゆくゆくは四宮商事を継がされる… 結構じゃあありませんよ。冗談じゃない。毎日ゝゝ息が詰まりそうでした。 藤野とは良く話をしました。口を利いている所を見つかりますと叱られましたので、こっそりと障子越しに話を。 イエなにという事もない話です。しかし私の知らない世界の話でした。 年もそう変わら...
  • 6-089-2
    子育て 「一体どういうつもりだ?」 怖い顔で問い詰められて、俺はその場に固まった。 辺りには洗濯物やらおもちゃやらが散乱していて、足の踏み場もない。 彼はいらいらしながら床に転がっているものを拾って机の上に乗せた。 「まったく……ちょっと家を留守にしたらこの様だ」 泣き声を上げる赤ん坊の怜奈をベッドから取り上げ、腕の中で優しくあやす。 自分がやった事の尻拭いをされてるみたいで、俺は顔を上げられなかった。 「拓也」 呼びかけられて、顔を上げると彼はまだ厳しい顔をしていた。 「何があったのか、説明してもらおうか」 この惨状を見たら、彼がそう問うのは至極当然だろう。 「俺はこれでも一生懸命やったさ!でも子供たちは誰も俺の言う事なんか聞いてくれやしないんだ」 俺は落ち着かずに部屋の中を歩きまわりながら弁解した。 「瑞樹と彩は2人して部屋中を散らかすわ、怜奈は泣き出...
  • 6-089-1
    子育て ――俺はお前の親じゃない。何度言ったら分かるんだ。  そう言って睨んでも、いっこうに堪えたようでもなくへらへら笑って俺に懐いてくる。 ――お前は犬か? アヒルの仔か? いい歳して俺の尻ばっか追いまわすんじゃねえ。  うっとうしいんだよ、とはねのけてもはねのけても、痛くも痒くもない様子だ。  以前、お前が女に言い寄られているのを立ち聞きしてしまったことがある。  孤立してるからってあんたが世話焼く義務ないよ、もう放っておけば? そう迫った女をお前は笑って一蹴した。ごめんね、俺があの人から離れられないんだ、惚れてるから。 ――頭おかしいんじゃねえの、俺も男だしお前も男だし、惚れるとかありえねえ。  じゃあどうしてこんなことするのを許すの、と俺の上で息を弾ませながらお前が訊く。頬を汗が伝って、ほんの一瞬、泣いているように見えた。俺は黙ってお前の口を塞ぐ。  絶対に...
  • 8-089-1
    パチンコ×パチスロ ドンドンガチャガチャガラガラガンガンジャンジャン。 音の洪水の中で、だるそうに咥えタバコでスツールに腰を預けて、 手元の操作盤を弄っているヤツがいる。 その足元には、山と詰まれた箱と そこからあふれて転がっている銀色の玉。 面白くもなさそうに 盤の中をビコンビコン跳ねる玉を眺めていた茶色い目が、 ふいにこっちを見て、これまたにやりと口元をゆがめて見せるのが。 負け犬の自分としては、非常にムカツクワケで。 「何万負けたよ? 」 咥えタバコで余裕の質問に、 自分は今月の生活費が底をついた事を白状する羽目になった。 「ったく。頭わりぃクセして生意気にスロットなんてやってからだろ? 」 ボケ。オツムのできと、スロットの勝敗なんて関係あるか。 と言いたいところだが、今の自分には、こいつは大事な金ヅルだ ...
  • 2-089-1
    手を繋ぐ 「昨日の笑点見たー?」 「あー途中からしか見てねー。面白かった?」 「ばっかでーお前ー。すげー人生において損したぞ」 「そんなにも」 あー、なんかダメだ。こいつ上の空なんだもん。 俺の話つまんねーかなぁ?結構努力してるつもりなんだけどなぁ。 相槌打ってくれてるけど心ここに非ずって感じ? あー、しかしキレーだなぁ。 睫毛長いし色白いし。思いきってコクッてよかった……けど…。 ほんとに俺のこと好きなのかな。お義理でOKくれたわけじゃねーよな? だって付き合いだしてから手すら繋いだことねーんだぜ? 「聞いてる?」 あ、ちょっと驚いた。やっぱ聞いてなかった。ショック。 いやもしかして体調悪いとか?じゃあちんたら歩いてたらよくないよな。 ………このタイミングなら手繋げる!かも?! 「……手」 「あぁ?お...
  • 5-089
    低い声で 彼の声を、今もちゃんと覚えているんだ。 そう言うと、彼は少しさみしそうに眉を寄せた。いくらかためらう様子を 見せて、その後になにかを続けようとしたので、私は手を上げてその言葉 を遮った。たった数センチ手を動かしただけで、彼は私が言いたいことを 理解し、口を閉じてくれる。彼もそういうところがあったな、と懐かしく 思って、椅子の背に体を沈める。 彼を忘れることは出来ないよ。君が嫌いなわけじゃない。ただ僕には、彼 しかいなかったし、これからもそうじゃないかと、そんな気がしてならな いんだよ。 彼の顔を正面から見ることは出来なかった。視線を逸らした先には、大き な手がある。その先を辿ると、柔らかな筋肉のついた腕。力が入っている せいか、肘が少し曲げられていた。その仕草が似ているのだ、彼に。最初 に見たときから、ずっとそう思っていた。あれ...
  • 1-089
    ド○モ×ボー○フォン 「よう、お前らがどれほど頑張ろうが、俺の人気には勝てないボダちゃんじゃねーか」 「あ、……貴方は……ドコ●のFOM●さん…何ですか。イヤミなら聞きません」 「イヤミじゃねーよ。事実さ。……なぁボダ…、俺、最近なんて呼ばれてるか知ってっか?」 「新規でも値段が高いとか、FOM●さんに限っては電波がクソ悪いとか…そういう?」 「ほーーぅ。言ってくれるじゃねぇか」 「あ、いえ……すいません。その……」 「…俺の最近のニックネームは『体感するケータイへ』。……ってな訳で、たっぷり俺を味わいな!」 「なっ……?!冗談……!止めてください!顧客数にモノ言わせて僕をどうしようって言うのですか!」 「カマトトぶってんじゃねぇよ!J-●honeからボダになって、サービス悪くなったらしいな?テクの腕落ちたんじゃねぇのか?!」 「うるさいうるさいうるさい!大量に相...
  • 16-089-1
    愛馬 夜の闇をつんざく呼子の音に、僕は飛び起きた。 夜襲だ。 直後に、抑える必要がなくなった敵のときの声が驚くほど近く で、とどろくように上がった。 馬番の寝所は厩の隣。息も凍るような寒さの中、上着を羽織る のも忘れ駆け出し、厩に飛び込み、入り口にある領主様の馬具を 抱き上げる。 他の馬達が外の騒ぎに鼻息荒くざわめく中、入り口に一番近い 柵の中の領主様の白馬は泰然としていた。 僕と目が合うと、早く鞍をつけろと催促するように前足を掻いた。 国王様から贈られた外国の白馬はとても大きな体をしていた けれど、とても気難しくて何人もの馬番を蹴り飛ばして怪我 させていた。 馬番見習いだった僕に白馬の世話が回ってきたのは、馬番として たいして役に立たないから蹴り殺されても惜しくないからだった のだと思う。 「汗を拭いておけ」と布を渡され、厩で初めて白馬の前...
  • 6-089
    子育て 深夜に帰宅したら、アパートの前の土をシャベルで掘り返している男がいて一瞬身構えた。 「…矢野君。通報されるぞ、何…やってんだ。」 隣の部屋のおとなしい大学生だとわかったので、声をひそめて話しかけた。 彼は振り向くとかるく頭を下げたが、戸惑っているのか何も言わない。 もっとも理由は足下を見てすぐに察しがついた…土の上に猫の骸があったから。 「あの猫、俺も知ってるよ。去年くらいからよくここにいたノラだよな。」 「…たぶん、まだ一才くらいだった…」 アパートの地所に勝手に動物の遺体を埋めるのは、たぶん違法だろうな、 と思いつつも、他にどうして良いかわからず、結局俺も彼を手伝った。 「矢野君、ちょっとうちで飲んでく?汚くしてるけど」 彼があまりに落ち込んだ顔をしているので、つい、元気づけてやりたくなって そんなことを言ってしまったのだが、俺らしくないとは...
  • 3-089
    自動車信号機の青×赤 「じゃあそろそろ俺あがるよ」 「ああ、おつかれ。今日はちょっと見てから帰るよ。昨日調子悪くてな」 おつかれ、と黄に頷きかけると、青は個室から出て行った。 田舎の信号機などは夜、人通りがなくなる時間帯になると黄色信号だけが点滅し始める。 この場所の信号機もその例に漏れず、黄色の自動点灯だけに切り替わった。 「どうした? 赤」 むっつりと黙り込み、椅子にだらしなく座る赤を見つけると青は薄く笑って肩を叩く。 「…何でもねえよ」 赤はつっぱねるが青には判っていた。 夕方頃、赤が照っても突っ走っていった車がいた。 そして、右折してきた車と衝突事故を起こしたのだ。 …まあ、その事に怒って当り散らさなくなっただけ大人になったと認めようか…。 「お前の責任じゃない。アレは人間の過失だ。…怒るのもその位にして早く寝ろよ」 ...
  • 7-089
    トラウマ 俺は、そっとジョシュアの頬に手を添えようとした。 途端、ジョシュアは怯えたように顔を背ける。 そして、怯えた顔で俺の顔を見て一言「ごめん」と呟いた。 ジョシュアは、幼い頃から母親に虐待を受けていた。 その影響で、彼は自分の頬に人の手が触れることをひどく恐れる。 何故か、彼の母親は執拗に彼の頬を殴っていたのだ。 いや、何故か、なんて言い方は止めておこう。原因は分かっているのだから。 ジョシュアがまだ幼い頃、俺はジョシュアのほっぺたが好きだと言った。 ふにふにして、やわらかくて、かわいらしい、と。 そんな事を言っていた。 ジョシュアが虐待を受け始めたのは、その頃からだったという。 幸い、ジョシュアが大きくなる頃、俺は立派に社会人などをやっていた。 一人の青年を養えるほどの経済力は、ある。 ジョシュアの母親は、彼がいないと...
  • 2-089
    手を繋ぐ 「昨日の笑点見たー?」 「あー途中からしか見てねー。面白かった?」 「ばっかでーお前ー。すげー人生において損したぞ」 「そんなにも」 他愛のない会話を紡ぎつつ、その実僕は上の空だ。 今日クラスメイトの女の子が、彼氏と一緒の時は絶対に手を繋ぐ、と言っていたのを聞いてから。 今隣を歩いているこいつは僕のことを好きだと言う。 僕もこいつが好きだと思ってる。 クラスメイトの女の子とその彼氏と、ほとんど違わない関係のはずなのに僕らにそんな甘い雰囲気はない。 最初に好きと言われた時以来何も言ってくれないし、手を繋いだことすらない。 「聞いてる?」 完全に上の空だった僕の顔を覗き込んで訝しげに眉を寄せた。 「なんか今日変だぞお前。さっきからぼーっとしてるし」 ああ、自分のことばっか話してるようでも...
  • 15-089-1
    お次の方ー! 俺、ブラックIT企業の社会人2年目、東京出身。 最近は困ったことに年下の男の子に片思い中。 片思いの相手、バイト2ヶ月目(たぶん近所の大学生)、福岡出身。 元野球部のホークスファンで、背が低いのがコンプレックス。 なんだかんだで20時間労働で朦朧となって帰って来ても、 コンビニの店員さんに癒される日々なのだ。 「今年こそホークスの優勝ばい」 秋山監督だもんな、そりゃ期待するよな。 「あー、のど痛か。昨日腹出して寝たけん」 寝相悪いのか、一緒に寝ることがあったら気をつけてやらなきゃ。 「オレ、煙草吸う子は好かん」 ええい、それなら今日から禁煙だ! 俺はこの2ヶ月間で、聞き耳を立てて店員同士の会話を拾うのが上手くなった。 決して褒められたことでないのはわかっているが、この恋は長期戦なのだ。 立ち読みしてした漫画雑誌をラックに戻し...
  • 4-089
    ヨーロッパのとある所で、たった一人はぐれてしまった受け。(殆んど言葉が通じない状況で萌えてください。) 「あれ、みんな……。……ここ…どこだっけ。」 雑貨店を夢中になって覗いているうちにどうやら置いて行かれたらしい。 「そうだ!携帯!……いやここ海外!」 口に出してみて置かれた状況を再確認し、眉が下がる。 薄情にも自分を置いていった友人たちに憤りつつ、通りの名でも見ればここがどこかわからないかと 試みるものの、英語ならともかくフランス語となるとお手上げと言うほかない。 「ホテルの名前、なんだっけ……。」 最悪、大使館に駆け込むのかなあ。でもホテルにも辿り着けないのに大使館になんか辿り着けないか。 ぼんやりとそんなことを考えながら道端にへたり込んでいると上から異国の言葉が降ってきた。 見上げると綺麗な金髪の青年が何事か彼に話しかけてい...
  • 13-089-1
    女形スーツアクター 「ぷはっ…」 「お疲れ様です、筒井さん!」 今日の収録が終わってようやく『着ぐるみ』から出た僕たちは、互いの 汗だくの体を見て、今日も大変でしたねえ、と笑い合う。 僕たちはスーツアクターだ。よくあるレンジャーもので、僕は主人公、 筒井さんは敵の女幹部。ちなみに僕も筒井さんも男性である。 筒井さんの役は、チョイ役とまで行かないものの出番が少なく、 僕の役と絡むことも少ない。けれど今日は、スタッフのいわゆるテコ入れで 試験的に主人公と敵幹部のエピソードを入れるということになり、 僕と筒井さんは一緒に撮影をしたのだった。 話の流れで、その夜、僕は筒井さんと一緒に飲みに行くことになった。 「あの…本当に奢ってもらっちゃって…」 「いーんだって。芹沢くんはいつも大変でしょ。たまには飲みなよ」 確かに、昼間の撮影のせいで体中はボロボロ、一杯煽りたい...
  • 26-089-1
    やっと愛するお前のところへ行ける 港を一望できる小高い丘の頂に造成された公営墓地 その東側の片隅にアイツの墓はあった 少しだけ伸び始めた白髪混じりの坊主頭に初冬の風は冷たい 自分は24歳だけど今の自分を見て誰もが40代だと思うだろう あれから7年ですっかり老け込んでしまった ずっとこの日を待っていた ただいざこの日を迎えるとそれが何なのだという虚しさが猛烈に込み上げて来る アイツとはずーっと幼馴染みでダチだった 高1の夏に部活の合宿で行った長野の山奥で関係は劇的に進んだ それからは猿みたいにやりまくった 男子高校生なんて性欲の塊みたいなもんだからな あの日はオレもアイツも17歳の高2の秋の夜だった 一緒に帰る途中に寄ったコンビニで実に他愛ないことで口げんかした コンビニを出て別々に帰宅の途に就いた アイツはオレと別れてから約10分後に何者かに刺され...
  • 15-089
    お次の方ー! 「お次の方ー! こちらのレジへどうぞ!」  並んでいた客に営業スマイルで声をかけて二番目で待っていた男性がこちらに来る。  ファーストフードで働きだして半年。すっかり接客と笑顔が板についた。現在通っている高校では「無口でクールで真面目な生徒会長」で通っている俺だが、ここでは「笑顔が素敵な爽やか『美少年』」でちょっとした評判になっている。さすが俺。どこに行っても完璧だ。  バイトをするにあたり自分の学校でのイメージ崩壊阻止の為にわざわざ遠くの市を選んだ甲斐あって未だにバレていないし、このままいけば目当ての物を買える額が貯まるのはあっという間だろう。  そんな事を考えながら注文を受けていると、ふいに客の声が途切れたのに気づいた。 「……お前」  そういえば聞き覚えのある声だ。しかし常連客にこんな中年男はいなかった……。 「谷沢か……?」  ...
  • 20-089
    イライラする 帰り道、AKBで誰が一番可愛いかについて議論をしていたら、 幼馴染が「あ、」と突然声を上げた。 「どーした」 「俺、更年期障害かも」 「……なんで」 「最近なんかイライラすんだよ」 どうやら教室で、「窪塚(現国教師♀)って超ヒステリー」 「こーねんきしょーがいってやつじゃね」「ギャハハハ」という会話を耳にしたらしい。 「更年期障害は若いうちはならなくね?」 「窪塚センセは若いじゃん」 「女子は時として自分より年上ってだけで他の女を『ババア』呼ばわりするんだよ……」 幼馴染は、テストの点はいい癖にアホである。 しかし原因不明のイライラは心配だ。更年期障害はないにしても、 病の可能性は捨てきれない。 「イライラする時にちゃんとした理由はないわけ?」 「ムカつくこと言われたとか、邪魔な奴がいたとか、そういうのはなかったんだよな。 他になんかあ...
  • 27-089
    死に際に告白しようとするが結局出来ないで死ぬ 死に際に最後の力を振り絞ったらしい小っこい悪魔が憎たらしい笑顔で放った氷柱 それが自分の腹を突き破った時、一瞬本当に何が起きたか分からなかった。 オレは悪魔を倒したジンに向けていた笑顔のまま、ガクンと膝から崩れ落ちる。 尻餅をついた衝撃で視線を下ろした先に見えるのは 体に深く突き刺さる氷柱とそれに纏わり付くように滲む血。 氷柱が刺さっている部分から根を張るように体が凍っていくのが分かる これから自分は死ぬのだ、と本能が泣き叫んでいる気までしてきた。 「ソロ!!」 「……かはッ! ……ッ! ……!!」 血相を変えてオレを抱きかかえるジンに何か言ってやりたかったが さっき悪魔に掛けられた沈黙の効果がまだ残っているせいで悲鳴すら出せない。 抱えたオレを見下ろすジンの顔は、普段の無表情っぷりが嘘のように歪んでいて ...
  • 23-089
    たとえ会えずとも Re ヤバイ逆鱗触れてデスマっぽい Re Re ケーキ安くなるまでには帰れそう? Re Re Re 年内には帰りたい… Re Re Re Re 夜中にこっそりアカシヤサンタに電話しろwww Re Re Re Re Re 「恋人いるのに帰れない」じゃ無理だろ正直w Re Re Re Re Re Re そこは一発逆転の「俺ホモだから」池! Re Re Re Re Re Re Re なにがかなしてくてイブの夜に全国公開カムアウトだよ! Re 俺アカシヤサンタ見てるからカムアウト待ってる Re Re ・・・オウマカセトケ…orz Re Re Re その後俺も電話して「アレ俺の恋人」って自爆してやるから安心しろ Re Re Re Re ヤッタネ俺達変態ダネHAHAHAHA! 無口×無口
  • 14-089
    苦笑しながら「馬鹿じゃないの」 「馬鹿じゃないの」 目の前でちまちまとした作業を繰り返す男に、俺はそうつぶやいた。 「馬鹿ってなんだよ」 「目の前にそうやって山積みにされてるものを見ると、馬鹿としかいえないんだけど」 ヤツが延々繰り返しているのは、甘栗の皮むき。 剥くだけ剥いて、食べるでもなく、それをティッシュの上に積み上げているのだ。 「放っておけよ」 そう言って、またヤツは無言で作業に戻る。 何で分からないかな。こうして折角二人でいて向き合ってるのにさ。 放って置かれて無言で甘栗の皮むき見つめてるなんて、むなしいだろ。 そんなこと、口が裂けたって言ってやらないけど。 「そんなの、剥いて売ってるやつあるじゃん。何でそっち買わないんだよ」 「それじゃダメなんだよ」 「何が」 そのあとの返事はなく、黙々とその手は動かされる。 こんな状態で、こっちを向い...
  • 17-089
    理論で説明できないことなど全く信じない科学者 あいつは奇妙な奴だった。 いつも虫取り網を持って裏山を探索するのを趣味とする珍妙な男だった。 私が、何をしているのだ、と聞くとやつは猫のような笑いで(やつはいわゆる「タレ目キャラ」だとされていたが今思えばそれは多分演技だったのだろう) UFOを探しに行くのだと言った。昨日は隕石が落ちてきたから絶対いるのだ、と 無論、そんなものいるわけない。だいたい昨日のは衛星だ、阿呆め。と内心では思っていた。 しかし無理矢理さらわれて行った裏山の頂上で馬鹿みたいに口を開けて流れ星を探しているおまえを見て、 俺はこいつは何か特別な何かを持ってるんじゃないかと、何故だか漠然と思った。 塾なんてどうでもいいや、と思った。 帰ってから親にこっぴどく叱られ、そんなやつとはつきあうなと言われたが それでもちょくちょく遊んでいた。 河童を...
  • 22-089
    タバコ没収 ちり、と音がして目の前に煙がふわりと揺らぐ。そうしてタバコに火を点けた瞬間、後ろから肩を叩かれた谷川は心底驚いた。 いつも人気の感じられないこのトイレは、隠れてタバコを吸うには穴場なのだ。 油断した、人など来ようものかと高をくくって個室に入らなかったのがいけなかった。 肩に手を置いたまま、沈黙。この手が教員のそれなら自分は罰せられるのだろう、そんな考えが音もない一瞬を長く感じさせた。 「おまえさんまたタバコなんぞ吸って、病気しても知らんぞ」 後ろに立つ男は、谷川のよく知った声でそう言った。今度は安心して、谷川は男に向き直る。声の主は気の置けない友なのだ。 「…青井、驚かさないでくれ」 「驚かすつもりなんてなかったさ。俺はただ生徒会長として、 タバコなんて不謹慎な行為に耽る同輩に注意を促そうとしただけだよ」 没収だ、青井はそう薄...
  • 28-089
    ヘタレの告白 「沢井のことがずっと好きだったんだ」  泣きそうな顔で宮下が言った。  こいつとはもう何年も親友として過ごしてきた。  いや、俺はそのつもりだったのだが。 「大学のサークルで沢井に出会って、気が合ってしょっちゅう一緒につるむようになって、 俺は体力とかあまりないし世の中ちょっと斜めに見てるところがあるから、 沢井のバイタリティとかまっすぐな気性とか面倒見のいいところとかがすごく眩しく思えて、 気がついたら好きになってたんだ…」  宮下は涙のたまった瞳で俺を見ながら言葉を続ける。 「だけど男同士だし、友達として沢井とつき合っていければそれでいいと思ってた。  沢井に彼女ができたときは本気で祝福したよ。  彼女といるときの沢井はとても幸せそうで、 そんな沢井を見てると俺だって嬉しかったんだ。本...
  • 26-089
    やっと愛するお前のところへ行ける 俺は大学時代にサッカー部だった 大学は海の向こうのあの国の大学となぜか提携をしていた なんだかよく知らないが毎年秋に交流試合をしてた 一年おきにこっちが訪ねたり向こうが来たりしてた こっちが訪ねるときはメンバーは三年生と四年生のみだった 交通費もバカにならない 俺が三年生のときは向こうが来た そして向こうのディフェンダーと一夜を一緒に過ごした 俺はフォワードだったし体は凄くいい相性だった そのときにメルアドの交換を忘れるという痛恨のミスを犯した それから一年間のオナネタはアイツだった そこそこの女好きだった俺が全く異性への性欲を喪失した 織姫との再会を待ちわびる彦星のような気分で一年を過ごした そして四年生になり俺たちがいよいよ訪ねる秋になったときだった そりゃ国境の海の波が荒いことはニュースで聞いていた ただガチでド...
  • 16-089
    愛馬 「――様の、馬だけが戻られました」 その報に、心の臓を鷲掴まれた気分だった。 精鋭を率いての重要な任務で、彼は敢えて危険な役目を買ってでた。 「馬の鞍にこれが」 破られた布片に、敵の罠にかかったこと、これからの戦局に必要な情報などが簡潔に書かれている。 荒く、震えた字だが、確かに彼のものだった。 「……、」 最後には、私あての一文があった。 吐き気がする。こんなに簡単に失ってしまうのか。 「これ、どうどう」 厩番が彼の愛馬を落ち着かせようと必死になっている。 「どうやら、戦場に戻りたいようで…主人の事をまこと思うているのでしょう」 私は、厩番から馬の手綱を預かりその鼻筋を撫でる。 「行ってはならぬ」 決して行ってはならぬのだ、何度も、何度も繰り返した。 愛馬
  • 21-089
    羽毛布団×電気毛布 「あーあ。…寝ちゃった?」 御主人様の呟きとともに、その日の夜、やわらかく憧れの人が降ってきた。 その人は基本的に年に2、3度しかお目見えしない。御主人様が大切な客人をもてなす時のみ、クローゼットの最奥から仰々しく真空パックのカバーに包まれた状態で顔を出す。 近づきにくい外装の高級然とした姿に反して、とても軽くて優しい肌触り、そして何よりご主人様が絶大の信用を寄せている温もり。オマケに天然モノである。 元々貧相で非天然モノ、かつ常日頃のヘビーローテーションで伸びきってしまった俺は憧れざるを得なかった。 勿論そこには、羨望という都合の良い言葉に隠された、少々の嫉妬という醜い感情もあったのかもしれないが。 『あれ、また会ったねえ。この客人が来るようになってから、君とはよく一緒になるなあ。』 『そうですね。すみません、俺なんかと一緒じゃ居心地悪いでしょ...
  • 12-089
    朝日が昇る 「眠れないんだ」 午前1時、電気を消した暗い部屋の中を、今日も同居人が俺の布団に潜り込んでくる。 「うわ。男くせー」 「悪かったな。じゃあ自分の部屋で寝ろよ」 「ごめんごめん。でもなんかこの匂いすげー安心する…」 そう言ってしばらくすると、規則正しい寝息が聞こえてくる。 眠れないとか言う割には、いつもひとりでさっさと寝付いてしまう。 それだけ安心してくれているということなのだろうか。俺は何とも言えず複雑な気持ちになった。 同じ大学に通う同居人が眠れないと訴えるようになってから、もう2週間ほど経つ。 理由を尋ねても「何だか不安なんだ」と答えるばかり。 ノーテンキとしか言いようのないこいつが何を言っているのだろうか。俺はどうも納得がいかない。 そして変な期待をしそうになって、そんな訳はないと慌ててそれを打ち消すのだ。 「うーん…」 同居...
  • 10-089
    親子二代の忠臣 差し伸べられた指先が頬を探り、頤を辿って、所在なさげに襟の重ねをもてあそんだ。 「……日に日に、父に似てきよる」 物憂げな主公の呟きに、ふと、子供の頃のことが思い出された。 「父に万一のことがあれば、そなたが主公をお守りするのだぞ」 出征前、城門まで見送りに出た私を抱き上げて、いつものように父は言った。 心得ましたと答えると、父は、白く整った歯並を覗かせて笑った。 そうして二万の手勢を率い、内乱の鎮圧へ向かっていった。 それから半年が経ち、初雪の舞う都に帰還したのは、兵馬に守られた父の亡骸であった。 陣中で暗殺されたのだと、後から聞いた。 全幅の信頼を置き、身辺のことを任せていた部下が、敵方と内通していたのである。 実感のわかぬまま、白い袍に袖を通し、宮殿へ使いに出された。 初めて足を踏み入れる宮殿は広く、隅々まで磨き込まれ...
  • 25-089
    死亡フラグブレイカー 指を絡めて、少し俯いた顔をあげる。逞しい手首に下がる緑のミサンガが僅かに揺れると、真剣な表情で彼は言った。 「俺、この試合が終わったら告白するんだ」 「……ああ、そう」 スコアボードを抱きしめつつ、エースの妄言を軽く受け流しつつも返してやると、 唇を尖らせながらなんだよその反応! と怒られた。だってキモいんだもん。 それに知ってるか、そういうの死亡フラグっていうんだぜ。そういうこと言っちゃうとボコスカうたれちゃうぜ。 そう思いはしたけれど、実際口にしたらマジで打たれてしまいそうな気がしたので、やめた。 選手の精神のケアもマネージャーの大事な仕事だからだ。 高校三年生の野郎にしては幼すぎる言動に溜息をつきつつ、彼の隣に腰掛ける。 「つか、え、オマエ好きな人いたんだ」 「うん。いつも俺のこと支えてくれてて、いつも俺中心に物事を考えてくれてて、...
  • 18-089
    イルミネーション 「うっわ…すご…」 「あぁ、そっか。見るの初めてですっけ」 「うん、こっち来たのは今年の春やったし」 「綺麗ですよねぇ」 「せやなぁ。眩しいくらいやわ」 「あ、そうだ。知ってます?」 「何がや」 「このイルミネーションの通り、カップルで歩くと別れるっていうジンクスあるらしいですよ」 「あぁっ!?ほんならなんでわざわざここ通んねん!」 「…えへへへへ」 「…なんやねんな、キショいな」 「いやぁ、そう言ってくれるってことは、僕達ちゃんと恋人同士なんだなーと。改めて思いまして」 「な…っ!いや、それは…っ!」 「よかった。嬉しいです」 「……カップルやったら別れてまうんとちゃうんかい…」 「こういうの信じるタイプでしたっけ?」 「そういうわけやないけど…!」 「大丈夫ですよ。僕は貴方を嫌いになんてなりませんし」 「…お前、ようそんな...
  • 11-089
    癒やせない苦しみなら共に分かち合いたかった 知ってはいたのだ。 自分を護るために、彼がどれほど無理をしていたのかを。 それを知りつつも尚、ミケランジェロが見えない振りをしていたのは、 ひとえに彼が、その苦しみに気付かれることを恐れていたから。 彼の望みが、この自分が健やかに穏やかにあることならば、せめて、それをまっとうしよう、と思った。 彼のために、いつでも明るくいようと、純粋無垢であろうと、笑っていようと、そう、決めたのだ。 彼の傷を、苦しみを思えば、出来る、と思った。 それでも、その傷に、苦しみに、気付かぬ振りをするのは容易なものではなかった。 ともすれば心配で曇りそうな表情や、不安と怖れで緩む涙腺に気をつけながら、 知らぬ振りを貫き徹せるとはとても思えなかった。 ミケランジェロには自分が、知らぬ存ぜぬで現実に目を背け、辛いことは全て彼に任せ、のうのう...
  • 9-029
    手のひらの中の 生まれて初めて告白された。 部活の先輩に。 男に。 ジュースをおごって貰った後、「手を出せ」と言うので 差し出したらなにか油性マジックで書き込まれた。 「あとで見ろ」と言って先輩が去った後、ジュースを 握らされた手を開くと『好きだ』の3文字が。 「どうすりゃいいんだ」 俺は手のひらの中の妙に綺麗な字に向かって呟いた。 割れた眼鏡
  • 3-029-1
    出版社営業×書店バイト 結局のところ、ほぼ日参するあいつに根負けして初回10だけ平積み、てことになった。 マイナー出版社の無名作家のエッセイなんて普通売れると思わないだろ。 蓋を開けてみればそのまさかだったわけだけど。 「こんにちは」 相変わらず汗びっしょりでやってくる。 変わったところと言えば最近心なしか嬉しそうな気がする。 「数字、見てもらえますか?」 「60入りの57売れ。残が3。ああ、少し展開広げるから30ほど追加してくれってさ」 「ありがとうございます!」 嬉しそうに笑って深々と頭を下げる。 俺じゃねーよ。社員がそういったんだっての。どう見ても5つは年下の俺に敬語使うなって。 ああイライラする。 「じゃあ、展開広げていただくお礼に飲みにでも行きませんか?」 なに言いだすんだと思ったけどタダ酒タダ飯の誘惑にかなう...
  • 8-029-1
    一方通行の両想い 「俺、おまえのなんなんだよ」 ついに急ききってしまった。 こいつの部屋から長い髪毛がみつかる度にうんざりしていた。 酔っぱらって向こうから、というこいつの言い訳も許してきたわけじゃない。 譲歩してただけだ。 「なにって…。  だってあんたが俺を離してくれないから一緒ににいるんだろ?」 ああうんざりだ。もういい。 こいつに妬くのももう疲れた。もういい。 長く俺はこいつに尽くした。 別に見返りを求めるわけでも押しつけるわけでもない。 ただただ好きというだけでその感情のままに動いていた。 額に手をあて俺はため息をつきながら言った。 「わかった。さよならだ。じゃあな。」 クソガキ。 結局俺はいつまでたってもこいつの良いところひとつ 見つけられなかった。 あまりに無神経で幼稚すぎる言動。 理想とはかけ離れている。 それでも好きだっ...
  • 4-029-1
    いやいやいや、新幹線駅じゃなくても迷うよ。天王寺とかややこしいし。 「ぅあー……。」 半ば押し付けられての出張で人生初めての大阪に降り立った俺はうんざりとした声を上げた。 広さ的には東京駅の方がはるかに広いのだろうが不慣れな分やたらと広く見える。 在来線の名前も見慣れないからどれがどれだかわからない。 「環状線ってどこだよ!」 表示を見ながら構内をうろついていたがそんな文字はどこにもない。 出張を押し付けられた苛立ちも手伝ってつい大声を出していた。 「環状線はこっから出てへんよ。一旦大阪まで出な。」 背後からやわらかい関西弁が聞こえた。関西なんだから関西弁で当然か。 振り向くと人のよさそうな笑みを浮かべた男が立っていた。 「あー…そうなんですか。どうも…。」 一人で叫んでいるところを聞かれた気まずさも手伝って曖昧に答...
  • 19-029
    四兄弟 「お前んち、四兄弟なの?」と聞かれる度に、「まぁ、そんなもん」と答えている。 両親を田舎に残し、兄弟のいる都会の家に暮らして始めてから1年が経った。 家にいるのは4人だ。商社勤めの大(おお)兄ちゃんに、広告デザイナーのちょっと変な小(ちい)兄ちゃん、こっちの高校に進学したオレ、それから、役所勤めの中野さん。 中野さんは小兄ちゃんの高校からの友人だ。 もともと中野さんも別の場所に住んでいたそうだけど、こっちの家の方が勤め先に近く、何度か遊びに来たり泊まっていったりするうちにいつの間にか居着いてしまったらしい。 ……そんなにアバウトで大丈夫なのか、この家は。 「ただいまー、はらへった」 「おかえり。二人とも遅いらしいから先にご飯にしようか」 キッチンから中野さんの声がする。 ダイニングのドアを開けると、テーブルにはハンバーグとミネスト...
  • 27-029-1
    甥っ子×叔父さん 「おじさん結婚しないの」 19歳下の甥っ子に突然尋ねられた。ついに兄貴が婚期を心配しだしたのだろうか。 「もしかして今日、見合いの話持ってきた?」 「違うって。親父からは別に何も言われてないよ。ただ俺が聞きたいだけ」 「なんだよ焦った。まったく予定ない。残念なことに彼女もなし。  それよりお前はどうなんだよ。コレ、できたか?」 小指を立てて聞いてみる。 「それおっさんくせえからやめたほうがいいよ。彼女なんていない」 「20過ぎたら30まであっという間だぞー。ちなみにその先の30代はもっと早い。  今のうちにいい子つかまえとけよ」 「……んん」 アラフォーからのありがたい忠告だというのに、テーブルに頬杖をつきながら適当な相槌を打たれた。 しょっちゅうお馬さんごっこやヒーローごっこをして遊んでやったこいつも、あと10日で成人だ。 時の流れは恐...
  • 23-029-1
    熱々あんかけ対決 「おい勝負だ!」  あるアパートの一室で、今夜も料理対決のゴングが鳴る。  お題は「あんかけ」。対戦するのは板前見習と大学生だ。 「店の片付けで疲れてない? 別の日でもいいんだよ」 「バーロー、お前に勝ち逃げされてたまるか! つか卒論抱えてるくせに余裕だなお前」 「真面目な学生だからね。はい、それじゃ大家さん審査よろしく」 「おんやまあ、今日もかい? 二人の料理を食べられるのは嬉しいねえ」 「ばーさん、審査は公平に頼むぜ」 「じゃあ、スタート!」  ――奴の料理はあんかけ炒飯だった。  玉子とネギだけのパラパラ炒飯に、エビのとろとろ熱々あんかけ。  炒飯もあんかけもどっちも美味しいのに、まるっと全部一緒に食べると、咀嚼する度に小気味よい食感が味わえる。最初は炒飯のぱらぱら感とエビのぷりぷり感が歯に心地良く、咀嚼が進むにつれて双方...
  • 15-029-2
    ツンデレ泥棒×お人好しな刑事 まったくあの馬鹿野郎が! 飛んでくる弾丸をかわしつつ、床で蹲っている男に対し、悪態を吐いた。 男の腹部からは大量の出血。背後には金を盗まれた怒りで目が血走っているマフィア。 あのままだと、あの愚かな刑事は死んでしまうだろう。 長年、自分を追いかけている正義感の塊のような男。 見るたびにイラついてしょうがなかった。 刑事が勝手にしくじったというのなら、「馬鹿な奴」と嘲笑い、そのまま放ってさっさと逃げ出しているのに。 あの男が自分を庇って撃たれたのでさえなければ。 泥棒助けて、自分が死にかけるなんて笑い話もいいとこだ。 世の中、善が報われるとは限らない。むしろ、自分の生きてきた世界ではお人よしであればあるほど早死にしていたのだ。 一向に逃げずにいる自分に苛立ちを覚えつつ、刑事の方に目を戻せば彼の周りは十数人のマフィアで取り囲まれていた。...
  • 15-029-1
    ツンデレ泥棒×お人好しな刑事 「では、男爵家の秘宝『アドニスの涙』は確かに頂戴した」 高らかにそう宣言すると、さえ渡る月光の中、黒い影はさっと身をひるがえしました。 「待て!怪盗赤鴉!逃がすものか!」 赤鴉を宿敵と定め、もはや3年の長きにわたる戦いを繰り広げてきた蟹村警部が、 ここで逃がしてなるものかと腰のサーベルをスラリと抜くも、 男爵家の豪奢なホールの高い天井、そこに取り付けられた高窓にとりついた赤鴉、 その名のとおり、カラスでもなければ到底届きはしないのです。 「蟹村君、毎度忠勤ご苦労である、そして我が仕事への御協力いたみいる、さらば!」 「待て!」 蟹村警部はぎりり、と歯噛みします。なんという人を馬鹿にした態度でしょう。 変装の名人、怪盗赤鴉は、こともあろうに宝の持ち主である男爵に化け、 宝を守らんとする警部の手ずからまんまとお宝をせしめたのです。 ...
  • 21-729-1
    ずっと好きだった幼馴染の結婚式 ※幼馴染みは男の子で 家が隣同士で、親同士も中がよかったため、小中高校、一緒に通う仲だった。 幼馴染みは優しくて、おっとりした質なので、自然と彼の兄貴分のようにふるまうようになり、幼馴染みにも、「頼りにしてる」と言われる程だった。 そんなある時、幼馴染みから、女の子に告白されたと相談される。 何故か必要以上に動揺しながらも、笑って幼馴染みの背中を押すが、何となく心に穴が空いてしまう。 その理由がさっぱり分からないまま、何人かと付き合っては別れてを繰り返した。 大抵は、「何で幼馴染みの話しかしないの?」と問い詰められ、曖昧に答えているうちに振られるのだ。 次第に、なぜか幼馴染みの顔を見れなくなっていき、衝動的に違う土地に引っ越した。 時が流れ、幼馴染みから母親経由で結婚式の招待状が届く。 懐かしい名前に顔を綻ば...
  • 9-229-1
    たんぽぽ 春になると幼稚園以来の友人がよく持ち出す話題がある。 幼稚園の頃オレがあいつを苛めて困らせた思い出話だ。 当時あいつはタンポポの綿毛を飛ばすのが大好きで、 綿毛になっているのを見つけては吹き飛ばしまくっていた。 あいつがあんまりタンポポに夢中だったから、まわりの子どもや先生も あいつにタンポポの綿毛をあげたりしていた。 でもオレはそういう奴らの差し出すタンポポの綿毛を横から ぷうぷうと吹き飛ばしまくった。 オレは結構そういう悪戯をする子どもだったけど、あの時は 徹底的に邪魔をした。 そうするうちにタンポポはどれも葉っぱだけになった。 「あれすごく嫌だったなあ」 「…ほい、どうぞ」 友人に綿毛のタンポポを差し出した。 友人は笑みを浮かべて受け取るとふうっと校庭に向かって吹いた。 友人にタンポポの綿毛を差し出すのが昨年以来の二人の遊びになった。...
  • 9-829-1
    ノンケ親友に片思い 兄さん、お元気ですか。そちらは相変わらず暑いですか。 今日は下宿先に春日が、貸していた本を返しにやってきました。 上は白い袖なしのランニングシャツに、紺色のジーンズを履いて、 足元は健康サンダルと、いつも通りの気安さでした。 春日とオレは本の好みが似ているみたいで、 この時の本も気に入ってくれたようでした。 板塀沿いの木戸をくぐったら裏庭があって、犬小屋があって、 縁側が張り出していて、棹に干した洗濯物が揺れていて、 お世話になってる下宿先のご夫妻は旅行に行ってて、だから今日は 日がな一日オレが留守番をしていて、冷蔵庫を開いて麦茶のグラスに 氷を入れて、しま模様のストロー立てて、 風鈴がちんちろ鳴ってる下で、サンダルの足をぶらぶらさせながら、 春日とオレは本の話をしました。今度映画になるのもあって、 それは見てみたいなあと、春日は言っ...
  • 9-529-2
    男ばかり四兄弟の長兄×姉ばかり四姉弟の末弟  ぴぃんぽぉーん、という平和ボケをそのまま音にしたようなインターフォンが聞こえた途端に、 俺の周りをちょろちょろと走り回っていたチビギャングどもが玄関に突撃した。その数、三匹。  「だれー?」だとか「なにー?」だとかうるさいったらない。あいつらのツルツルな脳味噌には まだ『近所迷惑』という言語が刻み込まれていないのだ。そしてそれを刻み込まなければ ならないのが俺。破滅的に面倒くさい。  舌足らずな弟どもは興奮していて、余計に何を言っているのかサッパリ判らない。ので、客人が 誰であるのか、部屋の中まで出向いてくださるまで分からなかったのは事実であったのだが。 「やあ久しぶり、お兄ちゃん」 「うわぁっ先輩!?」  敬愛する先輩に、ひよこ柄の黄色いエプロンでホットケーキを焼いているという、およそ格好 悪さの極致みたいな姿を...
  • 9-729-1
    お墓参りの帰り さっきから小さな足音がついてくる。 振り返るのがこわい。 逃げるのもこわい。 (大丈夫。きっとばーちゃんが守ってくれるから) 最後にばーちゃんから貰ったお守りをギュッと握りしめて、何度も自分に言い聞かせていた。 今日は三年前に死んだばーちゃんの命日だった。 お墓には花とまんじゅうだけで、お線香の煙も寂しかった。 去年は三回忌で、一昨年は一周忌だった。 父ちゃんも母ちゃんも『今年は特別じゃないからさみしいね』って言ってたのに。 でも、ぼくがいるからね。 ばーちゃんの大好きだったビールと、いい匂いのするお線香を、お年玉の残りで買って来たよ。 ばーちゃんに『また来るね』って言って、お寺から出るときに気付いた。 さっきからずっと、誰かが後を歩いてる。 ぼくが早足になると、足音も速くなる。 ゆっくりにすれば、ゆっくりになる。 おばけ...
  • 9-629-1
    年下の先輩 昨今の囲碁ブームに踊らされて、初級者教室の門を華麗にくぐったのが 半年前だ。仕事帰りに一端緩めたネクタイを、鉢巻代わりに、も一度 きりりと締め直すのが毎週水曜夜七時。パチリパチリといい音響かせ、 「音は良くなりましたね」と無理のある褒め方をしてもらったのが、 ついこの間の水曜日。たまにはサロンの方にも顔を出して、へぼ碁の 相手を探そうかなあと同じビルの階段を一つ昇ったところ、人の影、 聞き覚えのある話し声、震える言葉、駆け降りてくる、駆け抜けていく 見慣れた学生服の見知った少年の背に不穏なものを感じ、踊り場を 見上げると、いつも馴染んだ羽織姿の、温かな笑みを崩したことのない 指導の先生のその瞳、縁なし眼鏡の奥の底、青ざめた表情に反射的に きびすを返し、何があったのか、とにかくさっきの高校生の姿を求めて 追っかけっこを始めたのが五秒前、日曜日の午後...
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