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元ヤン

はじめて担当を任されたタレントは、信じられないくらい綺麗で、信じられないほど俺様な元ヤンのアイドルだった。
「野村あ、タバコ切れんぞタバコ」
「あ、またそんな…!一応平成生まれの未成年アイドルなんですから、喫煙してるとこなんか撮られたら…」
「とっくに成人した昭和生まれだっつーの。ガタガタぬかしてねーで、火」
クイッと上向きにくわえられた最後の一本に、胸がドキリと高鳴る。
白いフィルターのすぐ先には、薄く色づいた唇と陶磁のような白い肌。
見上げているのに高見から見下されてるような威圧感をもった鋭い視線。
この目に睨みつけられて、逆らえる人間がいるのだろうかと、思ってしまうくらい俺は目の前の彼に骨抜きにされてしまっている。
「しゃ、社長がご覧になったらなんて仰るか…」
「その社長命令。お前と2人の時は羽伸ばしていーってよ」
喫煙者でもない自分が持ち歩く安ライターで点火されたタバコと、彼の口から細い煙が吐き出される。
切れ長の凍てつくような目が、ニヤッと悪戯っぽく細められた。
「あの人はどうしようもねえ俺を拾ってくれた人だからな。何があってもあん人の指示に従うだけだ。俺はな」
彼に作りものではない、こんな柔らかな表情をさせる人間は自分の知る限りこの世に一人しかいない。
どんなに尽くそうが、どんなに彼に従順であろうが、この表情が俺に向けられることはないのだろうか
一番近くにいながら渦巻く感情が常に我が身を刺す。
スーツを着ている間しか、仕事と割り切れない未熟さに情けない気持ちでいっぱいになった。
俺の部屋の、俺のベッドを占領するこの極上の商品が、俺の手に入る日はきっと一生訪れない。