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思われニキビ

「あー、思われニキビ!」
「はあ?何言ってやがる」

頬杖をつく右顎にポツリとできた吹き出物を指差して言えば、彼は面倒臭そうに視線だけをこちらへ寄越した。
朝日が射す教室でキラキラと照らされた彼の顔に、不似合いな赤い印。
プクリと腫れたそれはいやに性的で、硬派な彼の整った顔を、自分の劣情が汚しているんじゃないかなんて、自惚れた幻想がちらりと頭を過る。
自分のことながら朝っぱらからおめでたい頭だ。

思い思われ、振り振られってね、顔にできたニキビの場所で占いができるんだって
そう説明すれば、一段と呆れたような顔をして、ナンパなテメーが女相手に話すネタだな、なんて嫌味を吐かれた。

「もー、こんなの女の子じゃなくたって誰でも知ってるでしょーよ」
「俺はそういう占い事にも、色恋沙汰にも興味ねえよ」

第一こんなの、テメエに言われるまで気付きもしなかったよ。
そう言うと、彼はこちらから視線を外して、また元のように窓の外を向き直ってしまった。
僕にも、その真っ赤な出来物にも、まるで興味がないかのように。
「・・・誰かに想われてたとしても、興味がないってこと?」
「ああ、どうでもいいね」

今度は、話しかけても、もうこちらを向いてすらくれない。
素っ気無い彼の態度に、この教室に入ってきた時の僕のテンションはすっかり下がってしまった。

その赤に少しでも手を添えてくれたら。
僕の話に少しでも何かを意識してくれたら。なんて。
期待した僕が馬鹿だった。彼はその出来物と同じように、この想いさえきっと知らぬ気づかぬ振りをするのだから。

そうやって何度想いを絶たれてきたのかわからないけれど、それでも期待してしまう僕は、どこまで浅はかで、図々しくて、諦めが悪いんだろう。
どうか彼のその顎の印が、できるだけ長く消えずいてほしいだなんて、女々しい祈りだけをしながら、彼の綺麗な横顔をただ眺めていた。

(もしそれが、あと一週間消えなかったら?)
(彼の顎に触れてみてもいいだろうか)

心配する振りを装って。勇気を出してもいいだろうか。
臆病で情けない僕は、こんな小さなニキビに頼ることでしか、彼に近づくほんの一歩すら踏み出せないでいる。