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ツインを取ったはずが手違いでダブルに

「あ」
ぽつんと奴の口から零れ落ちた不振な声に、身構えたときには既に遅かった。
「かっちゃん、ごめーん。間違えてた」
「……またか」
溜息をぐっとこらえる。
こいつはいつもそうだ。図体はでかいくせにぼんやりしていて、必ずひとつふたつ抜けている。
そのたびに迷惑をこうむるのは幼馴染の自分で、正直惚れた弱みさえなければとうに見放しているところだ。
もはや何度目になるか分からない「なんでこんなの好きかな俺」を胸のうちに秘め、続きを促す。
「で、今度は何だ?部屋が違うのか、鍵を忘れてきたのか」
そう言って手元を覗き込むが、鍵は確かに持っているし、番号も目の前のドアに刻まれているのと同じだ。
「なんだ、合ってるじゃないか」
「や、そっちじゃなくて」
じゃあなんだと言うのか。まさか、せっかくの旅行を台無しにするような間違いをしでかしたんじゃないだろうな。
「いやぁ、こういう、俺らだけで計画した旅行って初めてだろ?だからさ、ホテルの予約がよく分からなくてさ」
言いながら、がちゃがちゃと鍵を回し、ドアノブをまわして。
「ほんと、ごめんね」
扉が開いた瞬間、目に飛び込んできたそれに、俺はあんぐりと口をあけた。
そこにでんと鎮座ましましているのは、キングサイズのダブルベッドで。
「ツインとダブル、間違っちゃった☆」
てへっ。
そんな天然アイドルみたいな仕草、ごついお前がやってもキモいだけなんだよ!と怒鳴ることすら忘れ、呆然と固まり――
俺は叫び声を上げた。
「この、バカシゲ!とっととフロントへ行って部屋替えてもらってこい!!」
「えー、いいじゃんこの部屋で」
だが、あろうことかこいつは反論してきた。
「なっ」
「俺とかっちゃんの仲じゃんよぉ」
その言葉に頬が熱くなる。
落ち着け、落ち着くんだ俺。こいつの言葉に他意はない。こいつは別にそういう意味で言ったわけじゃなく――。
「幼稚園のころなんか、しょっちゅう一緒に寝てたし」
そう、この程度の認識なんだ。
奴にどんな風に思われているのか改めて知って、軽く落ち込む自分が嫌いだ。
「それとも、何?かっちゃんは俺と寝るのは都合が悪いの?」
「…そういうわけじゃない。あーもういいよ、ここで」
はぁ、と重く溜息をついて、荷物をしまうためにクローゼットを開ける。
今夜は眠れそうにない。



クローゼットの扉の内側についている鏡は小さくて、だから俺は気付かなかった。
後ろで俺を見ていた奴が、にやりとほくそ笑んでいたことに。