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方向音痴二人組

「こないだ、美味しい店教えてもらったんだ」
確かこの近くにあった筈…とAは言ってウロウロするが、行けども行けどもそれらしい店は見当たらない。おかしいなぁと首を傾げるAに、どの辺だったのかと訊いてみると、クラブZの近くだと言う。
「A…クラブZは、こっちじゃないよ…」
「え? そうだっけ?」
「全然反対の方向じゃないか、まったく!」
そういやコイツは方向音痴だった…。その事をすっかり忘れていた俺にAを責める資格はないかもしれないけど、それにしても逆の方向に来るとは。
呆れながらもAの手を引っ張ってクラブZを目指す。最近は店が色々新しくなって通りの風景も変わっちゃったらしく、まぁAが道を間違えるのも無理はない。俺も間違えそうだもんな。
ほら、この角を曲がれば、3件目にクラブZがある…はず…なんだけど……。
「あれ?」
店が無い。いや、店はあるけど、クラブZじゃない。
「B…ここ、見てみろよ」
Aが気の抜けた声を出して、電信柱の町名表示を指差した。そこに書いてあるのは、W町3丁目。……クラブZって、V町2丁目じゃなかったっけ。
「なんで俺たち、こんなところにいるのさ」
心底不思議そうな口調でAが呟く。そんなこと、俺が聞きたいよ。っていうか……こいつ、まだ気付いてないのかな。俺は気付いたぞ、重大な事実に。でもわざわざ教えないでおこう。そんな、俺も方向音痴だったんだと今更思い出しちゃったことに。
「なぁなぁ、B-」
「なんだよ」
「俺たちって、いっつも行きたい店に辿りつかないなー」
呑気なAの言葉は、普段から迷い慣れている奴独特のもので。とか言って、それに同意を示す俺の返事も、きっと迷い慣れてる口調なんだろう。
「とりあえず、この店に入っとこうか……」
そんな風に成り行きで入った店は、結構雰囲気も良くて、味も良かった。これって怪我の巧妙ってやつ?儲けた儲けた。
そんな風に、新しい店を開拓した事を喜んだ俺たちが、その店までの道順を全く分かっていないことに気付いたのは、一週間後の夜。全く別の街角で、初めて見る店の前に辿りついた時の事だった。

今では、どれだけ新しい店に出会えるかを試すのが、俺とAの毎週末の恒例行事となっている。