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単身者用の引っ越しコンテナを、業者はあっさりとトラックに積んで行ってしまった。
「終わった終わった。すまんな、手伝いまでしてもらって」
先輩が大きくひと伸びして、頭に巻いたタオルを取る。
「いえいえ、俺運んだだけですから。掃除はもう先輩が済ませてましたし」
「バイト終わってからわざわざ来てくれた後輩に、そこまでさせられないよ。
 それに俺ももう暇だったしな……あーあ、大学生活もこれで終わりかぁ」
「お疲れ様でした。先輩が残してくれた歴代の過去問とエロDVDは、
しっかり後輩に伝えていきますんで」
「おう、任せたぞ……って、なんかもうちょっとないの、俺の功績」
笑いながら、先輩は
「じゃ、行こうか、もちろんおごるからさ。お世話になります」
と、俺を促した。
鍵と菓子折を1階の大家さんに渡し終わると、この町に先輩の居場所はなくなる。
明日、田舎だという地方都市の実家に4時間かけて帰る先輩は、今夜は俺の部屋に泊まるのだ。

焼鳥屋で飲みながら話した。研究室もサークルも一緒だった先輩とは話が尽きない。
あの教授の酒癖は勘弁、とか、後輩の誰某は彼女と別れて今度は1年生に手を出してる、とか、
学内の桜並木がもう咲き始めていた、とか……毎日していたような、他愛もない話。
先輩もいつもと変わらず、落ち着いた飲みっぷりで楽しそうにしている。
「──どうぞ、入ってください。……俺んち、初めてですね」
「うん、そういえばそうだなぁ。お前は俺の所よく来てたのにな」
終電にはほど近い時間で俺の部屋に着いたときも、ほろ酔い加減で笑ってた。
もうちょっと飲むか、と買ってきたビールを並べる。
しばらく飲むと、さすがに疲れが出たのだろう、先輩の頭が揺れ出した。
「……4年なんて……あっという間だな」
「俺も、3年なんてあっという間でしたよ」
「ちょっと眠いな……もう寝ていい?」
「シャワーどうぞ。今日汚れたでしょう」
「悪いな。じゃ、ありがたく」

先輩の姿がユニットバスに消えると、押さえつけていた緊張で強烈に目眩がした。
俺の前から明日はいなくなるのに、先輩はいつもの先輩のままだ。
何故だ。理不尽だ。俺は耐えられない。先輩、あなたはどうなんだ!?
……俺の気持ち、知ってるんでしょう?
声にならない声で、唇が震えた。俺の中に、嵐が吹き荒れている。