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少しだけカニバリズム

俺の好きな男は痛覚が鈍い。
先週は電柱にぶつかって額から血を流しながら平然と歩いていた。
先月は車に轢かれ腕を骨折したのに一日気付かず仕事を続けていた。
「考えてみれば、痛覚だけが鈍いというより、全体的に鈍いんですね。
 それでよく怪我をするから少しくらいでは気にも留めない」
「そうとも言えるかもな」
俺は男の上にまたがり、シャツのボタンを一つずつ外していく。古い傷跡を少しずつ露出させながら笑うと、男は蛇のようだと揶揄した。
「好きなんですよ」
「俺が?俺の体が?俺の体についた傷が?」
「さて…難しいですね」
すべてのボタンをはずし終えた後で胸にそっと唇を寄せる。
そして、心臓の上のあたりの皮膚を、噛んだ。犬歯を食いこませ、引っ張りあげるようにして噛みついていると、やがて皮膚がぷつりと切れて口の中に血の味がしみ込んでくる。
そっと口をはなして、真新しい傷口ににじんだ血をなめとる。
男は苦笑しながら俺の動作を見ている。
「また同じところだ」
「消えかかっていましたから、上書きです」
「よくやるよ、変態」
喉の奥で笑う男に、俺もつられて小さく笑う。
「俺が変態で嬉しいくせに」
言ったあとで、少し話していた間に滲んだ血を丹念になめとった。
「本当はね。俺は貴方の、どこか少しでいいから、食べてみたいんです。
 でも、貴方の体の、どこもなくなったら困るでしょう?」
「確かに、今でさえ行きにくい温泉やら海やらにさらに行けなくなるな」
男の返答は俺の欲しいものとは少しずれていた。わざとずらされていた。
お互いそれを承知の上で、目を合わせてほほ笑む。
「だからヴァンパイアのまねごとで我慢してあげてるんです。
 …さて、次は膝に噛みついてみたいので、上体を起こしてください」
苦笑しながら起き上る男の眼は、欲情で濡れている。
結局のところ変態同士でうまくおさまっている、そんなことを考えながら
男のズボンに手を伸ばした。