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お道具。

幼馴染が大学に合格した。
とても喜ばしいことだとわかっているけど、どうしても本心から喜んであげることはできなかった。
地元を選んだ俺とは違い、あいつの志望大学は隣の隣の県。
ここから通うには遠い距離で、受かれば一人暮らしを始めると屈託なく言い出したときには、
言葉に詰まって体当たりでやりすごした。
引越日は今週末に迫っており、今日は片付けの手伝いに来ている。
通いなれた隣家の部屋は、もうひとつの自分の部屋のようだったのに、ダンボールがひとつ増えるたびに
余所余所しさを漂わせていく。
体の中がどんどん重苦しくなっていくのを無視して、普段どおりの態度でひたすらに手を動かした。
「ここも適当に詰めていいよな?」
「あー、頼む。ちょっとガムテ取ってくる」
階下へと遠ざかる足音を背に、俺はここぞとばかりに深く深くため息をついた。
のろのろと押し入れの中にしまわれていた衣装ケースや、積まれていた本を少しずつダンボールに移し替えていると、
奥の方に懐かしい色をした箱があった。
小学生のときに粘土や絵の具などをしまうのに使った、お道具箱だ。
その古びた箱を取り出すと、留め金が壊れていたのか、蓋だけ残してすべて落ちてしまった。
「あっ……」
畳に散乱する、様々な小物。
紙粘土で作ったゾウ、色紙で作ったワッペン、流行っていたキャラクター柄のシャープペンシルにノート、使い古した筆箱。
版画の絵や、割れたCDまである。
それらの全てに見覚えがあった。
それらは全て、俺があいつにあげたものだった。
足元に転がっていた、不恰好に半分に切られた虹色の消しゴムを手に取る。
これは低学年の頃、筆記用具を忘れた幼馴染に、はさみで切って譲ったものだった。
多彩な消しカスができるのが楽しく、とても気に入っていたのでよく覚えている。
散らばったものをひとつひとつ箱に戻すたびに、怒涛のように思い出がよみがえってきて、目頭がカッと熱くなってきた。
マズイと思ったときには、ダダダダダダと階段を駆け上がってくる足音が響いた。
「押入れは……っ!」
惨状を認識して、しまった、というバツの悪そうな顔をした幼馴染と目が合う。
ごまかしようのない状態の俺を見て、幼馴染はすっと表情を消した。
いつもどおりの自分で、なんでこんなもの残してんだよって、笑って言おうとしたのに、口がうまく動いてくれない。
喉の奥が痺れて、何も言葉がでてこない。
こんなのはあいつが困るのに。どうってことないフリをして、最後まで笑って見送るつもりだったのに。

ようやく喋られるようになっときには、零れた涙は抱きしめてくるお前の腕が痛いからだと言い訳をした。