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観察日記

「ねぇ、写真とってよ!」
 そんな言葉と共に、満面の笑みでカメラを差し出す白いてのひら。
 言われるままにカメラを受け取ってはみたけれど、何を写せというのだろう。
「写真?」
 首を傾げながら訊ねれば、返ってきたのは笑顔だった。
「これ、おれと一緒に写して」
 その指が示したのは、ガラスケースの中に出来上がった小さな世界。蟻の巣。
「観察日記、つけてるんだ」
 屈託の無い笑み。
 閉じ込められた蟻達は、この間も必死に動き回り、限られた世界の中で自分達の住処を広げる。
 そしていつか壁に突き当たり、この場所が有限である事を知るんだ。
 なんて、残酷なんだろう。でも、この無邪気さがその事実を覆い隠す。
「、ああ」
 カメラを持つ手が、ぬるりと嫌な汗で滲んでいた。
「じゃ、いくよ」
 ガラスケースの蟻と、にこにこと笑うあいつ。
「はい、チーズ」
 パシャリ、シャッターが降りる。
 写真に写された、有限の世界と無限の可能性。

 俺は、きっとガラスケースの蟻。
 恋心という有限の世界に閉じ込められて、いつか壁にぶち当たる。
 そしてこの先もずっと、こいつは自分の残酷さには気づかないんだろう。