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俺が片思いしている受は、あの完璧超人な攻が好きらしい。
こうなれば当て馬覚悟で攻の奴を妨害して受を取り戻すしかない!
と思ったのにどうして俺が告白されてるんでしょう、攻に

事態はどんどん良いほうに転がっている。
実家から一度も出たことの無かった不定職の俺が、実家を出て就職し自分で飯を食っている。
ただし一つだけ、腑に落ちないことがある。
なぜ俺は恋敵であった完璧超人と同居して、さほどの嫌悪感もなく生活しているのか!

「スズキはムーちゃんの事が好きなの、なんで?」
顔をゆがめて、イチが俺に尋ねる。
「俺にいやな顔をしないからだ」
「はあ、それだけ」
「お前やあの完璧野郎には到底わかるまいがそれだけだ」
イチは取り立てて美形というわけではないが、日常の範囲内で好青年である。
性格も、デブで半引きこもりの俺とずっと友達でいてくれるくらいいい奴だ。
女に嫌な顔をされる機会などそう無いだろう。
しかし性格からか誰に対してもいい人止まりで、深い付き合いはあまり良くないようだ。
「でもムーちゃんは」
「わかってるよ、完璧超人のことが好きなんだろう?」
イチとムーちゃんとカンさん―完璧超人の名前である、が勤めるオフィスに俺は週二のペースで配送に行く。
有名な会社ではなく地元の零細企業なので、作業服にぼろぼろの台車姿である。
暗い表情で挨拶もせず身なりの悪いデブは、当然オフィスの人々から嫌われる。
しかしムーちゃんと認めたくは無いがカンさんだけは、かたや笑顔、かたや尊大という態度の違いはあるのだが、
全くフラットな対応で俺を迎えてくれた。
「俺は人の好意に慣れていないんだ。優しくされたらすぐにカーッとなってしまうのはよく分かってる」
「で、どうするの?好きだって言うの」
「一応な。まあ、当て馬にもならないだろうけど、完璧超人の引き立て役にでもなってくるよ」
それで、僅かでも俺のほうを振り向いてくれたなら御の字だ!と俺は笑った。
こんなに勢いづいている俺を見るのは久しぶりだ、と言わんばかりにイチが瞠目する。
「うん、じゃあわかった。でもね、ムーちゃんとカンさんはね」
「くどいぞ。俺は決心したんだ。今度の配送の日に言う、申し訳ないが良かったら近くにいてくれ」
決心を鈍らすような事を繰り返し言うような奴ではないはずなのに、今日のイチはえらく言い募る。
それだけ、俺の行動が無謀なのかもしれない。
「わかった、じゃあ仕事場じゃちょっとあれなんで、四人で飲みにいこう」
俺が緊張しなくて良い様に、座敷席のある大衆的居酒屋が飲み会の場所となった。
座席には俺とイチが隣同士、俺の前にカンさんでイチの前がムーちゃんだった。
「始めまして、ではないですね、ハチマルイチ運送のスズキさん」
「あ、そうです、スズキです」
まさかカンさんに名前を覚えられているとは思わず、ぎくりとしてしまう。
確かに胸ポケットにはネームプレートを付けているから、知っていて当たり前といえば当たり前なのだが。
「スズキさんねー、荷物の扱いが丁寧だし、時間通りにきてくれるから僕好き!」
ムーちゃんにも名前を知られていたらしい、というか全く意味合いは違えどもいきなり意中の人から好きと言われ、
俺の脳みそは一気に沸騰した。顔も赤くなっている気がする。プライベートでは一人称僕なのか。
「でもまさか、イチとスズキさんが知り合いだとは思わなかったよ」
「もっと早くこんな場をもてれば良かったのにな」
散弾のように浴びせられる好意に、俺は息の根が止まりそうになった。
この客観的に見てもどこに出しても恥ずかしくない二人がなぜこんなに俺に興味を示すのか。
「でさ、イチ君。スズキさんは僕らのこと知ってるの?」
イチは気まずそうに視線を俺に投げた。ああ、やっぱり二人は付き合っているんだな。
男同士と言うのはやはり、実際社会ではそれほど認知されていないものなのだろう。
「俺は気にしませんよ。俺だって」
ムーさんのことが好きです。と続けようとする前に、テーブル越しに伸びた長い腕に手をとられた。
じわりと暖かい感触が手から全身に満ち、そして僅かに触れた部分から腕の持ち主、カンさんの方へと暖かい何かは流れていった。

柔らかく手が離され、じんわりした感触も引いていった。
「やはり、美味しいな」
「えー、じゃあ僕もー」
「駄目だ、お前にはイチ君がいるだろう。これは私のものだ」
目の前で交わされる会話の意味が一切わからず、俺は呆然とするしかなかった。
「俺の話を最後まで聞かなかったお前が悪い」
横で思い切り溜息をつき、ビールを一気飲みしたイチが口に泡をつけたまま俺をにらんだ。

ムーちゃんとカンさんは、人間の生命エネルギーを吸って生きる人外であること。
見た目よく能力も性格も平均より上なのは、そのほうが効率よく人間から生命エネルギーを得られるから。
要するに擬態である。原型はとても見せられたものではないらしい。
「で、ムーは現在イチ君を栄養補給源として養殖しており、私は現在特にそういったパートナーを持たない」
くいくい日本酒を飲みながら、カンさんは言う。よこではムーちゃんが脂身を避けて焼き鳥を齧っている。
どこをどう見ても人間にしか見えない。
「スズキさんが配送に来るようになり、ほんの少し“味見”をしてみたんだよ」
カンはつまみ食い癖が酷いからね!とムーちゃんが茶々を入れる。
「イチもそうだけど、スズキさんもすごくエネルギーが美味しいんだ」
「狡猾であったり、人を欺くのに慣れるとエネルギーは不味くなる。
スズキさんもイチ君も人間内での立ち回りが上手くない代わりに、心は純粋だったと言うわけだ」
あまりの超理論とよく分からない褒め言葉にくらくらした頭を、俺は酒でごまかした。
イチを横目で見ると、驚いた様子は無い。本当にムーちゃんに養殖されているのだろうか。
俺の無言の圧力に屈したイチが、口を開いた。
「嘘じゃないさ。俺はあまりカロリーを気にせず飲み食いする。そしてムーちゃんにエネルギーをあげる。
さっきカンさんがスズキにしたのは味見みたいなもんだ。本当の食べ方はもっとえぐい」
「じゃあ、俺がムーさんの事が好きって言ったとき、変な顔をしたのは」
「この妙な共存関係にお前を巻き込みたくなかったからだ」
どう見ても、イケメン若手社員と麗しいヤンエグにしか見えない向かい側の二人は、何か小言で話し合っている。
何も知らない状況でその様子を見れば、ああもしかして付き合っているのか位にしか思わないが
全てを知った今、それは同属同士による秘密裏の会議にしか見えなかった。

「スズキさん」
急にムーちゃんに呼ばれ、俺は思わず背筋を伸ばしだ。
「僕はね今イチからのエネルギーだけで十分なんだ。だからごめんね?パートナーにはなってあげられないよ」
「あ、はあ、そう、ですか」
この期に及んでまだがっかり出来た自分に驚いた。
「私ではどうかね?」
カンさんの発言に、俺は固まる。

「何、余剰エネルギーを吸い取るダイエットマシーンとでも思ってくれたら良い。
なんなら配送に来たとき五分程時間を貰えるだけでもいいぞ」
なんで勘違いにしろ恋敵であった野郎にエネルギーをやらにゃならんのだ、と思う気持ちしかなかった筈なのに
酒の勢いと、ムーちゃんの後押しでうっかり俺はカンさんのエネルギー源になる約束をしてしまった。
今考えると、あの宴会は全て仕組まれたものであったような気がする。

それから、俺の人生は少しずつ色を変えていった。
まず単純に痩せた。もともと学生時代は運動部で、食欲だけが落ちずに太ったタイプだったからだ。
さらにムーちゃんとカンさんは擬態とはいえ高水準な生活を送っている。それに少しずつ影響され、暗い引きこもりから自然と脱していた。
そして、だ。気付けば俺はカンさんとアパートで二人暮らしをし、共存関係とはいえ、日々それなりに楽しく過ごしている。

人生全くどうなるかわからないものだ。