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兄貴に彼女ができました

兄貴に彼女ができた。
さすがに血は争えなかった。実に俺好みの女でくやしかった。
あの奥手が一体どうやって口説いたんだろうと不思議に思っていたある日、
メイド服でチラシを配っている彼女に出会った。
なんだ、そういう店で知り合ったのかと兄貴を多少軽蔑したが、
興味があったので、店に行きたいと言ったら喜んで案内してくれた。
そこには「女装男子バー」と書いてあった。
俺は即座にそいつの性別を確認し、自分の身元を暴露した。

*********

「水越くんは、女装に慣れて外に出た時に、酔っ払いに絡まれたのを助けてくれて…。
私が女だって思ってるから…」
「そりゃ疑わないよ。声も高いし完璧だもん。でもいつまでも通用しないでしょ。
エッチしたくない男なんていないんだからさ」
「そんなことない! 水越くんは私が嫌だって言ったら何もしないもの」
「……あんた、いつの人? 明治? 大正?」
「ひどい」
「あんた、手術とかして女になるつもりなの?」
「違うから! ただ女の子の格好をするのが楽しくなっちゃっただけで……」
「じゃあ、同性が好きなんだ?」
「そういうんじゃなくて…。人間として惹かれたっていうか…」
あー、イライラする。
「兄貴と別れてよ」
「え!? どうして!?」
「どうしても何もないじゃない。あんたは男だし兄貴も男で、あんたは女になる気ない。
なっても俺は反対するけどさ」
「で…でも……」
目の前でボロボロと涙を流されて、一番人気のメイドを泣かせた俺は周囲の客に非難され、
さすがに店から追い出された。

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俺は何度か帰りに待ち伏せをし、その度に説得を繰り返した。
メイクとウィッグをとり、白いシャツとジーンズの彼は、華奢で中性的な少年だった。
俺は、「メイクがない方がいい、肌も白くてキレイだし、目もすっきりしてて、
あの小悪魔メイクはいきすぎだ」と言った。本音で言ったのが伝わったんだろう。
彼は首まで真っ赤にして俯いていた。
いじめられた経験があるから自分に自信がなかったこと。
女装をして別人格になったら、自分が変わった気がして嬉しかったこと。
兄貴は自分を大事にしてくれた初めての人だったこと。
そんな話を聞きながら、変な自分を創る必要なんかないと俺は力説していた。
「本当はね。女装してるから水越くんは自分を好きなんだって思うと、少し悲しかったんだ…」
「ありのままのあんたを大切にしてくれる人は絶対にいるって」
「そうかな」
「そう」
「うん。ありがとう」
こいつは俺の前で照れくさそうに笑う。
兄貴を傷つけないよう別れる決心がついたとヤツは言った。

兄貴は振られて自暴自棄になった。そんな様子をあいつは気にしてメールで聞いてくる。
心配はないと言っているのに、なんかむかつく。

兄貴と別れたから、もう連絡する必要はないのに、何故か俺は未だに会っている。
誰某の絵が好きだと聞けば美術館のチケットを用意するし、
遊園地に行きたいと言われれば一緒に行く。

俺といると自由に息が出来るようで嬉しいとヤツは言う。
俺は最近、自分のこの感情がなんなのかわからなくなっている。
でも、俺の前で笑う回数が増えるのが嬉しいから。

ああ、兄貴に彼女が出来たと知った時以上に、困った。困ったぞ。