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親友が再会したら敵同士

「君とは違う形で会いたかった」
私は鉄格子の向こうにいる彼にそっと語りかける。
「それはこっちの台詞だよ。ビックリしたぜ。皮肉な再会だな。感動も何もあったもんじゃない」
彼は昔と変らない不敵な笑みを浮かべ言った。

長く長く続く戦争。だが、つい先日戦局を決める大一番の戦が起こった。制したのは己が所属する軍。これにより、敵の軍はほぼ壊滅し、我々の勝利がほぼ確実となった。
数の上ではこちらの方が有意だったのにも関わらず、戦いが長引いたのは相手方に敵、味方問わず、伝説となった騎士がいたからだった。颯爽と戦場を駆け抜け、敵をなぎ倒す姿はまさに鬼そのものだと噂だった。
しかし、その鬼にもとうとう年貢の納め時が来た。負けが濃厚の中で最後の最後まで戦ったが、とうとう捕らえられてしまったのだった。
私はその男とは違う前線にいたため、彼を見たことはなかった。だから、その報告を聞いた時、興味をそそられたのだ。あれほど自軍を苦しめた男とは一体どんな姿をしているのだろうと。
しかし、実際に男を眼にした時の衝撃は自分の思っていたものとは全く違うものだった。
昔、まだ国が分裂し、争い合う前。私には兄弟と言ってもいい程の仲の良い友達がいた。彼は何でも知っていて、何でもでき、私の憧れだった。彼が親の都合で遠くの町に引っ越すまでいつも一緒にいたのだ。
そんな彼は今、捕虜になって自分の眼前にいる。
どうして、どうして、どうしてと私はただ運命を呪うことしか出来なかった。

「で、何の用? 思い出話を語りに来たんじゃないだろう?」
「……君の処刑が明日に決まった」
 私はゆっくりと静かに告げた。
「ああ、そう……随分と早いね」
 彼は特に恐れも驚きもしなかった。きっと覚悟が出来ていたのだろう。私と違って。
「君を晒し者にする事で相手の戦意を完全に消失させたいのさ」
「一気に畳み掛けたいわけね。そちらさんだってもう余裕はだろうから。ところで、親父さん達は元気?」
「……いや、6年前に死んだ。私を除いて」
「そうか。お前もか。本当、嫌なものだな戦争は。昔はあんなに綺麗だった国なのに今やボロボロだ」
「……そうだな」
牢屋を隔てて、私と彼はぽつぽつと昔話を始めた。川辺で足を滑らせ、溺れた私を君が助けてくれたことや森を探検しようとして2人して迷子になったこと。
ほんの少しの間だけ私達は過去に戻っていた。敵兵同士ではなく親友として。
しかし、そんな幸せな時間も終わりが来てしまう。
「もう、そろそろ戻らなくては……」
「そっか、残念だな。けど、楽しかったぜ」
「君は……本当にこれでいいのか?」
「これでいいって、何が?」
私はここに来る前からずっと考えていた事を告げようする。
「例えばだ。例えば今なら看守は見ていない。だから……」
しかし、その先を彼が遮った。
「だから、お前がおれを逃がしてくれるってか。それでお前はどうなる」
「それは……」
 敵を逃がしてしまったら、もちろん自分は反逆者として処刑されるだろう。そんな事は分かっている。私も彼も。
「おれの代わりにお前が死ぬのはごめんだぜ」
「……私は君を死なせたくないんだ」
「なら、一緒に逃げるか。この広い国から逃げ果せる確立はあまりにも低いけどな。2人とも死ぬのが落ちだ」
「でも、何か、何か方法が」
「ないよ。考えようとしているところ悪いけど」
彼はそう冷静に私を諭した。彼は私よりずっと大人で自分が置かれて状況も理解していた。ただ、私が受け入れようとしなかっただけの話だ。
「……私は神を恨むよ。こんな残酷な運命を与えた神を」
「仕方ないさ。戦争ってのは色んなものを奪っていく。でも、おれは少しだけ神に感謝してるよ」
「え?」
「最後にお前に会えて良かった」
その言葉で私の最後の理性が破壊された。
膝を付き、喉がはりさけんばかりに泣き叫ぶ。
涙が枯れ果てるまで、私はただ泣き続けた。