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来ぬ人を待つ

日が昇る頃に起き出して、まずするのは火種の確認だ。灰の中でちりちりともえる赤いものを見て安心する。
ガラリと戸を開けると外はもう冬だった。冬の空気はこころを澄ませる。
澄んだこころが何かを思い出そうとする。
『春になったら。』
息を吐く。遠くの道が白く光っている。そしておそらく、家の中の火種も、灰の中で光っている。
『春になったらまた寄るよ』
言って、一見しても二見してもしのびとは知られぬ地味な装いの彼は笑ったのだ。うんと自分はうなずいたのだ。彼の生業を知っていてうなずいたのだ。
『春になったら。』
声の調子も苦いような笑いかたも、はっきり覚えている。
そうだ、彼の薄い皮膚も、その上についたいくつもの傷も覚えている。
覚えている限り僕は。