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ゴリラを見に行きませんか?

ゴリラを見に行きませんか?

涼やかに吹き抜ける風がカーテンを揺らして窓を通り過ぎていくのが心地よい昼時
ベッドに上半身を起こしたヨウジはそう言って微笑んだ。
日にあまり当たらない白い肌が、申し訳程度に差した日の光にあたって綺麗に透けている
のが何だか妙にまぶしい
ゴリラってお前、そんな見るからにか弱い容姿で何言ってやがる
どうせ見に行きたいとか言うなら、もう少しなんかこう…鳥とか魚とか蝶とか…
繊細なものが他にもいろいろあんだろうが
俺がそう言い返すと

シンヤ君、ゴリラは絶滅危惧種なんですよ。十分繊細じゃないですか

ヨウジはなにやらわからないことを言い出したが、知ったこっちゃ無い
幼いころから今に至るまで、図鑑だの分厚い専門書だのを読んでばかりいるコイツの感性は少しズレて
いると俺は常々思う
いわゆるいいところの次男坊でおっとりした性格のヨウジは、幼馴染の俺に対しても丁寧に接してくる。
おかげで子どもの頃は随分とからかいの対象にしたものだ。
もっともそんな日々はヨウジの体がここまで弱るまでだったが…
そんな俺の感傷など知る由もなく、ヨウジの語りはアフリカの原生林の中で悠々と生きるゴリラを
如何にして観察するかまで発展していた。
なんでも休学している大学の先輩だか教授だかが現地にいるらしい
でもアフリカってお前、いきなり飛ばしすぎだろ。行くなら動物園あたりにしとけ、つーか目にお星さま
浮かべすぎだから、子どもかお前は
わかったよ…そのうち俺も一緒に行ってやるよ、アフリカ行ってみるんだろ?ゴリラ

俺が諦めてそう言うと、ヨウジはそれはもう喜んで花が咲いたみたいに笑った。
そうだよ、お前の為ならアフリカでもどこでも行ってやる。
…だからまだもう暫くは俺の傍にいてくれよ


あれから数年が過ぎて、俺はアフリカの大地に立っていた。

すべてはアイツとの…果たせなかった約束を果たすためだ。
俺の傍にいてくれとあの時あんなに強く願ったのに、結局ヨウジは遠くに行ってしまった。
馬鹿野郎、一緒に行こうって約束をアッサリ破りやがって



まさかヨウジがあそこまで思いつめていたとは俺も、アイツの家族も気付かなかった。
もう自分の人生がそう長くはないことを悟っていた奴はため込んでいた貯金をすべて使い
手紙だけ残して単身アフリカへ
上手い具合に現地で先輩とやらと合流した奴は、ちゃっかりそこへ住み着いてしまったらしい
まさかヨウジにそんな行動力があったとは…
しかも現地にいる間にみるみる体が丈夫になったとか、馬鹿じゃねーの?漫画かよ
『こっちの空気が体に適応したようです』
なんて手紙に書いてあったけど、普通はあり得ないから

まあ俺はお前が元気ならそれでいいんだけどな
そっと目を細める俺の視界に、待ち合わせをしていたヨウジの姿がうつりこむ
数年ぶりに見る姿はすっかり健康的に日焼けしていたけど、笑顔はそのままなのが妙に眩しかった。

さあ、約束通り見に行こうぜ…ゴリラ