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地獄に落ちろ

私のろくでもない…いえ、少々お口がよろしくないご主人様は、いつも決まって「地獄に落ちろ」とおっしゃいます。
人を呪わば穴二つという言葉くらいご存知でしょうに、まったく困った御方です。
ほら、また泣きそうな顔をして走ったりして…転んだらどうするんです、怪我をするようなものなど置いていませんが。
「おい、ピーター!」
いつもの時間、いつもの場所から私の所へ走っていらしたご主人様は、いつものように勇ましく叫びながら
私の目の前でお躓きになりました。
もちろん、私めはご主人様のお体を優しく抱きとめて立たせて差し上げます。
「はい、ご主人様。おやつの時間でございますね」
恭しく礼をする姿は、我ながらよく出来た執事だと思うのですが。
顔を上げればご主人様は可愛らしいほっぺたを林檎色に染めて仁王立ち、それがお約束でございます。
「ピーター、貴様は地獄に落ちろ」
「またそれですか。畏れ多くも申し上げますが、三十路を過ぎた紳士が
地獄に落ちろはいささか幼稚かと思われます」
「うるさい、黙れ!執事は主人の命令を聞くものだろ」
「ですが、地獄に落ちるとご主人様のお世話が出来ませんよ」
ここでぽかすかと可愛らしいパンチが飛んで来るのが常であるため、私はご主人様の手を傷付けないよう
受け止める準備を致しました。
しかし、今日はご主人様のご様子が違います。
何やら真面目なお顔になられて、
「…俺はどうせ地獄に落ちる」
などとおっしゃるではありませんか。ああ、本当にあなたは可愛らしい御方です!
「ご主人様」
私が呼ぶと、ご主人様は決まり悪そうに私を睨み付けました。
そんな表情も私を喜ばせるだけだと、あなたはご存知ではありません。
ですので、私はご主人様の耳元で優しく優しく、まったくもって優しく囁くことに致しました。
「…ご主人様、どうせなら一緒に天国へ参りましょう。
天国に行けば毎日沢山、おなかいっぱいアップルパイが食べられますから」
「こっ、子供扱いするな!地獄に落ちろ、今すぐだ!」
今度こそぽかぽかと殴られましたが、ご主人様のお顔はやっぱり林檎色ですので問題ないでしょう。
そろそろオーブンを止めないと本日のおやつが焦げてしまいますが、
どうかお許し下さい。あなたの傍を離れないこと、それが私の使命ですから。