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照れ隠しで抱きしめる

リョウタはめったに喋らない。代わりにしょっちゅう俺を抱きしめる。
あいつが学校から持って帰った絵やら習字やらをほめると、黙って抱きつかれる。
上級生(俺のクラスのやつだった)とケンカをした時も、
その場では顔色ひとつ変えなかったのに、俺が後で「強かったな」と言った途端
くっついてきて、しばらく離れなかった。
この前なんか、二人で河川敷で遊んだ帰りに夕焼けを眺めていると、
いきなりギュウっとされて苦しいくらいだった。
そういえば引っ越してきたばかりのあいつに
「今日からお前俺の弟な」
と言った時も、うなずく代わりに抱きついてきた気がする。

ある日、いつものように寄ってきたリョウタを見てふっと気づいた。
こいついつの間にか俺よりデカくなってないか?
黙ってすがりついてくる仕草はまるで子供なのに、
俺の身体に回された腕も込められた力も子供のそれではない。
なんだか癪に障った俺は、たぶん初めて、リョウタを無理やり引き剥がした。
「!?」
「お前さ、もういい歳なんだからガキみたいな真似すんなよ」
言ってしまってからハッとした。あいつが、すごく悲しそうに眼を伏せたから。
「……分かった」
しばらくの沈黙の後、ぼそりとそう言うと、リョウタは俺に背を向けた。
「あ、リョ――」
焦って呼びかけたけど、あいつは振り向かなかった。
「ガキみたいな真似したのは俺の方だっての……」
それから三日が過ぎて、俺はひたすら後悔していた。
あれからリョウタを避け続けていたが、予想外にキツい。
ここは年上らしく潔く謝りに行こう、と決めた矢先、
「……秀兄」
当のリョウタが立っていた。先を越されたか。
なんか最近こいつに兄貴分らしいところを見せられてない。このままではなんか嫌だ。
「秀兄……俺」
「あー待てリョウタ! 先に言わせろ」
「?」
「こないだは悪かった。なんていうか、お前最近俺より背ぇ高くなったから、悔しさ?嫉妬?
 まあそんな感じでさ、そりゃいくつになってもお前はお前だけど――」
「俺は!」
リョウタが珍しく、俺の言葉を遮るように大声を上げた。
一瞬、いつもみたいに抱きついてくるのかと思ったけど、
リョウタはその場から動かず、俺をまっすぐ見ていた。
「……俺はもう、いい歳だから……ちゃんと、言葉で言う」
「え?」
「秀兄、この前のこと、ごめん。……いつも、ありがとう。…………だいすき」

何か言おうとしたはずだけど、顔と頭が熱すぎて声が出せなかった。
だから代わりに、リョウタをきつくきつく抱きしめた。
こうすることで俺の気持ちは伝わるだろうか。
今までお前がこうやって伝えてくれたように。