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女王様受

萩本さんと付き合うようになって、そろそろ三ヶ月。
今まで付き合った女の子達とは、大体三ヶ月で最後まで致してきた。
男同士の相場なんて知らないけど、いい加減手を出してもいい頃合だと思う。多分。きっと。
などと決意して、甘い妄想とともに枕を抱えてごろごろしていたら萩本さんから電話が来た。

「もしもし、里中です」
「あ、オサム?ちょっとさー、今からウチ来ない?つーか来い。五分で」
「へ、あの……え!ちょ、萩本さ……あ、分かりました!」
俺がそう答えるなり唐突に切られた通話は、如何にも萩本さんらしい傍若無人ぶりだった。
いつもなら眉を寄せてしまうような困った行為だが、今の俺にとってはもう「そういう」お誘いにしか受け取れない。
ついついにやけてしまう顔を引き締めつつ、俺は急いで部屋から駆け出した。

萩本さんの部屋は広い。ついでに綺麗だし、センスもいい。
住んでいる人の色んなものがにじみ出ている部屋だ。何より、萩本さんが居て、萩本さんの匂いがする。
「おい、オサム。お前何?なに人んちの玄関先で深呼吸してんの?馬鹿なの?若干キモい。とっとと上がれ」
「あ、すいません!……すいません。お邪魔しまーす」
久しぶりに上がる部屋の空気が嬉しくてこっそり吸い込んでいたら、怒られた。
ラフな部屋着の萩本さんは、風呂上りらしくいつもの香水とは違う石鹸のいい匂いがする。
……あー、ドキドキしてきた。もうこれ、今日はイイよってことだよな。
夜に風呂上りのとこ呼び出されてんだもんな。そうだよな。
バクバク言う心臓を押さえつつリビングに通される。
「じゃ、そこ座れ」
そこ、と言って萩本さんはソファの前を指差し、自分はソファに座り込んだ。
言われた通りに目の前に座り込むと、萩本さんはなぜか銀色のものを俺に渡した。なんですかこれ。
「ん」
不信に思って萩本さんを見上げると、彼は寛いだ体勢でソファに寄りかかり指先をこちらに向けて差し出してきた。
「やすり。砥げ」
……かしこまりました。差し出された手を取って、銀色のやすりを爪先に当ててしゃこしゃこと砥ぎ、形を綺麗に整えていく。
やってみると意外にも楽しかった。手、繋いでも怒られないし。萩本さんもご満悦だし。
それにしてもこの人、暴君気質ではあるけどほんっと可愛いなあ。爪を砥ぎながらちらちらとどこか眠たげな顔を伺う。
電話一本で恋人(のはずだ!)を呼び出して爪砥ぎさせるような人だけど、マジで可愛い。好きだ。
「終わりましたよー」
「……よし。まあまあだな」
「ありがとうございます。んで、ご褒美は?」
両手の爪砥ぎが終了して、出来栄えを確認している萩本さんに問いかける。
と、萩本さんは両手から目を離して俺にチラリと視線を投げかけた。
「……なあオサム」
「はい」
「お前俺のこと好きだよな?好きなんだよな?」
「大好きですけど」
「じゃ、いいじゃねえか。恋人なら俺の我侭くらい、何にもなくても叶えろよ。なあ?」
あー……ズルい。そんなん言われたら、俺もうなんにも言えないじゃないですか!
きっと全部分かっててやってんだろうなこの人。俺が超期待してここまで来たこととか。爪砥いでる間も地味に興奮してた事とか。
ついでに言うなら、俺がこの人の事大好きすぎて未だに手が出せてない事にも気づいてて、からかってるんだろうな。
性格悪いなあ。
「……ん、帰っていいぞ」
「ええっ!?」
「なんだよ。何か不満でも?」
無いですよ。寝る前に会えただけでも幸せですよ。でももうちょっと位幸せにしてくれても罰は当たりませんよ?
などと言える訳が無い。言えていたら、とっくにアレだったコレだってしいる筈だ。
すごすごと立ち上がって帰ろうとしていたら、萩本さんが唐突に俺の手をつかんで何かを握らせた。
「……やる」
「えーと……、やすり、ですか?」
手の中にあるのは、ついさっきまで俺が握っていた爪やすりだった。銀色のピカピカしているヤツ。
「いつでも爪、綺麗にしとけ。俺のためにな。……ま、それができるようになるまでお預けだ。いい子で待ってろ」
「…………はーい」
ここまで俺の気分を盛り上げといて、お預けですか。そうですか。
でもいいです。すげえ嬉しいです、萩本さん。
だからそろそろキスぐらいはいいですよね?と思って抱き寄せたら、するりと逃げられ足蹴にされた。
痛いけど幸せ。