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怖がり×幽霊

母親の実家が寺、というのが、君の一番の悩みだって、僕は知ってる。
夏休みに里帰りする時には、聞いたこともない病名をあみだしては、行くのを嫌がっているのも知ってる。
そこまで嫌がっても、親に殴られて来るハメになっているのも、知ってる。
でも、僕は君を待ってるから。

あれは、小学生の時。
「おばけなんてないさ」と勇ましく歌っている君が、あまりにもかわいくて、思わず墓の間から出てきてごめん。
ドロドロドロ、とか、効果音とか、照明とか、色々つけてまで怖がらせてごめん。
それから毎年、君が来るたびに、ご両親の目を盗んでは怖がらせてごめん。
一度は、君が寝ている布団に忍び込んだこともあったよね。あの時の君の顔よかった。
お風呂入ってシャンプーしてる時に、髪の間から、僕の手を出して、君の手を握り締めた時は、失神してたね。
ごめんね。失神した時は、さすがにやりすぎた、と僕も思ったんだ。反省した。

でも、僕は知ってる。君は、来年、実家を離れて都会に行くつもりだって。
都会にいっちゃったら、お母さんの里帰りなんて、ついてこないよね。
だから、今年が最後だって、知ってるんだ。だから、色々と用意したよ。僕のこと忘れないように。

彼の乗る車がやってきた。ここ数年で、すごく大きくなった君は、キョロキョロしながら車を降りてきた。
「まだ怖いのね、あんた。おばけなんていないって言ってるじゃない」
お母さんにポカリと殴られて、憮然とした顔をしてる君。その顔は、小学生の時とかわらない。
お父さんが荷物を降ろしているのを手伝う時も、玄関に入る時も、あたりをうかがっている。
玄関の中からは、「あいかわらず、寺が怖いなんて、子供だな、お前は」と、住職の呆れている声が聞こえる。
ごめんね。僕が毎年怖がらせているから。今年で終わりだから、許してね。

住職と君たち家族は、しばらく4人でお茶を飲んで、笑いあった後、お父さんとお母さんは、親戚の挨拶まわりを
してくる、と、家を出て行った。住職と君二人っきり。僕は、それを見てる。
君は、しばらく黙った後、ポツリと住職に言った。
「なぁ、じいちゃん。実は俺、春から仏教大学に行くんだ。…立派な坊さんになったら、この寺くれる?」
住職は、持っていたお茶を落とすほどにびっくりしてた。
「お前は、そんだけお化け嫌いなのに、何で坊さんなんかになるんだ」
「いや、怖いけど、嫌いじゃないんだよ。っつーかさ、将来やりたいこととか考えてたらさ、ここのことしか
 考えられなくて。…なぁじいちゃん、幽霊って、この世に未練があるんだろ?」
「あぁ、お前が毎年おどかされてる、とか言ってる幽霊か」
「うん…。なんか、毎年あって、死ぬほど怖いんだけど…。何とかしてやりたいなー、と思って」

僕は、その会話をする君を見ていた。何もできなかった。近くにあるテレビに、僕の映像でも映そうかな、と
思っていたのに、それすらできなかった。動けなかった。
…この先も、君に会えるんだ。

「だからさ、じいちゃん。俺、どれぐらいかかるか分からないんだけれど、立派なお坊さんになれたら、この寺
 くれる?」
「孫はお前しかおらんし、跡継ぎができるなら、万々歳だよ。でもお前、お坊さんになったからって、幽霊を
 成仏させられるわけじゃないぞ」
「成仏? あー、そうじゃないんだ、じいちゃん。成仏させる気はないんだよ。俺、あの幽霊に一矢むくいて
 やりたいんだ」
「はぁ? 幽霊に?」
「手は考えてるんだ」

君が、その言葉を口にした時、幽霊なのに、僕の背筋がぞくりとした。
でも、僕は待ってる。君がここにまた、来ることを。君の「手」が何なのかは、楽しみにしてるよ。
今年、色々と用意した手は、来年にまわそうかな。