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きれいなお兄さん×大型わんこ

太腿を撫でられるうちに、居ても立ってもいられなくなってきた。
「お、お、お兄さんは」
声がうわずる。そのことが余計に俺を逆上させた。
「……なんで俺なんかを構うんですか」
お兄さんは目を細め、俺の鼻をつまんだ。
「可愛いからさ。見てるとかわいくてかわいくて仕方がないんだよ」
ムガ、と鼻が鳴る。毎度毎度、この人の言っていることがわからない。
剣道、柔道で鍛えられたむくつけき大男である俺の、どこが可愛いというのだろう。
「俺はもう小学生じゃありません」
「知っている。高校生でも大学生でもないね、立派にお勤め人だ。むろん小さい頃も可愛かったが」
そういうお兄さんこそ可愛かったじゃないですか、と言いたいのを堪える。
美少女然とした子供だった3つ上の幼なじみは、いまや美女とも見紛うばかりの美青年とあいなったが、
自分の外面にとんと興味がなくて、話題にしても反応しないことは先刻承知だ。
実は、これが噂に聞く男色家というものか、と密かに思っている。
この人が女性とつきあったという話は、聞かない。
お互いそろそろ嫁を迎えなければならない年だが、俺はともかく、この人の見合い話も聞かない。
こうして揃って上京しているが、俺が会社勤めなのにこの人はひとりでふらりとやってきて、文筆業だとかよくわからない仕事に就いた。
およそ、浮世離れしている。どうあっても俺とは縁がない人だ。
「……触っていい?」
まただ。言ったときには背中をなで回している。
「良い筋肉だ、ほれぼれするね」
就職してからはだいぶ衰えたと、自分では思うんだが。
意外に大きな手のひらがシャツの上から背中をさわさわと動き回るのは、嫌いではないのでそのままになる。
こうしているといつも、お兄さんの実家の犬を思い出す。お兄さんはよく、庭で大きな甲斐犬を撫でていた。
賢い犬はじっとふせて撫でられるままになっていた。
お兄さんは実家が恋しいのかも知れない。俺を甲斐犬の代わりに撫でているのかも知れない。
お兄さんの手は、背中を通り越し、尻にひと撫であいさつしてから前に回って腿にたどり着く。
太腿をなで下ろし、ふくらはぎを揉むと同時に二の腕をさする。
そうして俺はまた、何でか知らんがいたたまれない気持ちになっていく。
「お兄さん!」
「何?」
「さ、さっきも聞きましたがなんで俺のこと構うんですか、こうして家に来て飯食って、
 犬代わりに撫でてさする。寂しいんなら嫁をもらってください。それとももらえん理由でもあるんですか」
「仕方ないじゃないか、お前が可愛くてならないんだ、見てると触りたくなる」
「お兄さんは……やはりそっちの気があるんですか」
きれいなお兄さんは顔を傾げて、どうやら真面目に事を考えた後、言った。
「わからないね、他の男をどうこうしようとは思わん。可愛いのはお前だけだなぁ。
 さっきお前は犬と言ったが、そういうつもりもない。
 が、確かに犬のように可愛いな、いつまでも飼っていたいとは思うね」
そう言われては、飼われるしかない。そう思った自分もたいがい犬のようだ。