初恋の女の子

"ひろみちゃんが来てるわよ。あんた仲良かった……"
お袋からのメール、最初の一文で俺は即効きびすを返した。
合コンはパスだ。わりぃ、岡本。

ひろみちゃんは天使みたいに可愛い子で、まぎれもなく
俺の初恋だった。原点と言っても過言ではない。
小学校に上がる前に親の転勤とかで引っ越してしまって、
お互いにこどもだったから連絡先も何も聞かず
それっきりになってしまったが、けして忘れはしなかった。

思えば、今の俺はひろみちゃんの言葉で出来ているようなものだ。
「強い男って憧れるよね」体を鍛えました
「でも賢くないと駄目なんだよ」勉強もしました
「楽器の演奏とかカッコいい」ピアノ教室に通いました
……
おかげで、自分で言うのもなんだが今やかなりの高スペック。
ぶっちゃけモテる。でも、可愛いと思う女の子と付き合ってみても
長続きはしなかった。それも、心の奥にひろみちゃんがいたからかもしれない。

だが、そのひろみちゃんが俺に会いに来たのだ!
何でもこっちの方に用事があって、記憶を頼りに訪ねて来てくれたらしい。
うちは引っ越してなくて良かった! 自営業の親父万歳!

「でも驚いたわぁ。昔はうちの孝明より華奢で女の子みたいだったのにねぇ」
「はは、母や姉には残念がられます」

玄関を開けた時に違和感は感じたんだ。見慣れない可愛い靴は無くて、
見慣れない、30cmぐらいあるんじゃね?という大きな靴が並んでいたから。
だが、お袋は何を言っているんだ。そしてなぜ青年の声がするんだ。
俺は恐る恐る客間を覗く…お袋の前に背の高いマッチョが座っている。

「孝明遅いわねぇ。ごめんねひろみちゃん」
待ってくれお袋、今そのマッチョにひろみちゃんと呼びかけましたか?

「あ、博己くんって呼ばなきゃね。つい昔のくせで」
敬称の問題じゃない。

なんだ、この状況はまさかあのマッチョがひろみちゃんなのか?
いやそれは無い。無いだろ?誰か無いと言ってくれ。
ひろみちゃんはフワフワで、ニコニコしてて、可愛い女の子のはずだ。
必死で記憶を探るものの、しかし俺と仲の良かったひろみくんは居なかった。
やっぱり、まさかなのか?あの俺より強そうなマッチョが?

「お茶のおかわり入れてくるわね」
お袋が立ち上がってこっちに来る。逃げようかと思ったが間に合わなかった。
「あら、あんた帰ってたの。ほら、ひろみちゃん待っててくれたのよ」
お袋につかまり、半ば押し込まれるように客間に入る。

「孝明くん!」

マッチョがこっちを見て立ち上がった。やっぱりデカイ。
ああ、こいつが俺の初恋の天使だなんて認めたくない。
断固認めたくない…けど

このとびきりまぶしい笑顔は、間違いなくひろみちゃんだ。



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最終更新:2010年03月06日 02:00