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また流される

浮気した。すぐバレた。
「怒ってないから」
恋人はいつもの優しい顔をして、話し始めた。けれど伏せた目の中に悲しそうな影が落ちている。
「だた俺は、お前がそんなことするなんて思ってもみなかった。自分のしたこと、もう一回ちゃんと考えてくれ」
そういう弱弱しい表情を見たことがなかったので、胸が痛くなった。
「もうしないよな」
呟くように言われたのに、頷いた。その日の夜にまた、浮気した相手に会った。
もう会うのはよそうと話した。
「嘘とか隠し事して付き合うのは、やっぱりだめだ。よくない」
きっぱり言うと、相手が笑った。
「嘘ついてるじゃないですか」
意外な言葉を返された。唖然としていると、なおも笑いながら言う。
「先輩、嘘つきじゃないですか。引け目で、無理してるじゃないですか」
体が凍った。
完璧な、誰からも好かれる、そんな人の恋人に選ばれて、嬉しくて、釣り合うようにとなんでもした。そうすることが、好きだということと思っていた。
それは、無理していただけだったのか。恋人のつもりが的外れな独り善がりをしていたように感じて、ぞっとした。しかし相手は、まだやめない。
「なんで先輩が浮気したか、聞こうともしねえで、浮気は悪いから、先輩が悪いでおしまいなんすか。馬鹿じゃねえの。そいつ」
顔は笑っているが、吐き捨てるような口調になっている。もう聞くのが怖くなって思わず遮る。
「お前こそ、嘘つきのくせに」
けれど出た言葉は自分でも思ってもみなかった。
「俺のこと、好きなんかじゃないだろ」
「好きっすよ」
今度は相手が驚いたような顔をしている。自分も混乱しているが、止まらない。
「俺があいつと付き合ってるから、あいつに張り合いたくてこんなことやってるくせに」
「先輩そんなこと思ってたの」
急に抱きしめられた。
「おれは嘘なんかつかない。好きっすよ。不安になってるならちゃんと教えてあげますよ、先輩のこと好きだって。おれがどんくらい好きか、ちゃんと」
言われながら、もがいた。無理にキスをされる。嘘だと何回も言った。
言いながらも、もう考えられなくなっている。考えることをやめたい。考えたくない。
抱き合ってしまいたい。少なくとも抱き合っている間、相手を優しく抱きしめている行為には嘘も打算もない、本当だ。本当のことだ。