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あの楽譜は。

放課後、久し振りにピアノを弾きに来た。
今はテスト期間中だし、残っている生徒もほとんどいないだろうから誰にも邪魔されずゆっくりとピアノが弾ける。

意に反して音楽室のドアが薄く開いていた。
音を立てないように中を覗くと、クラス位置の優等生の彼がいた。
成績は常に学年トップ、休み時間も騒いでいる俺らを尻目に一人で本を読んでいる。
そんな彼が音楽室に?

彼はピアノの前に座って一心に何かを書き付けている。
勉強なら家か図書室でやれよ、と心の中で毒づいたときにペンを置く微かな音がした。
次いで流れて来る聴いた事のない旋律。

一通り引き終わって満足げな笑みを浮かべた。
笑っているところを見たのは恐らくこれが初めて。
そしてゆっくりと鍵盤に指を置き、最初から。

懐かしいような、暖かいような、ほっとする旋律。
鍵盤の上を跳ね回る白い指。

最後まで引き終わると立ち上がり、ピアノの蓋を閉めてドアに向かった。
慌てて身を隠すと、彼は気付く様子もなくいつもの優等生の顔に戻って階段に姿を消した。

音楽室には置き忘れられた楽譜。
乱暴な訂正の跡や細かい文字の書き込みで埋まっている。

この楽譜は、この旋律は、彼が……?
俺はその楽譜を鞄にしまうと彼を追った。