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男娼の恋

「御指名です」
障子越しにそう呼ばれて、僕は座したまま振り返りもせずに、今行きますと答える。
小さく、聞こえないほどに小さく溜息。
息を吐く音は外の激しく降る雨音に紛れ、僕自身の耳にすらろくに入らない。
重い足を奮い立たせて立ち上がり障子を開けば、
そこに正座していたのは紺色に染めた羽織を着た大柄な男だった。
ここで雑用全般を任されている、気のいい男だ。
「誰?」
「先週も来られたお客様です。確かどこぞの社長令息だとかいう」
「ああ」
記憶にはあった。
僕の全身を縛り上げた上で、肌に熱した蝋を落とした男だ。
確かその前は、性器に幾本も針を刺された僕の姿を肴に、酒を愉しんでいたっけ。
……正直、ああいう行為は苦痛でしかないけれど、客が求めるのだから仕方ない。
決して美しいわけでもイイ身体をしているわけでもない僕は、
『何でもアリ』を売り物にするぐらいしかないのだから。
「……御嫌では無いですか?」
よほど難しい顔をしていたのだろう。
振り向いた彼にそう問われ、僕は笑顔を崩さずに言う。
「いいえ、そんなこと。誰であれ僕を指名してくれるような粋狂な方を、悪くは言えません」
答えれば、彼はむっつりと信じていないような顔のまま。
……いえ、本当なんです。
あんな男は好きでも嫌いでもないけれど、
誰かが指名してくれる夜だけ、僕は貴方に逢う事が出来るから。
僕を迎えに来る貴方の声を聞き、貴方の顔を直ぐ横に見ることが出来るから。
直後に他の男に抱かれるのが分かっていても、たった一時貴方と居られる。
ただそれだけで、僕は幸せに浸れるのですから。