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方向音痴二人組

美しい大自然。晴天の暗い夜の空には、ぽっかりと丸い満月。
遠く鳴る虫の音がリリリ…と辺りを合唱の渦に巻き込んでいる。
生い茂る森の中、切り株の上に背中合わせに座った男達は、空を見上げて、ぼんやりと呟いた。

「……で?何処だよ」
「ここ?切り株の上らしい。」
「お前の伯母さんの別荘は何処だって聞いてんだ!」
「知るかよー。オレだって初めてなんだっちゅーの」
「お前がこっちの道であってるって言ったんだぜ?!」
「途中で、アッ。こっちが近道っぽい、探検探検♪って言ったのてめーだろうが」
「…………」
「…………」

もう何度目かの口喧嘩。
お互いにムスっとしながら、ほぼ同時に立ち上がる。

「もー分かった!お前なんてしらねー!俺はあっちに行くし!絶対あっちの予感だし!」
「あーあー、行ってらっしゃい。オレァこっちに行くしぃ。じゃ、別荘でなー」

じゃーな、と言って赤いキャップの男は南に。
黒いキャップの男は北にと、反対方向に歩んで行った。


―――ザク、ザク、ザク。


歩けども歩けども別荘らしきものは全く見えない。
どうやらまたも迷ったらしかった。
幸い深い森では無い為、遭難とまでは行かない。
しかし随分と歩いた為に体は疲れてくる。

一人になってから気づく、相方の存在。
喧嘩をしながらでも、誰かと一緒の方がまだ安心は出来るというもので。

「くそ……意地張るんじゃ無かったな…」
暗い森が今にも襲ってくるような錯覚。
虫の音ってこんなに五月蝿かったか?
遠くで聞こえる遠吠えは、まさか狼じゃないだろうな。

小さな物音にも過敏に反応してしまう。
赤い帽子を被った男は、何だか泣きそうになっていた。
気がつけば、両足はカールルイスばりに物凄いスピードで駆け出していた。
「…………」
「…………」

気がつけば、男二人は切り株の前に居た。
先程と同じ場所に、同じタイミングで戻って来ていたのである。

「別荘に行くんじゃなかったのかよ」
「てめーこそ。」

フーと鼻で溜息を付く黒い帽子の男。
それを見て、赤い帽子を深く被り直し顔を隠しながらポツリと男は言った。

「………なァ」
「なに」
「一緒に行こうぜ」
「……てめー、怖くなったんだろ」
「おう」
「…バカ正直なやつ」
「うるせぇよ!」

怒鳴った声が掠れている。
唇を尖らせて、涙を堪える仕草は小さい頃から全く変わっていない。
仕方無ぇやつ、と男が赤い帽子ごと相手の頭を抱き寄せた。

「今度は向こうの道行ってみようぜ」
「……おう」
「涙と鼻水拭けよ」
「ちがう。これはサラリとした水と粘っこい水だ!」
「あー、はいはい……」


彼らが別荘に着くのは、まだまだ時間の問題である。
ただ――――
まだ別に着かなくてもいいや、とお互いに思っていた事は、勿論互いが知る事も無く―――




彼らが淡い恋の迷路から抜け出せるのも、まだまだ先の話。