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はじめての一人暮らし

「こんなもんかな」
掃除を終えた後の部屋にダンボールを運び込み、家具を配置。
とりあえず必要最低限のものを取り出して、とりあえず当面の生活の場は整った。
業者に手伝いを頼んだとはいえ、やっぱり一日仕事だったな
俺はテーブルの上に烏龍茶のペットボトルを置くと、コップに注いで誰ともなしに
乾杯の動作をとってみた。

今日からここが俺だけの部屋。
兄弟が多い家で育ったせいでプライベートというものに縁の無かった俺にとっては
小さなアパートの一室でもここは聖域だ。
思い浮かぶのはこれからの新生活。もちろん不安もあるが、一生に一度の大学生活に
はじめてのひとり暮らし…期待の方も当然大きい

とりあえず今日の夕飯は何にするかなぁ…その前に実家の家族に電話入れた方がいいかなぁ
などと考えていた俺は、ふと本棚に置いてある写真立てに目を留めた。
「あき兄ちゃん…」
写真の中では俺と、近所に住んでいたひとつ年上のあき兄ちゃんが並んで写っている。
去年、丁度今の俺と同じように東京の大学に入学する為に実家を出て、ひとり暮らしを始めた兄ちゃん
あき兄ちゃんもひとり暮らしを始めた時には、こんな風に期待と不安が入り混じっていたんだろうか?
「あーそれ俺が地元出る時にお前と撮った写真かー懐かしいなあ」
突然背後から無茶苦茶聞き覚えのある声がしたが、無視を決め込む
「こん時お前、今生の別れみたいな顔してたよなーいやー可愛かった、可愛かった」
無視
「そんで『あき兄ちゃん、はじめてのひとり暮らしだから羽目外してすぐに彼女作って連れ込んだり
するんだろ!』とか言って顔真っ赤にして…うわっ!!」
無視したかったが、ムカついたのでその辺にあった座布団を投げつけてやった。
「なんだよ、照れんなって…大体、だ。どうせ同じ大学、同じアパート、隣の部屋…だったら同居した
方がお得だし安全だろ?なんでわざわざ隣に部屋借りるかね」
「…こないだ電話で話したろ、ひとり暮らしをしてみたかったんだよ」
「ひとり暮らしなんて、そんなにいいもんじゃないぞ?それより俺はお前と同居生活したいなー
一緒にメシ食って風呂入って一緒に寝て…」
「そろそろメシの支度するから帰ってくれる?兄ちゃん」
俺は後ろから抱きつこうとしたあき兄ちゃんを避けながらそう言った。
嘘ではない、いい加減に腹が減ってきたのだ。家族への電話はその後でいいだろう
そんな俺にあき兄ちゃんは言った。
「お前知ってる?ひとり暮らしでカレー作ると余るんだぜ」
ふーん、だから?
「昨日大鍋いっぱい作っちまって余ってるんだよ、一緒に食わねぇ?」
…食いたい。
抗いがたい誘惑に、俺はとうとう頷いてしまった。
「そうかーそうだよなー」
あき兄ちゃんはそんな俺の頭をにこにこしながら撫ぜたのだった。

なんでこう、兄ちゃんには勝てないんだろう
それがたかだか1歳上というだけの年の差だけでは測れない気がして
あき兄ちゃんに追いつきたい、大人になりたいのその一心で同居の話を蹴ってひとり暮らしを始めた
なんて悔しいから絶対に教えてやらない