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朝飯はご飯と味噌汁だろ?パンなんか食えるかよ!

仕事を持つ人間にとって、朝は戦争だ。
素早く身支度を終え、朝食の準備を整えてから一度寝室へ戻る。
ダブルベッドを独り占めして、尚も惰眠を貪る恋人を揺すって起こす。
一向に覚醒する気配がない。仕方が無いので蹴りを入れる。
毛布の下からくぐもったうめき声が上がるのを確認してキッチンへ向かう。
チン、絶妙のタイミングでトースターが軽快な音を立て、焼き上がりを知らせた。

「朝飯はご飯と味噌汁だろ?パンなんか食え…」
いつものようにごねるヒロアキの大口にトーストを突っ込み、グレープフルーツジュースの入ったコップを手渡す。
毎日同じことを言っていてよく飽きないものだと少し感心する。
それ程までにあのミソスープが恋しいのか。……それとも、日本が恋しいのだろうか。
「じゃあ、俺はもう行くから。ちゃんと鍵が掛かったか確認してから家を出るんだぞ。」
「ん。」
「なあ、ヒロアキ。…日本に帰りたくなったか?」
ヒロアキはハァ?と間の抜けた声を発した。
切れ長の目を丸くして、きょとんとこちらを見詰め返す。
先の一言に含められた意味を吟味している様子だったが、直にいつもの、人を食った笑みを浮かべた。
「ああ、そういうこと。お前色々と考え過ぎ。和食贔屓の俺としてはさ、フィルが作った和食、食ってみたいじゃん。」
「…それだけ?」
「そんだけ。」
「そうか。朝は無理だ。時間がないからな。今度こそ本当に行くぞ。」
「ん。気をつけて。」

毒気を抜かれた気分のまま、出掛けのキスも忘れて部屋を後にする。
今夜はスキヤキでも作ってみようかと考えながら、無駄にした時間を取り戻すべくバス停に向かって走った。
間に合うかどうかは五分といったところだった。