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盲目のご主人様

「今日の天気はどうだ?」
ベッドの背に寄りかかり俺の手を握ったままご主人様が聞く
今日の彼は機嫌が良さそうだ
「とても良い天気ですよ。ぽかぽかしていて、風も丁度いいです」
手を握り返して俺はそう答える
きっとピクニックをするには最高の天気だ
「そうか…そういえばなんとなく光が明るい気がする」
ふわりと笑う横顔が、俺の心を撫で上げる
貴方の目が見えなくなってどのくらいたっただろう
幼かった貴方は、今でも俺の顔を覚えているだろうか
「そういえばお母様たちへの手紙は出してくれたか?」
ああ、貴方はいつまでも無邪気なままでいて
握った手をそっと置いて俺は答える
「ええ、もちろんです。きっとまたすぐに返事が来ますよ」
俺の顔が貴方に見えていなくて良かった
「うん、返って来たらまた読んで聞かせてくれ。返事も僕が直接書けたらいいんだけど」
少し悔しそうに言う貴方の頭を撫でようとして、寸前で手を止める
「ご主人様の字はあまりきれいではないですから。目が見えていても私が代筆いたしますよ」
そうおどけて言うと、的確な位置にパンチが飛んでくる
「そうだ、屋敷中の窓を開けてくれ。たまには風を通さなくちゃな」
俺の方に顔を向けて無邪気な笑顔を見せて、貴方は哀しいことを言う
ああ、貴方はいつまでも無邪気なままでいて
何も知らずに、現実なんて知らずに、そのままで
「はい、今すぐに」
ベッドの横から腰を上げると、部屋の扉を開けて外へ出る
今日は本当に天気がいい
俺はポケットから一通の手紙を取り出して開ける
『お母様、お父様、元気ですか』
俺が代筆したその手紙に、返事を書くのは俺だ
貴方は、哀しい現実など知らないままでいて
目の見えない貴方に真実を隠し続ける俺のことなど、知らないままでいて
小さな小さなこの家で、窓などたった一つしかないこの家で
出すあてのない手紙を書きながら、返ってくるはずのない返事を読みながら
俺は貴方を守り続ける